勇者補助機能
遅くなりました
スゥのレクチャーのお陰か、あれから特にふざけもせずに練習を続けたからかは分からないが、魔核から魔素を取り出して体内に巡らす技術と、空気中に存在している魔素を感じる技術をあらかたマスターすることができた。あとは感覚を忘れないように毎日これを繰り返すらしい。
『レベルが上がりました!』
スゥ曰く、空気中の魔素をはっきり感じることにより、その魔素を魔法行使に転用することができるようだ。それによって魔法行使に必要な魔素の消費をほんのちょっぴり減らすことができるらしい。しかし、この技術は一般的には知られていないらしく、他言無用でということを言われた。その情報から面倒事に巻き込まれたくないそうだ。
『さすがにそんなことにはならないでしょ?』
と、軽い感じで言ってみたのだが割とガチな目で、
『それは私たちがずば抜けた魔素を持っているから。一般人からすれば私たちのちょっとは異常。言ってしまえば魔法をあと数発分にもなるんだよ。分かったなら、お礼に抱きしめぶふぅっ!』
と言われた。自然な感じで抱きつこうとしてくるのは流石と言うべきか。まあ、いつも通り殴りとばしたんだけど。
『レベルが上がりました!』
先ほどの話に戻るが空気中に魔素が存在するということはこの世界の誰でも知っているようだが、それを自分の魔法に転用するという考えがないようだ。スゥもスキルによって結果を知っているだけで、原理を説明しろと言われると困ると言っていた。
そういえば、スゥのスキルをひとつたりとも教えてもらっていない気がする。スゥが自分からそんな大事なことを言ってないのは少し不自然だ。いや、もしかしたらただ聞いてもらうのを待っているという可能性もあるか。かまちょだし。後で聞いてみよう。
『レベルが上がりました!』
「さてと、日も暮れてきたしご飯を作るとしますか。今日はなにを作ろうかな」
「はいはーい! 私、ハンバーグが食べたいなぁ!」
「分かった、分かったから近づくな。鬱陶しいからっ!」
『レベルが上がりました!』
「レベルアップの通知音がうるさい!」
ついでに鬱陶しいスゥも軽く張り倒しておこう。
「ふべっ……八つ当たりな上に容赦のないビンタ。なかなか手厳しい。も、もっと……ふ、ふへへ……はっ、ダメダメ」
なにかに目覚めそうなスゥは放っておいて、なぜこんなにもレベルが上がっていくのか……簡単に説明すれば、魔法の授業をしている時、ダルタニャンが暇そうにしていたので近くの雪原に狩りに行くよう言ったからだ。行かしてから気づいたのだけど、どうやら経験値が共有化されているようで勢いよくレベルが上がっているのだ。お陰様で苦労することなくレベルが20ちょっとまで上がってくれた。
それでちょくちょく会話中や思考中に通知音が割り込んできてすごく鬱陶しい。それはもうスゥと同等かそれ以上に。そもそもこの脳内に響く声はなんだろうか。ダルタニャンを喚んだ時もこの声が聞こえたので、こういう仕様なのだと割り切っていたが、流石にこう何度もうるさくされるとイライラしてくる。切ることはできないのかな? 試してみようか。
「あー、レベルアップの通知音を消すことってできないかな?」
『可能です。“世界”の加護である“レベルアップ通知”を停止しますか?』
「できるの!? そもそも世界の加護ってなに? まあ、まったく無くなるのもなぁ」
『夜、睡眠前にその日レベルが上がったなら通知するというのはいかがでしょう』
「そんなに細かく設定できるんだ? よし、その設定でよろしくね。それで世界の加護について説明してくれる?」
コミュニケーションを取れたことに驚きだ。てっきり一方的に話すだけかと思っていたけど。
『分かりました。では、僭越ながらわたくし《勇者補助機能》ノーマちゃんが、お二方にご説明しましょう。先に断っておきますがこれがわたくしの正式名称ですので』
今まで静かというか、事務的だったのに、急に饒舌になるな、この人(?)。正式名称に“ちゃん”がついているのがなんとも言えないね。なんか、逆に商品っぽい名前になっているところに名付けた人のセンスを感じる。
『それでは世界の加護についてご説明します。といっても説明できることは少ないのですが……世界の加護とはまあ、そのままの意味です。あなたたちのような“神託の勇者”に対して、この世界から自動的に与えられるものです。そして、それがわたくし《勇者補助機能》というわけです。わたくしから説明できるのはこれくらいでしょうか』
「えっと〜つまるところこの世界には自我があると?」
『はい、そういうことになります。世界というよりかは創造神、と言ったほうが分かりやすいかもしれません。ここ数百年はなぜか音信不通の状態ですが……』
「はあ……」
「他になにか知ってることは?」
これはスゥからの質問だ。確かにこの世界の創造神が創り出したものならもう少しなにか知ってそうなものだけど……
『申し訳ありません、わたくしは自身の存在理由と機能の詳細しか分からないのです。おそらく純菜様が求めているような回答はできないかと……』
そう簡単にいく筈もないか。魔法の秘術とか知っていたら、それこそありきたりなラノベかって話だしね。折角異世界に来れたんだから、楽しめるところは楽しまないと。
「すみません、今の念話で貯めていた魔素が尽きてしまったようです。聞きたいことがあるなら次の機会にお願いします。しばらく話すことができなくなりそうですが、頑張ってください」
──プツンッ
と、なにかが切れる音がしたかと思うと同時にノーマちゃんの声も聞こえなくなってしまう。短っ……他にも色々と聞きたいことがあったんだけどな。
「今のはおそらく【念話】っていう、すっごい燃費の悪い魔法だね。いくらチートな私の魔素量でも、持って数十秒かな。多分ノーマちゃんとして話すのにはその魔法を使う必要があるんだろうね」
なるほど、つまりノーマちゃんと話せるのは彼女(? )の魔素が回復して、なおかつすごく短い間だけということか。でも、本当に重要な情報は持ってなさそうだったよな。なにを知っているか分からないが、次話す機会のときまでに聞きたいことをまとめておかないと。ささっと聞いちゃわないとノーマちゃんの魔素がなくなって話せなくなるだろうからね。
──パァンパァン
スゥが話題を変えるためか手をたたく。
「難しいことは後にして、ご飯の準備しようか。私でも手伝えることってある?」
「……そう言って、お腹空いただけでしょうが。そうでもないと、小学校の修学旅行で自分の仕事を他人に押し付けるような料理下手が自分から手伝うとは思えないしね」
「葵にはお見通しか~ それで、その料理下手の私でもできそうなことは?」
「そうだなぁ、ハンバーグだったら、タマネギ微塵切りにして、炒めるくらいかな」
「…………ごめん、微塵切りってどうするんだっけ? いやー料理しないのも考えものだねぇ」
「やっぱ、そこから教えないといけないか。ちょうど良い機会だし、簡単な微塵切りの仕方を教えるからちゃんと見て覚えてね」
「はーい」
──ガシャ
「ただいま帰ったニャー」
それから僕たちは三人ながらも、(正確には二人と一匹だが)少しうるさいが、賑やかな食事の時間を過ごしたのだった。
「さて、明日の予定でも話し合っておこうか」
食後、暖炉の前でゆったりとして時間を潰していると、スゥがこう言って話を切り出した。
11月中にもう1話出したいところですが、できないかもしれません




