捨てられたのは・・・
「なるほど・・・天啓とは所詮才能のあるなしの話です。努力しなければその才能は開花しません」
「わかってる」
憤怒の感情を押し殺して喋るカタリー。その目は怒りに燃えていた。
なにせ王国から支援され、一般人より優遇されている三賢者がこの体たらくだ。怒るのは当然だった。
「今回の件は国王に話します。いいですね?」
「もちろん。ただ・・・」
「交換条件を付けられとでも?」
「・・・レンに一目だけ合わせてほしい。謝りたい」
「そもそもそのレンという凄腕の剣士は、一体どこに行ったのでしょうか」
「わからない。祠の近くにある町で別れて・・・後は知らない」
カタリーは少し考える。
王国で言葉の話せないものがいればどうなるか。冒険者としては生きていけないだろう。もちろん普通に暮らす事さえ・・・。なにせそう言う国だ。
『人と魔物の違いは言語が通じるかどうかである。会話の成り立たないものと異形の者は魔物と同じである』
きっとその凄腕の剣士は、差別され、疎まれ、王国に生活できる場所なんてないはずだ。
嫌な予感が背筋を凍らせる。
守護騎士たる所以の感覚というやつだ。
「嫌な予感がしますね・・・過去最大級に・・・」
王城に到着し、急遽国王に取り次いでもらう二人。
カタリーは未だ体に力が入らず、エリーに何回かフィジカルブーストをかけてもらいながらなんとか謁見の間にたどり着き、跪く。
「どうしたカタリー。もうダンジョンを攻略したのか?勇者と聖女は見えないようだが・・・」
「はっ!申し上げます!勇者パーティーは未だ未熟。試練の洞窟どころか初級のダンジョンすら踏破できないと思われます!」
「なに?」
怪訝な顔をしてカタリーを見下ろす国王。
「レンという剣士に心当たりは?」
「ああ・・・あの言葉の話せない獣か。既に国外追放してある。今頃魔の山で魔物の餌となって死んでいるだろう」
「なん・・・で・・・」
消え入りそうな声でそう言葉を発したのはエリー。
「なんでと言われても・・・お前たちが言ったのだろう?あんな野蛮な獣を野放しにしていては、いつか王国に被害が出ると・・・だから勇者が獣を追放する日に、あの街に騎士を多く派遣しておったのだ」
「私は知らない!!言ってない!!」
「御前であるぞ!賢者とは言え無礼者め!!」
「良い下がれ」
大声をあげる騎士の一人を諫める国王。
「それがどうしたというのだカタリ―よ」
「いえ・・・今となってはどうでもいい事です。それよりも・・・三賢者はもう一度冒険者ギルドで最初からやり直させるべきです。あまりにも弱すぎます」
「ふむ・・・」
国王は考える。そして・・・
「お前が弱すぎて使い物にならなかったのでは?」
「な!?」
「そうだな。そっちの方がしっくりくる。勇者について行けず弱音を吐くかカタリー」
「そんなことはっ!」
「お前には重荷過ぎたようだな。カタリ―。お主を騎士団から除名する。賢者はすぐに勇者と合流し、ダンジョンの攻略に戻るがいい。あとから選りすぐりの騎士を数名送ろう」
「え?」
「以上だ」
そう言って国王は椅子から立ち上がりその場を去っていく。
「・・・なるほど。既にこの国自体が・・・」
カタリーはよたよたと立ち上がり、謁見の間を立ち去る。その後ろについて歩くエリー。
「エリー。王国を出る覚悟はありますか?」
「・・・どうやって?魔の山を越えられるほど強くない」
私も、そしてカタリーも、そう言う意味だろう。
「捨てられた土地。そこに答えがあります」
「それって・・・」
「ええ。魔物として差別され、捨てられた人たちが最後に目指す場所。そこに帝国への道がある・・・まぁ死ぬ確率の方が高いですけど・・・この国はもう駄目です。愚王に雑魚勇者、痴女な聖女に戦えない賢者。私は国の為にこの身を捧げるつもりでしたが・・・そんな気は失せました。どうせ死んだように生きるならば、私は夢を抱いて死にたいと思います。
帝国ならばきっと・・・私が仕えるべき場所があると信じて・・・。
