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お兄ちゃんの至高の道具であり、玩具であり、奴隷であるために


「そろそろあたし達の番みたいね」


 チナツ達との変人戦争については、一時間半にも及ぶ議論の上で、チフユお姉ちゃんが一番変人であるという事で結論付いた。

 何故そうなったのかは分からないが、取り敢えずチフユお姉ちゃんが一番悪い事にしておけば、皆が幸せになるのだから仕方がない。

 何よりも、この場に居ないのがいけないのだ。

 そしてお兄ちゃんの隣に今もいるのがいけないのである。

 わたしは悪くない。


 そして来るわたし達の順番。

 ここの衛兵はお兄ちゃんに謂れのない言い掛かりを付けて、お兄ちゃんを不快にさせた絶対悪である。

 こういう存在がいるから、お兄ちゃんの精神に安寧が訪れないのである。

 生かしてはおけない。


「チハル、取り敢えず腰の剣を仕舞いなさい」


 チナツに言われるまで気が付かなかったが、無意識化で剣を抜いていた様だ。

 心を虚無の状態にして、いきなり襲い掛かるから奇襲は成功するのだ。

 これはいけない。

 もう少し落ち着かないとね。

 そう、わたしは虚空、絶無、人間性を極限まで排除して、自分がお兄ちゃんの道具であり玩具に過ぎない事を思い出すのだ。

 道具に感情は必要ない。

 道具に思考は必要ない。

 絶対的な無になるのだ。


「うん、大丈夫だよ……」

「あんた、目からハイライトが消えてるんだけど、絶対に変な事を考えてるでしょ?」


 チナツは何を言っているんだろう。

 今のわたしはお兄ちゃんの便利な道具だ。

 変な事なんて考える隙間はない。

 ただ、お兄ちゃんを不快にさせた絶対悪を滅ぼすだけの存在である。


「なんで、わたしは縛られてるの?」

「あんたまで指名手配されたら、面倒だからに決まってるじゃない」


 それなのにも関わらず、チナツはわたしをグルグルに縛ってきた。

 亀甲縛りにしないだけ、チナツの中の良心が働いているのかもしれない。

 それにしても、解せぬ……。



「そう言えば、ドワイト達はこの街の出身なんでしょう?」

「そ、そうだけどそれがどうしたんだよ」


 この蛆虫達は最近、チナツ達が話しかけるとビクッと肩を震わせて反応するのだ。

 蛆虫達にもチナツの恐ろしさが分かってきたのだろう。

 わたしですら恐れるチナツ様のヤバさは、近くで生活すれば十分に堪能することが出来る。

 最初に家に来た時は引籠りだった癖に、お兄ちゃんの威光を浴びてリア充に進化してからは、段々とその凶暴さを表に出してきた。

 お兄ちゃんに近付く巨悪を排除しようとしたわたしもその力に圧倒され、今ではチナツの存在に怯える日々である。

 あのチナツをここまで進化させて強化するなんて、流石お兄ちゃんだ。

 わたしもお兄ちゃんのエキスをもっと接種して、チナツ以上に強大な存在にならなければならない。


 そんな中で一人だけチナツを睨んでいるあの雑魚は流石だ。

 チナツにあそこまで敵愾心を剥き出しにしてきた人間をわたしは見たことがない。

 雑魚の評価を一ランク上げて、名前で呼ぶ権利をあげても良いかもしれない。


 チナツが蛆虫達からエルードがどういう街なのかを最終確認している中、チアキの不審な動きが目に入った。

 まぁ、チアキは不審じゃない動きをしている方が珍しいんだけど。


「チアキ、何やってるの?」


 流石にあれだけ脅されていて、裏切る様な事はないと思うけど、念の為チアキの行動に釘を刺すことにする。


「何でもないって言っても信じないよねっ」


 チアキは笑いながら言ってくるが、当り前のことである。

 日頃の自分の動きを思い出して欲しい。

 信用できる要素が一切ない。


「当り前じゃん。今ならまだお兄ちゃんにある事しか吹き込まないから、正直に話した方が良いと思うよ」

「それって結局うちが不利になるんじゃ……」


 どうせお兄ちゃんの事だから、チアキの事だから仕方がないって、諦めた様な笑いを浮かべるだけだと思う。

 お兄ちゃんはチアキには甘いのだ。


「ない事を吹き込まれて、お兄ちゃんに本気で怒られたいんなら止めないけど?」

「それは止めて欲しいなっ!!」


 それでも、お兄ちゃんだって怒る時は怒るのだ。

 特にわたし達が無意味に危険な事をしたり、犯罪に手を出そうとしたり、危険に飛び込もうとすると凄く怒る。

 チアキだって、そんなお兄ちゃんは見たくないだろうし、お兄ちゃんに怒られたくはない筈だ。

 だからこうして、チアキに対する脅しとして有効なのである。


「それじゃあ洗いざらい吐いてもらうよ」

「本当にこういう時のチハルは厄介だよっ……。うちは前にこの街に来たことがあるんだっ」


 チアキが感慨深そうに話を始めるが、ぶっちゃけどうでも良い。

 とっとと本題に入って欲しい。


「それで?」

「チハルは本当にうちの話聞く気あるの?」

「前置きとかどうでも良いんだよ。早く本題に入ってくれない?」


 じゃないと、お兄ちゃんを観察する時間が刻一刻と失われてしまうのだ。

 お兄ちゃん見守りタイムは何よりも重要なのである。


「チハルは本当にブレないよねっ。その時に色々と仕出かしちゃったんだ。それでこの街から出禁食らっちゃってるからどうしようかなと思ってたんだよっ」


 なるほど。

 どうでも良い事だった様だ。


「ふーん」

「チハルはもう少し兄様以外の人に興味持った方が良いと思うんだよっ……」


 チアキがなんか言ってたけど、どうでも良い。

 そろそろ門番が見えて来た。

 チアキが裏切らないのが確認できた以上、今わたしのやるべき事は一つだけである。


「死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 そう、門番を弑する事である。


作者的にはチハルが一番、頭がおかしいと思います。

そして貧乏くじを引かされるチフユ……。

現場にいないのは辛い事ですね。

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