ご飯はおかず、麺類は飲み物
「にいさん、にいさん。きょうは、どんならーめんつくるの?」
隠れ家にしている古民家の中で、真冬ちゃんが今日屋台で作るラーメンを聞いてくる。
「昨日は豚骨醤油、一昨日は塩、その前は醤油味噌と来たからな。今日は塩バジルでいこうと思う」
「しおばじるらーめん?」
「塩ラーメンのサッパリした味に、バジルを投入することでコクを出すんだ」
「なるほどー」
塩ラーメンがサッパリしているのかは、自分で言っていて謎ではあるが、俺的には塩ラーメンが一番好きである。
塩ラーメンは味に個性を出すことが難しく、ラーメン屋では塩ラーメンを食べる事でその店の実力を測ることが出来るといわれる位、高度なラーメンだ。
まぁ俺は単純に味が好きなだけだが。
その塩ラーメンにバジルを入れるというある種斬新な発想は、ラーメン未開の地であるこのエルードに強い衝撃を与えることが出来るだろう。
「今から、奴らの驚く顔が楽しみだ」
俺の作るラーメンに胃袋を捕まれ、恐れ戦くといい……。
「兄さん、一つ聞きたいんだけど、何で私達は連日連夜ラーメンを作ってるの?」
チフユは何を馬鹿なことを言っているんだ。
麺類のない土地に麺類を進出させる。
これ程、崇高な使命はないだろう。
しかし、チフユが何も考えずにそんな事を言う訳がない。
何か理由があるはずだ
俺はチフユの発言の意図を深く考える。
そう言えば、チフユは先程の発言をする前にうどん達と一緒にいたな……。
まさか、麺類はラーメンだけではないと言いたいのか!?
「流石チフユだな。俺も視野が狭くなっていたようだ」
「兄さん……」
「確かに、お前の言う通りラーメンだけが麺類ではないな。今日は塩バジルではなく、そばにしよう」
「兄さん……、それは違う」
「そばの方が俺の麺職人としての腕が出るしな。確かに、三食ラーメンは胃もたれするし、体に良くない。チフユ、よく言ってくれた」
チフユはまだ何か言いたそうにしていたが、俺が二八そばを作る準備を始めると諦めたかの様にナタリアの方へ向かっていった。
「あいつ、どうしたんだ?」
その様子を見ていたうどんがなんか溜息を付いていたが、まぁ気にしていても仕方がないだろう。
チフユの事は気になるが、それよりもこの街の住人に旨いそばを食べさせる事もまた重要だ。
「取り敢えず、麺打ちを始めるか」
俺はそう思い、チアキの不思議道具を使い自分の製麺所からそば粉を取り寄せ、屋台の準備を始めた。
真冬ちゃんが俺の真似をしながら麺打ちをしていたが、変態も指導を手伝ってくれていた事もあり、中々良い麺を作り上げていた。
これは、俺も負けてられないな。
200食分のそばと油揚げを用意し、今日の屋台の準備が完璧になった頃、悪役令嬢ナタリアがチフユに連れられてやって来た。
この女は可哀想な事に生まれてから一度も麺類を食べた事がなかったらしい。
「貴方は一体何を考えてますの? 公爵家に手を出した挙げ句、わたくしをこんな目に逢わせるなんて……」
「貴女こそ何を言っているんです? 貴女は此処に来て、3食麺類を食べ続けて何も感じなかったのですか?」
「確かに貴方の作るラーメンと言うものは美味しかったですわ。でも、毎日毎日ラーメンを食べ続けてたら流石に飽きてきますの!!」
「何だと……」
至高の食べ物であるラーメンに飽きるなんて、なんて畏れ多いことを言うんだ。
確かに毎回同じ味だと飽きる可能性はある。
「しかし、醤油、味噌、豚骨、塩とローテーションを組んでいたので、味は違うはずです!!」
「そう言う問題ではありませんの。たまには違う物が食べたいのです」
なんて我が儘な女だ。
「兄さん、私もたまにはご飯食べたい」
チフユまでなんて事を言うんだ。
確かにご飯はおかずとして秀逸な食べ物なのは認めよう。
家系のラーメンにはご飯は御代わり無料で付くものだし、そばやうどんだって炊き込みご飯と食べるのは最高の組み合わせなのは事実である。
俺だってラーメンには叉焼丼を付けたくはなるのだ。
その気持ちは大いに分かる。
しかし、麺類がご飯以下だと言うのは認められない!!
「真冬ちゃんはラーメンとご飯どっちが良い?」
俺は自分の味方を増やす為に真冬ちゃんにも意見を求めた。
「ごはんがたべたい!!」
なっ、真冬ちゃんまでご飯が良いと言うのか……。
俺の目の前が暗くなった。
「少年よ!! 間違っているぞ!!」
「どう言うことだ?」
変態は俺の味方をしてくれると言うのか。
流石は見た目は変態でも中身は真面な魔族だ。
「そもそも麺類とご飯を同列に並べること事態が間違っている。ご飯は主食で麺類はスープだ!!」
「この馬鹿野郎!! 麺類の何処がスープだ!! 麺類が主食で、ご飯がおかずに決まってるだろう!!」
「少年こそ頭がおかしいのではないか? 麺類を飲み物と言わずして何を飲み物と言うのか!!」
この野郎が此処まで頭が硬いとは思わなかった。
これは、決闘だ!!
血祭りに挙げてやる!!
「あの二人、頭は大丈夫ですの?」
「あれが平常運転だから……。真冬、危ないから兄さんに近づかないで此方にいなさい」
チフユが、俺の真似をしてファイティングポーズを取った真冬ちゃんを引っ張ってるのが見えた。
「貴女も大変ですのね……」
焼きそばとかスパゲッティみたいな、汁のない麺類も飲み物と言って良いのか疑問です。
多分、飲み物みたいにいくらでも食べれると言う事が言いたいのでしょう。
なお、ナタリアを捕まえてからは、麺類の素晴らしさを教え込むと言う名目で、朝は和麺、昼は中華麺、夜は洋麺を食べさせていました。
兄さんは大満足の食事だったそうです。




