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エルード強襲


「ちっ、外れたか……」


 チハルの投げた聖剣は、何とか衛兵に当たらずに済んだ。

 何やってるの、あの娘は?

 というか、縄抜けとか行動な事をいつの間に出来る様になってる訳?


 せめて、街に入る所くらいまでは大人しくしておいて欲しかったんだけど……。


「まぁ良いか。じゃあ、チナツ後よろしく。わたしはお兄ちゃんを探しに行くから」


 そしてチハルはあたしが止める前に、そう宣言して街の中へ侵入していった。


「ちょっと、チハル!! 勝手な行動を取らないで!!」


 本当にあの子は自由過ぎる。

 チアキは何やってるのよ!?

 って、チアキまでいなくなってるし!! 


「チアキは何処行ったの?」

「あの人なら、チハルさんが剣を投げるのと同時に街に入っていきましたよ」


 ローズマリーはチアキの事を見ていたらしい。

 チアキの動向を教えてくれる。


「ちょっと何で止めてくれないのよ!!」

「そんな、無理ですよ!! わたしが見た時にはもう門の中にいたんですから!!」


 チアキの事をよく知らない人に、チアキの奇天烈な動きを想像して止めろと言うのは分かる。

 でも、今回に限ってはしっかりと様子を伺っていて欲しかった。


「チアキもチハルも何を考えてるの……」


 これでは二人とも犯罪者だ。

 まぁチアキは既に王都では名の知れた犯罪者だけど……。

 でも、チハルはまだ捕まって事はないから前科はついていないのだ。

 こんな所で、チハルに前科をつける訳にはいかない。

 そもそもあたしがこの街に来ようなんて言わなければ、チハルがこんな行動に出る必要はなかった訳だし、何よりもチハルが捕まったらあいつが悲しむ。

 だから、それだけは絶対に阻止しなければいけないのだ。

 それに今回の件は、チハルは衛兵に危害を加えようとしたせいで、チアキよりも重たい罰が下される可能性が高い。

 ちゃんと監視していなかったあたしのミスだ。


「あの二人を止めて来るから、後の事はお願い」

「ちょ、待てよ!!」


 ドワイトの止める声が聞こえるが、構ってはいられない。

 チハルのせいで、周りが色めき立ち、衛兵達の増援が見える。

 ここで悠長にしていたら、衛兵達の手で門が閉じられ、街に入れなくなる可能性が非常に高くなっているのだ。

 だから今、多少の無茶ではあってもチハル達を追いかけなければならない。

 本当、なんであいつらはこれからって時に面倒事ばかり起こすのよ……。



 街の中の状況は酷い有様だった。


「なにこれ……」


 そこには『真冬命』等と書かれた白い法被と団扇と鉢巻を付けた老若男女がきつねうどんを啜っている姿があった。

 一部の人の団扇には『チフユライク』とか書かれていたけど……。

 門の辺りはチハルの起こした騒動で衛兵が多かったけど、いざ街中に入るとこれである。

 というか、何でチフユの方はラブじゃなくてライクなんだろう。

 もしかして、こんな所でまであいつの婚約者面してる訳……?

 それにしても何なの、このアイドルのコンサート会場みたいな状況は。

 どう見てもこれあいつ等の仕業よね。

 チハル達の動向も気になるけど、この状況も凄く気になる。


「あー! ちーちゃんだ!!」


 この後どうするかを考えていたら、舌足らずな声が聞こえて来る。

 そちらを向くと仲良さそうにチフユと手を繋いでいた真冬がいた。

 チフユの年齢が若すぎる感じもするが、あそこまで顔が似ていると完全に親子にしか見えない。


「真冬じゃない。元気にしてた?」


 あたしが反応したことが嬉しかったのか、真冬はチフユと繋いでいた手を思い切り振り解くとあたしに向かってトコトコと走って抱き着いてきた。

 こういう姿を見ていると子供って良いなと思ってしまう。

 あたしもにぃにとの子供が早く欲しい。


「うん!! にいさんがすごくかっこよかった!!」


 なんで第一声であいつの話が出て来るの?

