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神は困惑した

作者: 和田好弘


 神は困惑していた。


 異世界転生。そんな話を持ちかけられ、試しにやってみよう、と、地球の神と意気投合し、こうして行ってみた。


 主導は地上の人間たちだが、それをそそのかしたのはほかならぬ神だ。


 というのも、神の管理する世界では自らを不老不死化し、魔王を名乗ってやりたい放題している変態がいるためだ。


 そう、変態だ!!


 全裸に赤い蝶ネクタイ、白いハイソックス。極めつけは死刑囚が死刑台に運ばれる直前まで被せられるような布袋を被った恰好で、股間の一物をブルンブルンさせながら超大な魔法を自在に操る、まごうことなき変態が!


 しかもどういうわけだかそんな変態を崇める、これまた変態が集まり魔王軍などというものを作りあげて、すでに世界の半分を支配している有様なのだ。ちなみに、女性は褌を着用することが認められている。女性は腰を冷やしてはいけないという配慮からだ。


 なんなのだこの状況は!?


 ちょっと神々の円卓に呼ばれ、10年程留守にして戻ってきたらこの有様である。神は怒りのあまり変な叫び声を上げてのたうち回った。


 かといって、その怒りのままに神が気軽に神罰を落とす訳にはいかない。


 そんなことをすると神罰の一撃が岩盤をも貫き、あらゆる生物が絶滅するほどの大災害となってしまう。


 そもそも神罰とは文明リセット用の権能なのだ。気軽に使えない。


 そんな折、神の管理する世界の惨状を知った地球の神が、やたらとワクワクとした様子でこの話を持ちかけて来たのだ。


「代わりに、そっちの世界で君のお気に入りだったのに不遇の死を遂げた子をこっちで転生させるよ。大丈夫、不遇な有様にならないような家庭に生まれるようにするから!」


 ……地球の神はどこまでこっちのことを知っているんだ?


 神は胡乱に思った。


 目に掛けていた娘がひとり、野盗から逃げている最中に、転んだネズミが発端となってはじまった連鎖落石に当たって命を落とすとか、非常に不運(ユニーク)な死に方をしたため、神も少しばかり消沈していたのだ。


 かくして、神は地球の神の口車に乗った。


 異世界転生。


 これは神々が自身の世界を運営する上での救済措置のようなものだ。


 威力が馬鹿げ過ぎて使うに使えない神罰の代わりに、神罰執行代行として彼、或いは彼女を地上に顕現させることができるのだ。


 しかも世界を移動させるため、不便が無い様にという名目の下、それこそいま暴れまわっている魔王に匹敵する力を付与することだってできる。


 もちろん、それはいつでも剥奪可能であるため、例え裏切られたとしても安全面はバッチリだ。


 ということで、神は地球から送られてきた魂と交渉(?)をしているのだが……。


 神は彼女の願い、求めるモノに困惑していた。


 いわゆるチートスキル、それを彼女に与える予定だったのだが――


「本当にそれで良いのか?」

「はい。問題ありません。夢だったんです!」


 神は増々困惑した。


 ゆ、夢? これが? えぇ……。というか、これでは困る。私が困る。魔王を始末して欲しいのだ。こんなんじゃどうにもならんだろう! ――仕方ない。


「う、うむ。良かろう。ではその力を授けよう。で、他に望みはないか?」

「はい? あの、願いはひとつでは?」

「そうなのだが、お主の為に用意した力がまだあり余っておるのだ。それを無駄にすることもないだろう?」

「な、なるほど。確かに巷で流行りの異世界転生ものからしたら、しょっぱい能力ですもんね、これ」


 しょっぱいというか、訳が分からないのだが、お嬢ちゃん。一応召喚なわけだが、自分で召喚物を用意しなければならぬし、召喚したとしても存在していられる時間が3秒のみとか、なんの役に立つのだ!?


 神の内心はもう困惑の極みにある。


「では、頂いた私の能力を拡張というか、付随した力をください」

「うむ。なんでもいうがよい」

「召喚物をストックしておける、専用アイテムボックス的なものをお願いします」


 ……は?


「それは、普通のアイテムボックスでよいのではないか? 幾らでも物品をいれられる異空間倉庫で」

「なんでも入れられるとなったらロクなことになりません。私なんか騙されて、良いように使い潰されて終わります。ですが、ソレだけがいくらでも入れられる能力ならなにも問題ないんじゃないかと」


 げ、現実的だな。いや、現実的なのか? 本当、なんなんだこの娘。地球人ってこんな感じなのか?


 神の困惑は留まるところを知らない。


「うむ。ではその能力を。……他に望みはないか?」

「え?」

「まだ余っておる」

「あ、はい」


 そんなこんなで神は少女……いや、三十路から少女となった彼女と話し合い、やっと全ての能力が確定して彼女を送り出した。


 神は頭を抱えた。


 なんでこうなった。これで魔王(変態)を討伐できるのか? まったくもって不安しかない。


 いやそれよりもだ。


「なぜ金盥(かなだらい)なんだ?」



 ★ ☆ ★



 周囲が真っ白な光に包まれる。


 異世界転生。まさかこの歳になって、私がそんな夢物語みたいな状況になるなんて思っても見なかった。あのヒトコロスイッチみたいな死に方があまりにもユニークだったからだろうか?


