1話 シャインの旅立ち
ロルムは、28歳で、哲学者であった。
人間やエルフ、ドワーフやホビットのような種族が言語を用いるようになってから、コミュニティが村となり、そして村が国に発展しようとした時、賢者達は、国の発展のために何が必要かの議論が行われた。
ある者は音楽、あるものは狩猟のための多数の武具、そしてまたある者は資源や、神に対する信仰心という意見が出る中、ロルムは"道徳心"であることを政治家や哲学者に伝えた。
そしてロルムにとっての理想国家、強き者が弱き者を助け、みなが平等な社会を築き上げることが国の発展には欠かせないといった。
ロルムは、カルマ(徳)の概念を広めるための教えを、説くとロルムの言葉に耳を傾けるものが多数いた。
ロルムには弟子も増え、そして、小さなコミュティであったこの村に移民も増え、そしてあらゆる民族を受け入れ続けた結果、一つの国家「マリミア」となった。
そんな中、1人の17歳の少年のシャインは、幸せだがいつかは、未知の世界を知るため旅立とうと考えていた。
シャインは商人として優れた才能があり、近隣国や近隣の島から安く買ったオリーブや小麦粉を少し上乗せした価格で売ることで多額の利益を得ていた。
その金で大型の船を買い、武器や食料、そして大量の本や魔術、呪術、武術を習得し、旅の準備を済ませた所から、この物語は始まる。
シャインは旅立ちの日の前日、近所の図書館に本を返しにきていた。
「今まで、利用してくれてありがとうね。」と館員のマルシャワが言った。
「良いって。それより、新しい香辛料のマフルカ、もう使ってくれた?」
「うん。パンに混ぜてみたんだけどとても美味しかった。」
「ありがとう。旅から戻ってきたらもっと貿易ルート広げて、色んな調味料や色んな料理食わせるし、もっとこの国の文化に俺は貢献するよ」
「ありがとう・・・」
マルシャワは涙を流した。
「おいおい、どうして泣くのさ、マルシャワ」
「生きて帰ってきてくれる?」
「そのために武術、呪術、魔術を特訓してきたんだ」
「この広い世界には魔獣もいるし、それに・・・」
「マルシャワ、俺はまだ17歳。頭もいいわけじゃないし、俺はロルムにはなれなかったし、オヤジのような政府の人間にもなれなかった。
だからこそ、俺は旅に出るんだよ。」
マルシャワは、小さな袋に詰めたクッキーをシャインに渡した。
「シャインが届けてくれた香辛料で作ってみたの。食べてみて」
「ありがとう・・・マルシャワ」
10年前
シャインは、畑仕事もしないで、1人で本ばかり読んでいた。
シャインは、周囲の子供たちとも馴染めず、また農作業も行わず、ただ青空の下本ばかり読んでいた。
そんなシャインにある少女が本を渡した。
「この本・・・面白いよ」
15歳の少女マルシャワは15歳という若さで図書館の館員として働いていた。
そしてマルシャワが渡した本は、200年前に書かれたある冒険家の航海日誌である。
「ありがとう、君の名は?」
「あたしは、マルシャワ、君は?」
「俺はシャイン・トトナ」
「シャイン、図書館来てよ。オススメの本いっぱいあるから」
こうして、シャインは、マルシャワの勧められた本を読んでいくうちに様々な学問を学ぶことの楽しさを覚え、そこからは商売のことを学び、学んだことを活かすため、14歳という若さで様々な貿易事業に取り組んだ。
しかし、貿易ルートは、近隣の村や国に限られていた。
マリミアは、資源も豊富で文明も栄えており、冒険家や探検家は一向に現れず、殆どの者は国内での労働に従事していた。
シャインは、航海日誌を読んだその時から、冒険の計画が脳裏に浮かんでいた…
そして、現在に至り、その当時のことを思い出したマルシャワがシャインに言った。
「少しだけ後悔してるのよ」
「何をだ?」
「航海日誌を渡したことをね」
「多分あなたが航海日誌を渡さなくても俺は旅に出るぞ。
だって、俺親父のようにこの国に貢献したいから、親父とは違う形で、この国に貢献するって決めてる。
でもマルシャワ、今まで色々ありがとうな
俺絶対生きて帰ってくるからさ、
じゃあな」
シャインは図書館を後にした。
そして、その晩、シャインの航海前夜ということで、国王がパーティーを開いてくれた。
貿易の効果によって、多少なりともマリミアの経済に貢献した国王とは、縁があった。
しかし、そこにシャインの父の姿はなかった。
シャインの父は、自分とは違うやり方で国を動かそうとしてるシャインのやり方には賛同はしてないが、国に貢献してることは事実であり、シャインの行動に口出しできないでいた。
また、シャインの行動を力づくで止めようとした時期もあったが、シャインは10歳という若さで魔法を習得していたため、シャインの父では歯が立たず、父は育児放棄をしていた。
またシャインの母は、シャインの父の暴力や暴言に耐えかねて、離婚している、そんな家庭環境だったからこそ、シャインは同年代の子供たちとは比較にならないほど優れており、国もシャインの旅立ちに協力する方向であったが、シャインは国財ではなく100%私財で旅に出たいという気持ちが強かった。
国は、シャインの意向を尊重し、せめてもの思いでこのパーティーを開いたのだ。
しかし、このパーティーでさえもシャインは国民に料理を振る舞ったり、時には武芸を披露したりした。
そして、国王と、シャインは、ブドウジュースを飲みながら会話をした。
