3話 その男、レイワ侍
「ラートとインキュバスには、船に残ってもらう。
危険な仕事は男がやるもんだ。女性を危険に晒すわけには行かない」
シャインがラートとインキュバスに言うと、インキュバスは、「あのそもそも私に名前つけてもらって良い?私はあの時インキュバスって名乗ったけど、」
シャインは咄嗟に「りん」と名付けた。
ラートとイザルは、「命名早すぎだろ!」と驚きの表情を見せていた。
そしてシャインは続けた。
「とにかく、りん、君には船で待機してもらいたい」
「私の種族はインキュバス、空も飛べて、そして強い毒耐性と、解毒術を持っている。
それに、私イザルと一緒にいたい」
イザルはキョトンとして言った。
「え!?俺」
「だから…ね!私も一緒に連れてって」
シャインは「やむを得ない!だが、怪我とかしたら自己責任だからね!」とりんに言った。
こうして、3人はリュックサックに様々な荷物を詰めたあと、ヨーデス島の浜辺に辿り着いた。
浜辺には魔獣や野獣、食人昆虫などありとあらゆる敵がいた。
「うひゃあああ」とシャインが怖気付いていると、「ここは、私に任せて」とりんがしゃがみ込んだあと、口から毒気を放出した。
次々と魔獣野獣、食人昆虫が倒れた。
「少し疲れたわ」と息を吐いた。
「こんなものしかないけどさ」シャインは、自作のラベンダージュースを渡した。
「なんか、毒気が回復した気がする」
イザルは「これがプラシーボ効果か」と呟いたが、シャインは「それは違う。」と答えた。
「ほう」とイザルは、言った。
「通常のラベンダージュースにはリラックス作用や胃腸トラブルの緩和やストレス緩和に最適だが、そのラベンダージュースは一部毒草もブレンドしてある。
インキュバスの生態について書かれた論文を船の中で読んでたんだ。
そこに記されていたのは、インキュバスは、毒素をエネルギーに変換できる器官が存在することが記されてあった。
しかし、毒草は、えぐみや苦味が強いため、美味しくリラックスして楽しく栄養補給ができる完璧な・・・」
「なげえよ!」イザルとりんが突っ込んだ。
そして、3人は地図を見た。
イザルは地図を読みながら
「ミルドバ山脈を越えた先にある地下迷宮にある…と書いてあるのが読めるな」
「そんな文字はどこにも書いてない、
あるのは、よくわからない記号だけだぜ?」とシャインは言った。
イザルが話し始めた。
「失われた古代文明、そしてこの文字はヴァラダス文字だ。
まぁ、ヴァラダス文明について書かれた書籍の殆どはこの世界に数えるほどしかないから、もし、ヴァラダス文明について知りたいなら今度時間がある時に聞かせてやる。
・・・シャイン、お前は船で待機してたほうがいい。
ミルドバ山脈は酸素濃度も低いし、お前が生きて帰れる保証はない。
りん、お前もだ。」
「おい、ここまできて勝手なこと言うなよイザル。
大体そういうお前は何ができる?」
「神術…貴様らに何を言っても信じないかもしれないが、俺は神の言葉を預言したり、神の素で修行を何十年間もしてた。」
「・・・イザル、それでも俺は行ってみたい。リスクを取らないのが最大のリスクだって、国王も言ってた。
それに、俺はここでの経験を糧にさらに成長して、いずれは世界中の民を救えるようになりたい」
沈黙が続いた。
そして、イザルは笑顔で言った。
「みんなで行こう!」
イザルが標高10000メートルの山脈に向かって歩き出して、シャインとりんもそれに続いて歩き出した。
山頂まであと9000m
吹雪と低酸素状態が続き、シャインとりんは、今にも倒れそうだった。
「つ、疲れた!!!」シャインが一番最初に根を上げた。
「言わんこっちゃない!ところでりんは、大丈夫なのか?」
「正直羽根がクタクタ。
これ以上飛べない。」
3人がぐったり倒れてると、3人の姿に向かって走る長い耳の女の姿が見えた。
「ラート・・・」
ラートの手元には、3人に向けたマフラーとコートと毛布があった。
「シャインもりんもイザルも魔力の力でこんな山脈越えようなんて無茶して・・・だめだろぉ…」
シャインは、泣きながら、ラートを抱きしめた。
「ダメじゃないか!こんな危険なことをしたら!」
