魔王様、魔法で現金をいっぱい出しちゃダメです
「なぜだ!」
広い玉座の間に魔王様の声が響き渡る。
「なぜだではございません。魔王様も分かっていらっしゃるのでしょ」
魔法で現金を出すことがどれほど大きな過ちかということを。
「分からぬ! 予は……予には卿が言いたいことが少しも分からぬ――!」
「いいえ、分かっておられるはずです」
分かっているからこそ玉座の後ろに隠れて顔だけこっそり出しこちらを見るのでしょ。
悪戯がバレた少年のように……。いや、もはや少年Aと呼ぶべきか! 少年Mと呼ぶべきか――!
「まるで、『ぼくら3人ニセ金づくり』です」
冷や汗が出る。知っている人が少なそうで。
「無礼だぞデュラハン――予は偽金など作っておらぬ! 本物の現金を無限の魔力で作り出したのだ! 番号もぜんぶ違うし透かしや凹凸のざらつき、さらにはパールインキや特殊発光インキまでを施した――正真正銘の本物なのだぞよ!」
「やめい――!」
私の声に魔王様はまた玉座の後ろへ隠れ顔を引っ込める……。
――本物の現金を作る方が駄目だろうと誰か言って差し上げて――! 物理的には……偽金を作った方がまだマシなのかもしれない。どっちもどっちかもしれない。
「出来立てホヤホヤの禁呪文で作り出したのだぞよ」
「……まさに禁呪文の名に値します」
想像を絶する禁呪文です。こんな禁呪文が出回れば……戦士や格闘家や吟遊詩人は皆、不貞腐れることでしょう。働くのがバカバカしくなる。私も含めて……とは言わない。
「デュラハンよ。世は魔王なのだ。差し出がましいぞ」
「指し出がませてください! このようなことをしては、魔王様の両手が後ろへ回り魔警察に捕まり魔豚箱へ入れられますよ」
魔王様とて、臭い飯を腹一杯食べさせられますよ――! 銀シャリなんてとんでもない御馳走なのですよ――!
「予は魔王だぞよ」
「魔王もへったくれもありませぬ! たとえ魔王様とはいえ、暴挙を許すわけには参りません――」
「暴挙ってひどおい」
ひどいに「お」を入れないで――! 魔王様の方がよっぽど酷いから~!
大きくため息をつき魔王様のお話を伺うことにした。今日も頭が痛いぞ。首から上は無いのだが。
「なぜこんなことになってしまったのですか」
禁呪文を使った経緯が知りたいです。
「簡単なことだ。子供の頃から一度は夢見たはずだぞよ」
「夢見た? 大金持ちになる夢でございますか」
夢と現実をごっちゃにしてはならない。億万長者と大金持ちはどっちが金持ちなのかもごっちゃにしてはならない。
「子供の頃の夢は大切にせねばならぬのだ。そんな子供の夢を大切にし続けているアニメがあるではないか。……空を自由に、飛びたいな♪ は~い! 現金!」
「――現金!」
ゲンナマ――! 四次元ポケットから札束を出すドラ〇モンなんていたら、子供達がみんな勉強したり働いたりする気力を失うだろう。のび〇は躊躇なく現金を受け取るだろう……。タケコブタイラナイ、ゲンナマホシイ。シズカチャンイラナイ、ジャイコデガマンスル!
「そもそも、歌が古過ぎて冷や汗が出ます」
アンアンアン、とっても大好きジャイアンとババ……でございます。
「ドラ〇モン以外にも子供達が勉強する気力を失うチートアニメがたくさんあるぞよ」
海賊が倒した敵から現金や食料を奪い生活していれば……他人から必要な物を奪うことが悪いことと思わなくなる。
海賊版の意味が分からなくなるだろう――。海賊って、ええやん……って。
大泥棒が大金を盗み捕まらなければ……コソ泥はダメでも大泥棒はヒーローになってしまう!
――定年を過ぎても銭形のとっつぁんは職を失わない――!
腕時計型麻酔銃があれば……もっと他のことに使えよと言いたくなる。
ラン姉ちゃんばかり麻酔銃で眠らせれば……R15をブッ超えるアニメに早変わりする~――! 博士も捕まる。
「現金を盗むのと現金を作るのは、同じ……場合によってはそれ以上の罪、暴挙なのです――」
熱弁するが魔王様は玉座に座り静かに片手を上げる。
「はい!」
「……どうぞ」
なにも挙手して発言を求めなくてもいいのに……。小学校の参観日でもあるまい。
「予の言い訳も聞いて」
言い訳……。
「それは無理、拒否、チロルチョコ! お前の脳ミソ、タ・ケ・ヤ・ミ・ソ・でございます!」
「……」
「そもそも現金を魔法で出すなど、もはや犯罪です!」
小説のタイトルとしても看過できるものではありません! 魔王様シリーズが終わってしまいます!
冷や汗が出ます、他に書くネタが思い浮かばなくて。
読んでいただきありがとうございます!
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