図書館での再会
かん・ぜん・ふっ・かーつ!!
とまではいきませんが、これからちょこちょこ投稿していきます。
しばらくは、不定期になると思いますが、ご了承ください。
では、どうぞ!
小鳥遊 純菜は今日もうろうろと無人の書庫を歩き回っていた。
純菜は二週間ほど前にこの世界に来た時からずっと──食事や睡眠の時間を除いて──この巨大書庫に籠りっぱなしだった。
彼女は運良く立派な木造の建物付近に転移させられたが、建物内を探索していると偶然この巨大な書庫に続く階段を見つけたのだ。
以来、この無人の巨大書庫に籠り、魔術や薬草学などの本を読み漁り、知識を蓄えてきた。すべては友人達に自慢できるように──
「さーて、次は何を読もうかな……」
そう言って、コツコツと小気味良い音を鳴らしながら書庫の奥へと消えていった。
◆◇◆◇◆
「それじゃ、行こうかダルタニャン」
僕は〈ノール王立図書館〉に転移するため、アルが閉じ込められている宝物庫(実際は遺跡で、中の物はほとんどアルが作った物らしい)を出たところだった。アル曰く、宝物庫の結界は魔法も弾き、転移石の使用もできないらしい。
今はアルと別れ、転移石を右手で握りしめ使用方法を頭の中でリピートしているところだ……と言ってもする事は一つだけなのだが。
「あたしはいつでも行けるニャ、おじょ……旦にゃ様」
「んじゃ、ダルタニャンは僕の肩に掴まっておいて」
僕はダルタニャンが肩にしっかりと掴まっていることを確認して、転移石を足元へと思い切り投げた。
そして、砕けたかと思うとその場で青い光を放ち、その光が僕たちを包んだ。
「良い魔術師に会えますように……」
僕がそう願った時には景色がゴツゴツした岩しかない洞窟から想像の数倍の広さがある書庫へと切り替わっていた。
正直、こんなに一瞬で遠く離れた場所へと移動できるのだから驚きだ……もっとも素材が希少なので、簡単に手に入らない上に超高価らしいが。
アルも転移石を手に入れるのには苦労したらしいが、自分の自由に比べれば安い物だと割りきっていた。
閑話休題
「…………誰も居ないんだけど」
少なくとも見える範囲には誰も居ない。
いやいや、待て待て確かアルはこう言っていた筈だ『〈ノール王立図書館〉は魔術系の蔵書数が世界一。そこに集まる魔術師の人数も世界一。ということで探せば高位の魔術師くらい居るでしょう』と。
しかし、肝心の魔術師が誰一人として居ないということはどういうことだろうか……
まあ、誰も居ないと決まった訳でもない。今日は偶々、利用者が少ないというだけ、という事なのかもしれない。
どちらにせよ、アルが軟禁されている宝物庫に匹敵する広さを誇るこの書庫を探索しないことにはなにも始まらない。(途中で心が折れてしまいそうだが)
「……旦にゃ様。誰か居そうですニャ。匂いからして人間だけど、味方とは限らにゃいから剣を抜けるようにしておいた方が良いと思いますニャ」
ダルタニャンがいつになく真剣な声で、適当に探索しようとする僕にそう告げる。
一応、天照を抜けるように左手を前に構える──魔術師が集まるなら、この剣が有効だろうと考えた──が、流石に初戦闘が人間相手となると抵抗がある。出会った瞬間、攻撃してくるような野蛮な人じゃないことを願うが……
「こっちだニャ。これで高位の魔術師にゃら、アルベナ嬢からの依頼達成だニャ!」
ダルタニャンが小声で話しながら、先導してくれる。そういえば、アルが扉の後ろに隠れていた時には気づいてなかったのに、今回はちゃんと自分の能力を使ったんだ……
音をたてないよう細心の注意を払いつつ、ダルタニャンについていく。
「ニャ!?」
「へぶっ!?」
「いたっ!? おっとと」
ダルタニャンが横に飛び退いたかと思うと、顔面が柔らかいものが当たり、後ろに弾き飛ばされる。誰かとぶつかったようだ。
〝ガタッ〞
「へ……? ゴフッ」
ぶつかった相手の方は音が聞こえて見上げた瞬間、手を付いた衝撃で落ちたのであろう結構分厚い本に顔面へ追い打ちを加えられ、ピクピクと痙攣している。
「あの、大丈夫ですか……?」
僕は近づき、しゃがんで相手の顔を窺う。
相手の女性は落ちてきた本を横に置き、フラフラと立ち上がる。よく見ると、鼻から赤い液体が滴り落ちている。
ていうか、なんか見たことがある顔のような……?
「フッフッフッ。大丈夫だ……ッ!? へぶらっ」
相手──いや、“小鳥遊 純菜”はよく分からない叫びと共に、後ろにグルグルときりもみ回転し、鮮血を螺旋状に噴出した。
「……あの出血量、大丈夫かニャ!?」
少し遅れて、ダルタニャンが反応する。といっても、僕は数回かこのシチュエーションを見たことがあるし、この後どうなるかも知ってる。
「大丈夫。いつもあんな感じだよ。じきに復活する」
「……えーと、つまり旦にゃ様の知り合い?」
「そうなるね」
二メートルほど飛び上がった純菜はその後重力に従い、自由落下を開始。
〝ドサッ〞という音をたてて、地面へと打ち付けられる。数秒後、ムクッと起き上がり何か呟き始める。
「…………だよ……卑怯、だよ……」
「?」
「ロリの上目遣いは卑怯だよ!! 可愛すぎでしょ!」
「!?」
ダルタニャンは純菜の勢いに、若干引いている。
“小鳥遊 純菜”
本人の名誉のため、あまり公言はしていないが、見ての通り彼女は重度のロリコンであった。そのため、学校内で囁かれていた彼女のあだ名は“ロリ・ロリコン”
彼女自身もまた、ロリコンたちの心を射止めるロリだったのだ。
「一番最初に会うのが、スゥって……いや、頼りにはなるけど」
“スゥ”とは彼女と特に仲の良い友人達が呼ぶ愛称だ。
彼女の情報網は目を見張るモノがあるのだが、重度のロリコンがその長所を台無しにしている。
今も僕を見つめて──時節『ゴフッ』と鼻血を出しながら──おおよそ、女の子が見せてはダメな表情をしている。
「はあ……僕、これから大丈夫かな……」
広い書庫内にアオイの深い、深すぎる溜め息が響き渡った。
ありがとうございました。
正直、ブクマ数があまり変わっていないことに驚きです。
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