「ごめん、でもシャイン、実は魔法少し覚えたんだ」
「やってみろよ」とシャイン。
「まずは、テントを立てて」
シャインは、バッグからテントを取り出して、組み立てた。
「ホカホッカ!」
テント内だけ25度と大変過ごしやすい温度となった。
「うおおおおおあったけえええ」
「私道中、この魔法で何とか登り切ったの。
もし、寒くなったら私を頼って」
3人は、「ありがとうございます!」とラートに頭を下げた。
こうして、携帯食料を3人は食べ、その日はテントで寝た。
翌日も山頂に向けて、4人は走り続けた。
ラートはハーフラビットという種族上足が早く、りんはインキュバスという種族だけあって、飛空しながら山頂に向かう。
神術を得ているイザルは、どれだけ走ろうと息切れさえしない。
だが、肝心のシャインは息切れをしながら走ってる。
「ま、待ってくれ…
みんなはええええよ!」
シャインがみんなより遅いペースで山頂へと向かう。
それを見かねたりんは、シャインを背中に乗せる。
「えっ、待って、乗せてくれるの!」
「私の背中に乗せてあげる。だけど謝って欲しいことがあるの。」
「なんだ、言ってみてくれ」
「ラートとインキュバスには、船に残ってもらう。
危険な仕事は男がやるもんだ。女性を危険に晒すわけには行かない、こういう発言は良くないと思う。
もっとフェアにいきましょう」
「うむ!わかった!ごめんなさい」
「素直でよろしい」
ラートはカンガルーのように跳ねながら、山頂へ向かった。
イザルは、先頭に出て、剣術や武術で敵を倒していく。
そしてりんも敵が現れたら指先から毒魔法を放ちながら進んだ。
こうして、右往左往ありながら、なんとか4人は山頂にたどり着いた。
「やっとたどり着いたわね」
山頂には小屋があり、疲れ果てた4人は小屋に入ろうとしたが、小屋には、人影があった。
「貴様ら、何者だ」
小屋の主らしき者が尋ねた。
小屋の主らしき者は長髪で、ボサボサの髪をしていて、ボロボロの着物を着用しており、侍は鍋にイノシシを煮込んだ鍋を炊いていた。
「我が名はレイワ・人呼んでレイワ侍・・・
私は長年、ここで隠居をしながら剣術を磨いてきた。」
シャインは、剣に目を向けると、それはマリミアの国で見かけない、とても鋭い刃に心を奪われた。
イザルは口を出した。
「我々は秘宝を見つけるためにこの島に訪れたが・・・もしかして、これは"ヤマト"の国の刀かな」
「妖刀ムラサマっていうんだ。
他にも色々刀はある。獣の魂を宿した獣刀の猛虎、しかし、俺はどうしても欲しい剣がある・・・!しかしどうしても"オロチ"には敵わないんだ。」
「天叢雲剣、通称草薙剣」
「そう、俺はこのクサナギが欲しいがために、あいつに勝つために何十年も修行をした。気がつけばもう38歳だ!」
「その割に随分若く見えるな」
「そうか・・・そういえばお前さんよ」
レイワは、イザルの剣に目を向けた。
「お前も剣士なのか」
「そうだ。だが、この剣は刀と戦うことを想定して作られていない。
そのため、君ともし剣舞を競うなら、一本借りたい」
「良いだろう。まいったと言った方が、負けだ。」
「シャイン、ラート、りんお前らは少し下がっておけ」
レイワは、猛虎を手にし、イザルは、桜と呼ばれる大太刀を手にした。
「良いのか!桜は、剣の中でも一番扱うのが難しい。
お前のような素人には扱えないのは、目に見えてる」
「それはどうかな」
レイワとイザルは小屋を出て、向かい合ってお辞儀をした。
「猛虎の乱!!!!!」
イザルの眼前に大量の虎が襲ったように見えた。
イザルは、妖術で桜の木を具現化し、ガードした。
「まだだ!」
「こちらの番だ!」
イザルは、桜吹雪の踊りを行った。
すると、イザルの持つ刀の刃から桜の花びらが舞う。
そして、その花びらが、一本、氷柱のようになりレイワの腕に向かって飛んだ。
レイワは、花びらを避け、しゃがみ込んだ。
「参った、お前はヤマトの国のものか」
「俺はヤマトの者ではない。
だが剣術は師匠との修行によって習得した」
レイワは、急に態度が変わり、4人に猪鍋を奢った。
そして、レイワは、頭を下げた。
「俺どうしても、クサナギが欲しいんだ!