それに、レンという剣士は強かったのでしょう?ならばもしかしたら・・・帝国に行きついているかもしれません」
「・・・どうせカタリーは私がいないと動けない。だから・・・着いて行く」
「ありがとうございます」
「どうせあのパーティーからは抜けたかった。夜もまともに寝れないから」
こうして二人は帝国を目指す。捨てられた土地に希望があると信じて・・・。
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「アル。エリーとカタリー知らない?」
「知らないな。まあどうでもいいんじゃないか?」
先日ダンジョンをクリアできなかったのはカタリーが弱すぎて盾の役割がこなせなかったせいだ。
エリーもしまりがいいから今まで使ってやっていたが、所詮賢者という名前だけの雑魚だし、俺の輝かしき勇者パーティーには不要だ。
それに比べて、カタリーの重傷を一瞬で治し、尚且つ消耗が一切ない聖女のアンジュ。こいつだけは手放してはいけない。本物だけが俺のパーティーには必要だ。
「カタリーのせいでダンジョンをクリアできなかったわけだし、国王の責任だろ?なんか言われるまでのんびりしっぽりやっとこうぜ」
「ええ。そうね。まだまだお金はあるし、ゆっくりしましょう」
そういいアンジュが俺の腕に絡みつく。
宿に向かって歩き出そうとした瞬間、目の前に馬車が数台止まる。
「あ?なんだ?」
馬車から降りてきたのは、王国の紋章を胸に刻まれた重装備を着た騎士たちだった。
「この度は王命により、勇者様のダンジョン攻略の支援のために参りました。早速行きましょう」
「は?」
ガシッ!と俺とアンジュは両腕を取られ、馬車に乗せられ・・・。
「待て待て待て!俺はいま万全の状態じゃねえんだよ!行くなら明日に・・・」
「大丈夫です。勇者とはいかなる状態でも勇敢に戦い、必ず勝利をもたらす存在。それを支える聖女様もいるならば、大丈夫です」
馬車が走り出す。
「俺は勇者だぞ!こんなことしていいと思ってんのか!!」
「何をおっしゃる。言いましたぞ?これは王命であると、勇者の言葉より、王の言葉の方が100倍は重いですぞ」
冷や汗が頬を流れる。確かに俺の言葉よりも王の言葉の方が重い・・・。
「王はなんて言ってるんだ?」
「ダンジョンをクリアするまで帰ってくるなと、必要なものは全て援助していただけるそうです」
「ほう?」
「食料、治癒ポーションにマナポーション、装備のメンテナンスなんかも全部やりますので・・・」
これだけの騎士が同伴するなら行けるか?
「なので物資の心配はせず、心置きなくダンジョンに籠ってください。とりあえず10日分渡しておきます」
「は?お前らは来ないのか?」
「はははは!何おおっしゃる。聖剣を持った勇者様はやっと足手まといどもを追放できたのですから、二人で余裕でしょう。あ・・・もちろん荷物持ちくらいは同伴しますぞ。そいつが物資の補給にダンジョンを行き来しますので、勇者様は何も気にせず心置きなく攻略してください」
「え?」
馬車が止まる。俺とアンジュは騎士に拘束され、ダンジョンの中に放り込まれる。
「頑張ってください勇者様!!」
騎士はそう言うと、ダンジョンの入り口を土魔法で封鎖する。
「おい!ふざけんなよ!俺が死んだらどうすんだ!!」
「大丈夫です!勇者様は最強ですので!!」
そう言うのは大きな荷物を背負った小柄な騎士。こいつが補給係という事か。
「俺は大丈夫だが、お前が死ぬかもしれないぞ?」
こいつを脅して入り口を開けさせれば・・・。
「私のことはお気になさらず!転移魔法でいつでも私だけは脱出できますので!!」
「ずるいぞてめぇ!!」
「私は補給担当ですので・・・ではまた夕方に食事を持ってきますね!」
ヒュンッ!と補給担当は荷物を残して消える。
残された俺とアンジュは、お互い唖然として・・・。
「どうするのよアル・・・」
薄暗い洞窟で、アンジュの声が微かに反響していた。