戦いの火蓋
遅くなりました。書くのにすごーく手こずりました。
結局初めて魔物を倒したあの後、森の中を進み度々現れる魔物を倒して進んでいき、思っていたよりも早く洞窟に到着してしまった。ちなみにその間、スゥとは会話と呼べるようなものは存在しない。ただ魔物の接近を知らせ、その後は僕とダルタニャンの戦闘を傍観して、不干渉を貫いている。ますます……というかアルを狙っている偽物なのはほぼ確定だろう。あまりにも普段と違い過ぎる。ただ、相手の実力が分かってない以上、下手に手を出すのは愚策としか言えない。せめて、アルと合流し、共闘までは持っていきたいところだ。
「旦にゃ様、アルベナ嬢の匂いが近くなってきたニャ」
「分かった……」
どの道、戦闘になるのは必至だ。つまりこの手にある武器で人を傷つけることになるのだが、覚悟ができている、ということはなくできれば避けたいところだね。でも、まあ殺されそうになるのなら僕もどうこう言ってられない。多少、傷を負わせて帰って貰おう。
まあ、今はどう切り抜けるかだ。
さまざまな案が浮かんでは消えていき、ついにアルがいる部屋の扉の前に着いた、いや着いてしまった。
「ふうん、これはなかなかねぇ……誰かしらねぇ、こんな面倒な術式の結界を張ったのはぁ」
──パリィィィン
スゥが扉に触れたと同時にガラスが割れたような甲高い音が洞窟内に反響する。そして今の喋り方で確信する。やっぱりスゥじゃなかったと。スゥはこんな妙に語尾が延びた、どことなく色っぽい喋り方はしない。
「ま、あの娘の力のお陰で簡単に破れるんだけど。さてとぉ、キミはどうしようかしらぁ。逃がしてあげてもいいんだけどぉ……面倒だしぃ、殺っちゃおうかぁ」
彼女の纏う空気が一気に変わる。それと同時に僕の背中に悪寒が走る。命の危機を感じるほどの殺気の放出。殺気がどういう物なのか分かっていなかった僕でもこれがそうなのだと、本能的に理解する。ダルタニャンも剣を抜いて戦闘態勢に入っている。
──コツコツ……
「……へえ、誰が誰を殺すって?」
「……! あらぁ、どなたかしらぁ? ま、誰が来たところで今の私には敵わないけど。ふふっ、あはは、ハハハハハッ」
いつの間にか、洞窟の壁掛け松明にぼんやりと照らされたローブのフードを目深に被った、いかにも怪しい格好の人が立っていた。しかし、この声は聞いたことがある。この声は正真正銘、唯一無二の……
「スゥ……」
「純にゃ嬢……大丈夫にゃのかニャ?」
「やあ、葵、ダルタニャン。昨日ぶり。私はまったくもって問題ないよ」
「な、なぜ貴女がここに居るのかしらぁ? 貴女は今頃……」
本物のスゥはフードを下ろして微笑み、ドヤ顔で偽物の方を向く。偽スゥの動揺ぶりからして、おそらく拘束やらなんやらをして、スゥをこちらに来れないようにしていたのだろう。なのに、この変態はここに居ると。
「そりゃあ、私の目的地はここだから。目的を済ますために行動するなんて当たり前のことでしょ? 場所がちょっと分からなかったから、葵の匂いを頼りにここまで来たってわけ」
や、やっぱり変態だ……ただ、戦力としてはとても頼りになる……筈だ。実際に戦っているところは見たことはないが、スゥもチート的なステータスだろう。それに、僕より先にこの世界に来ているから、経験も知識もある。
「じゃ、葵は中に入ってアルベナさんと合流してきてね」
「えっ? スゥと共闘じゃなくて?」
「うん、普通にもう一人居るからね、敵。しかも、そこのコピー女より強いのが。まっ、葵なら大丈夫でしょ。相手は魔法士っぽいから、その剣でズババッとやっちゃって」
「馬鹿ねぇ! お前みたいな小娘があいつに立ち向かったところで、無駄死にするだけよぉ!」
「ちょっと黙っててくれる? 【氷片嵐】」
「……!? 【獄炎嵐】!」
おおっ……ノーモーションで魔法を放つスゥは流石だが、後出しでそれを防御してしまう相手も高レベルの魔法師だと分かる。それぞれ氷の破片を伴った竜巻の魔法と燃え盛る炎の竜巻の魔法で、一方は狭い洞窟の壁や天井を削りながら、もう一方はその高温で洞窟を溶かしながら、数秒後にはぶつかり合って蒸気を出しながら霧散する。
「今だよ、行って! 私はあいつを食い止めておくから!」
「了解! ダルタニャン、いくよ」
「にゃにゃ!?」