だから協力してくれ」
4人は「じゃあ仲間に加わってくれ」と言うと、レイワは、仲間に加わった。
ある程度食べ終わった後に、レイワは、言った「この近くに温泉がある。食ったら入ってけ」
りんと、ラートは目を輝かせて「じゃあ!」と言い、2人は温泉に向かった。
そして、レイワは、立ち上がり「さて、剣術の修行でもしようかな」と剣を持たずに、小屋をでた。
シャインとイザルは目を合わせた。
「もしかして」
「もしかするかもな」
案の定、レイワは、二人が温泉に入ってるところを覗いていた。
「この変態が!」イザルとシャインがレイワにゲンコツした。
「ゥゥゥゥウウウウ…」
その後2人が上がった後、シャインたちも温泉に浸かり、その後はレイワ特製の珈琲牛乳をいただき5人は寝た。
こうして、5人は5日で山頂を下り、地下迷宮にたどり着いた。
地下迷宮は人食いコウモリやミイラ、手足のついたワッフルのワッフルおばけに、ウェアウルフまでいた。
そして、地下2階で、シャインはあるボタンを発見した。
「2から10なんだこれ」
イザルは答えた。
「エレベーターだな!地下10階まで行くぞ!!!」
こうして、5人は地下10階までエレベーターで降りた。
「おい、シャイン」レイワは、太刀を一本渡した。
「そろそろお前の魔力も限界だろうし、火縄銃だって、あの標高じゃ使い物にならなくなってるだろう。
この剣にはあらかじめ妖術を宿してある。」
「ありがとうレイワ侍」
「おう」
そして、一本道を進むとそこに腹部まで伸びている髭の生やした筋骨隆々高齢者がいた。
「我が名はワーナド。宝を求めてきたんだろう。
私は、宝の門番、わしを倒してから」
言い終わらないうちに、シャインはワーナドの腹部にパンチした。
「宝を与えよう・・・」
「いや、弱すぎるだろ!」とラートがツッコミを入れた。
ワーナドは、宝のありかまで5人を案内すると、そこには、宝箱があった。
鍵のかかってない宝箱を、シャインが開けると、そこには、手のひらサイズの鉱石があった。
透明でクリスタルを彷彿とさせる、この鉱石の光は地下迷宮を照らすほどであった。
イザルは言った。
「これは、エルル・ヴァラダス、意思を持つ石と呼ばれる石・・・
やったじゃん!シャイン!」
「ふひひっ、でも、俺の冒険はここで終わるつもりはない。
ヤマトに行く。
そしてヤマトの文明を知る」
こうして、エレベーターを使い、地下迷宮を脱出した。
そして、5人は浜辺にいた。
「あの山脈戻らないといけないのか…」とシャインがこぼすと、レイワは「その心配は、無用!」と言う。
レイワが指笛を鳴らすと、全長15メートルほどの大鷲が、きた。
「俺たちを船まで乗せてくれ」と言うと、大鷲は、5人を背中に乗せ、シャインたちの大船に向かって飛んだ。
こうして、船にたどり着いた5人は、船を漕いでヤマトまで向かった。