死神の女の子に寝かしつけてもらう話
何か特別なことがあったわけじゃない。それなのに私は希死念慮に苛まれていた。いや、死ぬことを望んでいたから苛まれていた、というのは正確じゃないか。
世界には自分よりも酷い環境にいて、それでも生きている人がいる。なのに恵まれた環境にいながら死にたいと思う自分は贅沢で、自己嫌悪が激しくなる。
いつもそんなことに頭が埋め尽くされていて、特に夜は全然寝付けなかった。
そんなときに彼女は現れた。
やっとうとうとしてきて眠れそうだなとはっきりとしない頭で考えていると、背中に人の気配がした。背筋が凍る。
「あ、まだ起きてるんですか?」
驚きと恐怖で固まっている私に背後の奴は囁いてきた。少女の声だった。
私が固まっているままで寝たふりをしても気づいているのか、囁いてくる。
「寝てると思ったから近くに来たのに...。まあいいです。起きてますよね、こっち向けますか?」
怖い。窓は締めたはずだし、なによりここは3階だ。どこから入ってきたのか全然わからない。なおも固まっていると痺れを切らしたのか、少女に肩を掴まれ、後ろを向かされる。
豆電球と月明かりだけの部屋で少女の顔が見える。
人間の形をしている。とりあえず、化物じゃなくてよかった。
「...」
彼女は私が状況を受け入れるのを待っているのか、じっと私の顔を見つめて何も言わない。緊張が続くが、だんだん余裕が出てきた。よくみると結構可愛らしい顔をしている。
「...あなたは死にたいと思ってますね?私はそれを叶えるためにここにいます。」
えっ。自殺願望を暴かれたことよりも彼女が叶えると言ったことに驚いた。叶える?どうやって?
「どうやって叶えてくれるの?」
「私と一緒に寝るだけでいいです。そうするとあなたは二度と目覚めません。」
ああ、それはいいな、と思った。
「そっか」
それだけ言って私は目を瞑った。
「...」
「...」
なかなか眠れない。目が冴えてしまっていた。
「眠れないですか?」
私がうなずくと少女はぎゅと抱きしめてきた。ちょうど頭が少女の胸に収まるように抱きしめられた。人の暖かさと柔らかさを感じる。
そのままの体勢でゆっくりと頭を撫でてくれる。ずっとずっと、撫でてくれる。その心地よさに身を任せていると、だんだん意識が沈み込む。撫でなれる感覚だけが残る。いつも、夜になると押し寄せる不安がなかった。
最後におやすみなさい、と少し悲しそうに言ったのが聞こえた。