一言伝えて、首根っこ掴んで敏捷4倍にして全力で走る。扱いが雑なのは許してほしい。それにしても相手が炎の魔法を使うと分かっていて氷の魔法を使ったのだろうか。なんとなくそういう気がする。蒸気に紛れて、相手に見つかりにくくことができた。環境を考えて魔法の選択をしないといけないし、魔法のぶつかり合いで引き起こされる現象で有利にも不利にもなる。魔法師同士の戦闘もなかなか難しそうだ。とにかく、スゥのおかげで簡単に扉の前まで行くことができた。軽く扉に触れるだけで勝手に開く。アルのことも心配なので、さっさと中に入った。
◆◇◆◇◆
──宝物庫内
「ダルタニャン、アルと敵の位置は分かる?」
ダルタニャンを離して聞く。敵が既にアルと接触していないなら合流した方がいいだろう。
「アルベナ嬢はここの奥の方に居るようですニャ。敵は……その数百メートル先に居るのニャ」
数百メートルって、この部屋どんだけ広いんだよ……でも幸い敵さんはアルとは合流していないようだし、早くアル合流して、野蛮な人たちには帰ってもらわないとね。正直、魔物を相手するくらいならまだ耐えられるけど、人との戦闘は勘弁願いたい。元々、平和な世界にいたわけだしね。ま、殺されるつもりは微塵たりともないので、お互い怪我する前に退いてくれればいいな、なんて思っている。
「……ニャ!? 旦にゃ様っ。て、敵が完全に姿を消したのニャ! 警戒するのですニャ」
まずいね……Sランク冒険者のアルなら一人でもなんとかなるかもしれないが、西洋剣の扱いにそこまで慣れていない僕だと相手にならないかもしれない。僕が慣れているのはあくまで刀だ。剣道──正確には実戦的な剣術なのだが──を習っていたので刀があれば或いは……だけど、無いものは仕方ない。呼吸法であれば、得物に関わらず使うことができる筈だ。
〈天照〉と〈月詠〉を抜剣し、構える。
「!? 旦にゃ様! ニャァァァッ──猫爪ッ」
ダルタニャンが叫び、駆け出して何も無いところに剣を振るうと、それを防ぐかのように細身の剣が突如として空間に現れた。
「……ほう、僕の剣を初見で防ぐとは……大した索敵能力ですね。ですが、索敵特化のようだ。単純な力比べでは僕に軍配が上がる」
急に出てきた細身の冷酷そうな笑みを浮かべた男がその手に持った剣を振るった。それと同時に鍔迫り合いをしていたダルタニャンは消え、物凄い音と共に壁に打ち付けられていた。全く理解が追い付かないが、急にあの場所に現れたのは透明化の能力だろうか……いや、それだとダルタニャンのスキル【超嗅覚】が反応してもおかしくない。なら、何らかのスキルで匂いごと消していた? それなら、一瞬ではあるがダルタニャンの索敵を抜けてきたのにも説明がつく。ともかく、索敵スキルを持っていない僕には対処のしようがないことだけは理解できた。【能力値倍加】で敏捷を上げて、斬擊を受けたのか血まみれになったダルタニャンを回収、そのまま先ほど聞いたアルの居場所へと向かう。宝物庫内は結構な広さがあるので全力で走ったとしても数十秒は掛かるが、流石にこの速さには追い付けないだろう。
「おおっと、何処に行くのかなお嬢さん。ま・さ・か、この僕から逃げられるとでも思ってるのかい?」
そ、そんな……今の僕は【能力値倍加】で敏捷は一般人を遥かに上回っているんだ。たとえ、僕が走り出したのをその目で捉えていたとしてもとても追い付ける筈のないスピードのはず。なのに、何故僕の前に居るんだ。考えろ、そもそもダルタニャンの前に急に姿を現したのは本当に透明化によるものなのか? もし透明化していたとして、あの距離を無音で走って来れるのか? いや、不可能だ。僅か数秒でここに現れたこと自体あってはならない。そんな不可能を可能にするような能力はアレしかない。だったら……!
「へえ、気づいたのかい。大した頭の持ち主だ。だが、遅い。もう終わりだよ」
「……我流刀術──霞」
止水流の基本にして最強といわれる受け流しの技。達人の域に至れば、刀同士が当たったことも分からないくらい完璧に受け流される。正に霞み。僕のも完全とは行かないまでも、受け流すことくらいなら簡単にできるくらい修行した。さりげなく、女の子扱いしたことを後悔させてやる!
「なっ……」
「終わりだ……我流刀術──雷桜!」




