【号外】オルフェ公爵家、魔王軍に襲撃される
「ちょっと、チハル!! これどうなってるのっ!?」
わたしが部屋で今日のお兄ちゃんを見ていると、チアキが部屋に駆け込んできた。
何をそこまで慌てているのだろうか。
この世界で慌てる事なんて、お兄ちゃんがチフユお姉ちゃんと結婚するとかとち狂った時と、真冬の存在を見た時位なもので、そんなにある物ではない。
そんな訳でチアキを無視してお兄ちゃん観察を続ける。
「チハル、うちの話を聞いて欲しんだよっ!!」
わたしの態度に納得がいかなかったのか、チアキがわたしの目の前に新聞を突き出してくる。
「何これ?」
新聞を見せられたところで、わたしは文字が読めない。
お兄ちゃんと意思疎通の出来ない言語にわたしは興味はないのだ。
そんな所に脳の容量を使うのは勿体ない。
それなら、まだ昨日お兄ちゃんが穿いていたパンツの色を把握している方が50兆倍役に立つのだ。
むしろ識字なんかをお兄ちゃんとパンツと比べるなんて、お兄ちゃんのパンツに失礼である。
わたしの常備しているパンツもお兄ちゃん臭がなくなってきてしまったし、そろそろ新しいのが欲しい。
「チハル変な事考えてないで、ちゃんとうちの話を聞いてくれないかなっ」
「はぁ、わたしはお兄ちゃんの事を考えるので忙しいんだけど……」
「そんなの何時もやってるじゃないのっ。そんな事よりこれから行くエルードで大変な事が起きてるみたいなんだよっ!!」
そんな事とは失礼な奴だ。
むしろ、お兄ちゃんの事以上に大切な事なんてないのだ。
「大変な事って?」
「兄様が魔王軍の幹部としてテロ行為をしているって書いてあるんだよっ!!」
「それが?」
別にお兄ちゃんがテロ行為をしていようと、お兄ちゃんに危害がなければどうでも良い事である。
むしろ、何か問題があるのだろうか?
「兄様が何を考えてるのか説明して欲しいんだよっ!!」
「わたし達みたいな矮小な存在が、最上位種で高位な存在であるお兄ちゃんの考えを理解しようなんて恐れ多い事だよ。わたし達は、お兄ちゃんのやる事をあるがままに受け止めて、お兄ちゃんのやりたい事を全力でサポートするのが仕事じゃないのかな?」
そう、チフユお姉ちゃんと結婚するとか言うとち狂った事以外は、全てにおいてお兄ちゃんは正しいのである。
そんなお兄ちゃんのやる事にケチをつけようなんて、お兄ちゃんの偉大さを理解していない低俗で低能な存在のやる事なのだ。
「チハルのその兄様への過度な信頼感はなんなのかなっ……」
「チハル!! これは一体どう言う事よ!?」
チアキを言い負かせたと思ったら、今度はチナツが新聞を片手に部屋に殴り込んできた。
二人してドタバタと落ち着きのないものだ。
「チナツまでどうしたの?」
「あいつが何でエルードにいるのよ!?」
そう言えば、チナツにはお兄ちゃんをエルードに呼んだことを伝えてなかった。
まぁどうせ怒られるだろうから黙っておいたんだけど、まさかこんな所でバレるなんて……。
「エルードに魔王軍を出現させるために、お兄ちゃんに頼んでうどんとそばに来て貰ったんだよ」
「それで、何であいつまでエルードに行ってる訳!? あんたは、あいつに何かあったらどうするつもりなのよ!!」
「ゴミの家が何をしようと、高位の存在を傷付けられる訳ないじゃん。それにチナツが変に暴走するから、お兄ちゃんを呼ばないといけなくなったんだよ。チナツ、思い込むとお兄ちゃんの話以外全く聞かないし」
「そ、それは……」
チナツも思う所があるのか言い淀んだ。
「ていうか、新聞に何書いてあるの?」
お兄ちゃんの格好良さを表現しきれていない様な文書なんて、この世界の神以上に無価値なものではあるが、二人がここまで慌てる内容にちょっと興味が出て来た。
「あんたはいい加減、文字を読めるように勉強しなさい」
チナツは呆れながらも、新聞の内容を読んでくれた。
