3ー5 トカゲと人間
3ー5 トカゲと人間
エディットがトカゲの谷にやってきて数週間が過ぎた。
村の連中は、最初エディットのことを恐れていた。
なにしろトカゲ時代の記憶があるからな。
食料の少ない冬場、人間の村を襲って食料を奪ったりしていた俺たちトカゲは、害獣として人間たちの手で殺害されてきた。
そのせいかみな、エディットのことを怖がって近寄ろうとはしなかった。
クローディア母さん以外はな。
クローディア母さんは、弱いけど鑑定のスキルを持っている。
だから、エディットが悪人ではないことが理解できているのだろう。
「ほんとは、娘も欲しかったの」
クローディア母さんは、そう言ってエディットに自分がレッドスパイダーの糸で織り上げた布で可愛らしいドレスを作っては着せかえして楽しんでいた。
うん。
さすがは、クローディア母さんのセンスだけあってどのドレスもエディットに良く似合っていたけどな。
そんなクローディア母さんを見てトカゲの谷の他の連中もエディットに少しづつ気を許すようになって、今では、水場でエディットに出会うと挨拶するぐらいには打ち解けてきた。
エディットの方も俺たち竜人族を見たことがなかったせいか、俺たちのことを恐れていたのだが、クローディア母さんのおかげでだんだんと心を開いてきた。
彼女が話したことによると俺たちがトカゲだった頃に襲撃していた村は、カトラーシュ王国の端っこの方にある村だったらしい。
あの村から馬車で2日ほどいったところにカトラーシュ王国の王都エリングラはあり、そこの王城にある離宮でエディットは、生まれてからずっと暮らしていたのだという。
「王城の外に出たのは、これが初めてでした」
そう言ってエディットは、ちょっと寂しげに微笑んだ。
エディットは、5人兄妹の中では、唯一の姫だった。
母親は、エディットがまだ幼かった頃に亡くなった。
彼女の母親は、平民の出の側室で後ろ楯もなかった。
そのため、生け贄の王女が必要になったとき誰もエディットを守ろうとはしなかったのだろう。
彼女が王城を出るときにも慣れ親しんだ従僕たち以外には誰も見送る者は、いなかった。
「私は、誰にも必要とはされなかった」
そうエディットは俺たちに話した。
エディットは、もう、全てを諦めていた。
もう、生きては戻れない。
だけど、今、こうして生きていられる。
それだけで彼女は、幸せなのだという。
本当は、死んだはずの人生なのだ。