 この娘、あいつと会うの初めての筈よね。


「それは良かったわね。他には何かあった?」

「にいさんのらーめんがおいしかった!!」

「確かにあいつの作る麺は美味しいものね」

「うんとね。あとは、にいさんといっしょにねんねしたの!!」


 あいつは何やってる訳?


「あとはおふろにもいっしょにはいったよ。せっけんでしゃぼんだま、いっぱいつくってくれたの」


 真冬が凄い嬉しそうに説明してくれるが、色々とアウトな気がする。

 幼女だから許される特権だと言うの?

 それともあたしの頭が汚染されているだけなの?


「チナツ、久しぶり」

「なんであんた達がこの街に来てるのよ?」


 変な事を考えているあたしにチフユが声を掛けてくる。


「チアキ達から貴女の暴走を止めて欲しいってオファーがあったから」

「それについては謝罪するわ。あたしも短絡的だった」

「冷静になってるんなら別に構わない」


 あたしだってあいつに迷惑を掛けるのは本意ではない。

 教会の不正についてはジャック牧師に頼んで調べて貰う事だって出来たのだ。

 あの人はドMで度し難い位の変態だが、あたしよりも教会の所属年数ははるかに長いし、裏の事情にも詳しい。

 あたし一人で動くより、そう言った信頼できる人に頼って少しずつ動けば、そこまで危険に身を晒さずに対応することだって出来たかもしれなかった。

 そこはあたしも反省しないといけないだろう。


「それで、この騒ぎは何な訳?」


 しかし、それとこの良く分からないお祭り騒ぎは別の話だ。


「にいさんがおいしいらーめんをつくって、みんなにくばったの!!」


 あたしの質問に真冬が答える。


「いや、何でそんな変な流れになったのか知りたいんだけど……」

「この街には麺類がなかった。だから兄さんが麺類を普及させようと動いた結果こうなった」

「……何で?」

「私にも分からない」


 麺類がないから、麺類を普及させようとする、あいつの気持ちは分かりたくないが考えは分かる。

 何でそこから、魔王軍の一角と疑われることになり、このアイドル騒ぎになったのかが一切分からない。


「何か超常的な現象でも起きてる訳? あいつに【催眠】とか【洗脳】系の魔法が掛けられたとか」

「兄さんからそう言う波長は感じなかった。これは多分兄さんの考えによるもの」


 なおのこと、あいつは何を考えているの?

 こう言う所を見るとあいつがチハルの実兄だとしみじみ感じるのよね……。

 一回暴走を始めると謎な方向へ進んでいくのはチハルもあいつも一緒だ。


「あんたは途中で止められなかった訳?」

「まぁ別に危険な事になってる訳じゃないから。公爵家襲撃も一平がへましたせいで兄さんに責任がある訳じゃないし」


 チフユがいてなんでこんな事になってるのかと思ったら、チフユがこの活動に否定的じゃなかったからか……。


「それに兄さんの隣で麺類を提供するのは楽しい。お客さんに『若奥さん』とか呼ばれると、私も兄さんと結婚した後の為にこういう客商売を学ぶ必要があると感じる」


 チナツが頬を染めながら嬉しそうにそう言ってるのを見ると、むしろそう呼ばれたいが為に、あいつを止めなかったんじゃないかと感じてしまう。

 いや、絶対にそうだろう。

 あたし達が誰も認めないからって、全く関係のない他人にあいつの嫁として認められて嬉しくなるなんて可哀想な奴だ。


「それであの法被とかは何なのよ?」

「一部のお客さんが真冬が手伝ってる姿を見て勝手に作った。一応、一平が手伝ってるみたいだし売り上げの5割はこっちに入ってくるから放置してる」


 どう言う事よ……。

 真冬が一生懸命麺類の提供をしている姿は確かに可愛いと思うけど。


「何にしても丁度良かった。チナツが来たんなら手が増える」

「えっ?」

「今日の分は売り切れちゃったから、明日の分の麺作りと販売手伝って」


 いや、何のためにあたしがここに来たと思ってるのよ……。


やっぱりチハルの実兄である以上は、お兄ちゃんも頭がおかしい筈です。

多分お兄ちゃんは胃が壊れても、高血圧になっても、麺類は命を削って食べる食べ物と言って麺類をスープまで残さず食べ続ける事でしょう。

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