何でも、赤黒黄の三色全身タイツを着た4人組が、オルフェ公爵家に押し入り狼藉を働いたらしい。
当主ロクサスの口に溢れんばかりのラーメンを押し込み、次女のナタリアを誘拐していったとの事だ。
わたしの把握している情報とズレがあるが、その辺は伝言ゲームをしている内に変わっていったのだろう。
その集団は犯行声明で、自分達が魔王四天王の一角であることを主張し、ナタリアを無事返して欲しくばこの街のご飯を三食麺類にすることを要求しているらしい。
その後もそのテロ集団は、食事時になるとナタリアを括り付けた屋台と共に現れ、ラーメンを住人に振舞い去っていくとの事だった。
流石、お兄ちゃんである。
お兄ちゃんの考えを読んでいたわたしでも、高尚過ぎて何をしたいのか良く分からない。
「というか何でこの記事で、テロ集団がお兄ちゃんだって分かったの?」
記事にはお兄ちゃんの名前は一切載っていなかった。
確かに4人組の人定で、男が二人、女が一人、幼女が一人とまでは書かれていたが、それだけでお兄ちゃんのパーティだと察する普通は出来ないだろう。
「そんなの決まってるじゃない」
わたしの疑問にチナツがチアキと視線を合わせて答える。
「ここまで、麺類に固執する人なんてあいつくらいしかいないじゃない」
「ここまで、麺類に固執する人なんて兄様くらいしかいないんじゃないかなっ」
流石、長年お兄ちゃんの妹分をやっているだけはある。
凄く的確な答えだ。
「という訳で、チハル。あんたの知っていることを洗いざらい吐きなさい」
「そうは言っても、わたしだって全部を把握している訳じゃないんだけど」
まぁ、どうせチナツ達もお兄ちゃんの為に動くだろうし隠している意味もない。
そんな訳で、チナツにお兄ちゃんをエルードに呼んだ経緯とか、チアキにお兄ちゃんの高尚な考えを説明した。
「あんた、何でそこまで分かっていて落ち着いてるの?」
説明を聞いたチナツはわたしの全く慌てていない態度に怒っていた。
「だって、わたしのスキルは一方通行でこっちからお兄ちゃんに連絡できる訳じゃないし、お兄ちゃん程の人が何も考えずに動いている訳ないじゃん」
「そうかもしれないけど、あんたはにぃにが心配じゃないの?」
「わたしは何時でもお兄ちゃんを見守ってるからね。それに、お兄ちゃんは今麺類の為に動いているんだよ。心配する要素が全くないよ」
そう、お兄ちゃんが麺類の事で動いている限り、負ける事はないのである。
これは世界が創造された時から決まっている事なのだ。
それにどうせお兄ちゃんの傍にはチフユお姉ちゃんがいるのである。
お兄ちゃんが無茶しそうであれば、チフユお姉ちゃんが止めるだろう。
だから不本意ではあるけど、安心なのだ。
「あんたはね……」
「チナツはお兄ちゃんへの愛が足りないね」
そう言ったわたしへのチナツとチアキの生暖かい目と苦笑いには納得がいかないんだけどね。
「おい、チアキ!! これはいったいどういう事だ!!」
チナツ達の説得が終わったと思ったら、今度は蛆虫達が部屋に来た。
やはり片手には新聞を握っている。
「どうしたのかなっ?」
「エルードに何で魔王軍の幹部が居やがるんだ!! 突然、エルードに向かうと言った事と言い納得のいく説明をして貰おうか!!」
雑魚がチナツを睨んでいたり、羽虫がオロオロしていたり、脳筋が蛆虫を抑えようとしていたりしたが、わたしには関係がない。
後は、チアキが何とかするだろう。
そもそもこのパーティはチアキの支配下にあるのだ。
部下の面倒位は自分で見て貰おう。
そう思い、わたしはお兄ちゃんへと思考を向ける。
なんだかんだで、後3日位でエルードに着くのだ。
お兄ちゃんに会えるのが今から楽しみである。
午前中に登場人物等のドワイト君達、魔王討伐パーティの内容を更新しました
興味のある方はそちらも見ていただけると嬉しいです。
なお、お兄ちゃんがエルードで配布しているのは豚骨醤油ラーメンです。