「シャイン、君が帰国したら、王としての座を譲りたい」
「国王、私は1人の商人であり、哲学好きの一般市民です。
でも帰国したら貿易ルートを広めたり、領土を広げたりと、国の発展に貢献できたらいいなと考えてます」
「シャイン、君のような国民がいてくれて、我が王としても誇りが持てる」
「デュフフフフ、ありがとうございます」
「なんだ、その笑い方は、君は面白い笑い方をするね」
「デュフフフフ、それはどうも!それでは僕はこのパーティから失礼するよ」
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「明日の航海が早いので…」
シャインはパーティ会場を後にした。
翌日、シャインは船を漕ぎ出した。
小さなコンパスを頼りに、帆を張った船の舵輪をシャインは操縦する。
シャインは旅先で誰も犠牲にしたくないという気持ちから、船員を1人も雇わなかった。
1人で船を動かすのは想像以上に大変で、船を動かすための魔力も大量に消費する。
1日100km進めばいい方で、10kmも進まない日もあった。
そんなある日のことであった。
クラーケンが船を襲い、船は倒壊し、クラーケンの攻撃により、シャインは気を失い、そのままどこかの島へと流れていった。
・・・
「目覚めたのね」
シャインが目を覚ますと、誰かの家の中にいた。
「私はラート、砂浜で倒れてたあなたを見つけたの」
ラートと名乗った女の耳をよく見るとウサギのように大きく長かった。
「耳・・・」とシャインが言うと、「私たち、人間ではなく、ハーフラビットなんです。」
「そして、この集落も、ハーフラビット族の集落なのですが、エルフ族に管理されてます。
そして集落にいるものは、迫害を受けたり他国に労働力として売られたり、時に食べられたりしてます。
ですが、いつか神様が救ってくれると思ってるので、私たちは希望を捨てずに生きていけます。」
「神はいねえけど、俺ならいる。」
ボロボロの体のシャインは言った。
「あなた・・・優しいんですね」
「俺は無能だが、優しさだけが取り柄なんでね」
翌日、シャインは身支度を整え、エルフ村に行った。
「貴様、よそ者か」とエルフの兵がシャインに言った。
「俺はシャイン、マリミアから来た男です。
私は、マリミナの発展のため、様々な国を旅している者です。
いずれは」
エルフの兵は、いきなり、シャインに殴りかかった。
「不法侵入だ!皆の衆!矢を向けろ!」
エルフの大群が、シャインを襲おうとしたが、
「待ちたまえ」と村長がエルフの大群を止めた。
「国の発展のために力を借りたい」と村長は、村長宅にシャインを招いた。
「シャインくん、私はハーフラビットを解放したい気持ちで山々なのだが、どうにもこうにも資源が足りなくてね、狩猟でなんとか凌いでるのだが、どうにもうまくいかない」
シャインは自分のポケットの中にあるイネの種を見つけた。
だいぶ水に濡れているが、これしかないとシャインはイネの種を渡した。
「これは、イネの種です。育てた稲穂を刈り取って、脱穀したら主食となります。
ただ、これが育つまでには時間がかかります。
その間に僕が狩猟や、貿易ルートの確保、並びに農耕器具の開発で、村の発展に貢献します。
ただし、その条件としてハーフラビットを解放してください」
「うむ、君の言葉を信じよう」
こうして、ハーフラビット解放後、エルフ村の開拓アドバイザーとして迎え入れられたシャインは国の発展のために、農業の仕方を教えたり、時に狩猟を行なったり、農耕器具の開発をおこなったり、また文化の発展のために数字の概念を伝えたり、またロルムやロルムの弟子たちが語り継いだ哲学を普及させた。
1年後、国土は広がり、ハーフラビットはエルフと対等の立場になった。
「シャインさん、なんとお礼を言ったらいいのか」村長は言った。
「いいんだ、それより、俺は新天地に旅に出ようと思う。船を作って欲しい。
そして、船には食糧を積んで欲しい」
「わかった!」
そして、船出の前日、ラートがシャインに近づいた。
「本当にありがとう、あたし、シャインについて行きたい・・・」
「・・・ここの国にいた方がいいかもしれないよ」
「でも、シャインさんのように、冒険の旅に出てみたいの」
「ラート…来る者拒まずだ、一緒に行こう」
船出当日、食料と武具を詰めた船に乗ったシャインは、ラートを乗せて西に向けて、舵輪を回した。
5日ほど経った頃、かつてシャインたちがいた国に、黒船が向かっていくのが見えた。
「一旦戻ろうラート」
「うん…」
胸騒ぎを感じたシャインは舵輪を大きく回し、エルフ達のいる島に向かった。
こうして、村に戻ってみると、一角獣であるゴブリンたちによってエルフやハーフラビットが迫害されていた。
「お前らやってんだ!
ラート、船に戻ってろ」
500体ほどのゴブリンが一斉に、シャインを襲う。
シャインは武術で次々とゴブリンたちを倒していく。
しかし、ゴブリンたちに歯が立たない。
ゴブリンたちの一時撤退後、シャインは火縄銃を発明し、村長に火縄銃の設計図を渡した。
「これで、ゴブリンたちを追い払えるはずだ」
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
こうして、胸を撫で下ろした、シャインとラートの船は再度西へ向かっていった。