 トラックからネコを助けるところからはじまって、あれやこれやあって最終的に玉ねぎを踏んずけて転んで、駐車場の出入りを封じているロープに当たって跳ねたあげく無人の三輪車に激突し(撥ねられ)て死んだわけだし。


 きっと西〇原では“三輪車ひき逃げ事件”として話題になっているに違いない。


 それに若返るなんて最高だ。せっかくだから我儘を云って、10歳にしてもらっちゃったよ。


 若すぎるって? いいのよ。10歳くらいなら、変なヤローに粉かけられたりしないし、適齢になるころにはその世界の常識ってヤツも身につくでしょ。


 適齢で転生して、右も左もわからないで変な男に引っ掛かろうものなら、それこそ目も当てられないってものよ。


 光が薄くなっていく。


 ぎりりと目を凝らす。


 うん。聞いていた通り、なんだか偉そうなのとか怪しいのとかいっぱいいる。


 ふふん。大抵、物語だと耳障りの言い事をいっておきながら、呪いとかけて私を使い潰そうとかすんのよ。そんなのはまっぴらごめんだわ。


 神様からも先ずは逃げろとアドバイス頂いたからね。その為の小道具ももらったけれど、使い切りで1個しかない超便利アイテムなこれを、ここでつかうなんてとんでもない。


 私はエリクサーの類は抱え落ちするんだよ!


 ってことで、早速スキルの試運転だ!


 マルチロックオン!


 視界に入っている連中に、まるで某SFアニメのようにピピピと照準固定のマークがはりつく。それを首を巡らせ、その大きな部屋にいる全員につける。


 光が消える。


「おぉっ! 成功だ!」

「召喚!」


 私は専用アイテムボックスからそれを召喚した。ロックしたこの部屋にいる全員の頭上に。


 がぃん!


 脳天に()()が激突する音がステレオで響き渡る。


 金盥の当たった者は、皆悉く昏倒した。


 フラリと32名の体が傾く。


「もういっちょ、召喚!」


 ごぃん!


 さらに追い打ち。


 私がもらった能力【金盥召喚】。こいつは非殺傷系の完全チート能力だ。


 なにせ回避不能で確実に脳天に直撃する。直撃した者は確定で5秒間昏倒する。その昏倒中にもう一度金盥をぶち当てると、昏倒時間が5分に延長。さらに追加で当てると3日間昏倒。と、どんどん酷いことになる。


 5回当てると、自力での覚醒は不可能になるという酷いモノ。対象を正気に戻す【Sanity】か、目を覚ます【Wake】を掛けないと、そのまま餓死するだろう。


 ふふふ。【金盥召喚】【多重召喚(金盥限定)】【マルチロック】【アイテムボックス(金盥限定)】【金盥生成】【特定金盥召喚】と、私は能力を金盥に特化させたのだ。


 む? なぜ金盥なのかって? 決まっているでしょう。お笑いの最終兵器金盥よ! 一発当てれば昏倒必至の金盥。これが暴力上等の異世界でどれだけ有用かなんて、火を見るより明らかよ。そうでしょうっ!!


 神様、ありがとう! おかげで昔コントで見た憧れのあれを、自在にできるようになったわ。


 あ、もう一度ぶち当てておこう。これで3日は目が覚めない。


 ぐわん!


 よし。誰だか知らないけど偉そうな人と怪しい宗教な人たちさようなら。安心しなさい。神様との約束だから、魔王とやらは私の金盥を響かせる音の糧としてあげるわ! ふふふ、魔王の奏でる金盥音がいまから楽しみだわ!


 【特定金盥召喚】!


 一際大きい金盥を召喚する。コイツは任意時間出して置ける金盥。もともとはお風呂代わりにしようと、拡張能力として神様にお願いしたものだ。お願いしたところ、折角だからと認識阻害効果を神様がつけてくれた。お風呂として使っている時に、覗かれても見られないようにと。


 それを逆手にとって、私はソレを頭から被って移動を開始する。そう、某ゲームの段ボールみたいに扱えるのだ! 究極のステルス装備爆誕である!


 ここは神殿なのかな? このままコソコソと移動して逃げ出そう。


 あ、そうだ。そこらのヤツ財布持ってないかな。迷惑料としてありがたく頂戴しよう。


 さすがに全部とかは申し訳ないから、ちょこちょこっと。


 泥棒? いーのよ、相手は誘拐犯なんだから。示談金みたいなものよ!


 金貨とか銀貨を、各々のお財布から1枚ずつ拝借して、私はその大広間を後にした。


 薄暗い通路をウロウロとしつつ、遭遇した槍を手に持った兵士や偉そうな人、更にはメイド等にも容赦なく金盥を落とし、ついでに食糧とか服とか鞄なんかも拝借して、凄い時間が掛かったもののその建物――というか、お城だった――を脱出。


 こんにちわ!(Hello!) 異世(Differen)界!(t World!)


 こうして金盥を被った私は、魔王討伐の為の第一歩を踏み出したのだ。


























 後に、お城で原因不明の意識を失う奇病が流行ったという噂を聞いたが、私は知らない。知らないったら知らない。


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― 新着の感想 ―
[一言] >5回当てると、自力での覚醒は不可能になるという酷いモノ  これに認識阻害の特定金ダライを魔王へ被せてやれば、まず見つけられない簡易の永久封印が完成ですね。
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