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チフユの子育て方針


 一平の作り出した煙幕に隠れる様にうどんとそばに連れられ、私達は広場から離れていった。

 兄さん達が目立つ様に衛兵を引き連れて行ってくれたお陰で、私達の方には衛兵は殆ど追い掛けて来ず、無事に撒けた様だ。


「兄さん……」


 私は広場の方を見るが、もう既に広場は全く見えないせいもあり、兄さん達がどうなったのかは全く分からなかった。

 正直な話、ここの街の治世者はそこまで良くはない。

 見える所の治安は良いが、それは見えない部分を食い物にしているからだ。

 門であったことを考えれば、なんとなくは分かる。

 正直な話、チナツの件がなければ長居したくないレベルである。


 しかし、本当にこれからどうしたら良いんだろう?

 今の私のパーティに真面に意思疎通が取れる人がいない。

 うどんとそばは何となくなら言いたいことは分かるが、会話が出来る訳じゃない。

 真冬は会話は確かに出来るけど、4歳児に一体何の相談をすれば良いというんだろう。

 それに、兄さんが居なくなったことに気づいたら、癇癪を起こす可能性だってある。

 パーティを分けるにしても、もう少し人員についてしっかりと精査して欲しかった。


 それに、こんな状態になったのをチハル達が知ったら、彼女達はどうなるだろうか?

 チハルが暴れ、チナツが落ち込み、チアキが爆笑する。

 そんな空気すら感じる。

 どちらにしても、この街は崩壊するだろう。

 特に兄さんが後遺症が残る様な怪我でもしようものなら、どうなるか分からない。

 本当に私なんかよりも、彼女達の方が魔王として相応しいのではないだろうか。


「にいさん……。あれ、にいさんはどこいったの?」


 そんな事を考えていたら、真冬が起きてしまった。

 周りをキョロキョロと見回して兄さんを探している。

 本当にこの娘はどれだけ兄さんが好きなんだろうか?


「兄さんは捕まった」

「えっ?」


 子供であっても嘘をつくのは良くない。

 私は正直に、兄さんが一平と共に衛兵相手に切った張ったの大立ち回りを演じた後、逮捕された旨を伝えた。


「にいさん、かっこいい!!」


 えっ?

 悲しむとかじゃなくて、カッコいいが先に来るの?

 確かに兄さんが本当に大立ち回りをしていたら凄くカッコいいとは思うけど……。


「兄さんに暫く会えなくなるんだけど良いの?」

「むーー。それはいや!! でも、にいさんが、わたしたちをにがしてくれたんだから、がまんする……」


 ぷくーと頬を膨らませて不満気にしてはいたが、我儘を言う気はないみたいだ。

 本当に聞き分けの良い娘だ。

 とても、チアキの元で育ったとは思えない。

 むしろチアキの元にいたからこそ、ここまで良い娘になったのかもしれない。


「それじゃあ、私の言う事を聞いて良い娘にして欲しいんだけど大丈夫?」

「それはぜったいにいや!!」


 ……なんで?

 私この娘に嫌われる様な事してないと思うんだけど?


「何で私の言う事は聞けないの?」

「だって、ちはるおねーちゃんが『ちふゆおねえちゃんは、てきだからまっさつしないといけない』っていってたんだもん」


 チハルの仕業か。

 しかも、子供に抹殺とか教えないで欲しい。


「チハルの言う事は間違ってるから信じちゃ駄目」

「えー! でもそのとき、チアキおねえちゃんも『ちふゆさんはあくのだいしゅりょう(?)なんだよ』っていってたよ!」


 確かに魔王は悪の大首領かもしれないけど、小さい娘にそれを言うの?

 むしろチアキの方が悪だと思うんだけど……。


「チナツは? チナツはその場に居なかったの?」

「ちーちゃん? ちーちゃんは『恋敵の言う事は全般的に信用できないから……』っていってた」


 何で、チナツだけちーちゃんとか愛称で呼ばれてるの?

 なんかズルい……。


「真冬、チナツの真似だけはそっくりね」

「ちーちゃんは、にいさんのつぎにすきだもんねー」


 ふふんと自慢気に言われてしまった。

 と言うか、チハル達は私を目の敵にし過ぎだと思う。

 もう少し、私を労わって欲しい……。

 別にチナツ達に恩を売る訳じゃないけど、小さい頃にあれだけ面倒を見て来たのにこの仕打ちとは、なんかやるせない気持ちになってきた。

 もう仕方がない。

 彼女達がそう言う戦略を取るなら私にも考えがある。


「真冬は兄さんが好き?」

「すきーー! だいすきー!」

「そう。チハル達も兄さんが好きなんだよ」

「そうなの?」

「つまり、チハル達も恋敵になるの」

「ってことは、ちはるおねえちゃんも、しんようしちゃいけないってこと?」

「そういうこと」

「えーーー!! チアキおねえちゃんも、ちーちゃんも?」

「そうだよ。あの三人は皆兄さんが好き。皆兄さんのお嫁さんになりたいと思ってる」


 私の言葉にショックを受けた様だ。

 ちょっと可哀想だが仕方がない。

 全部、私に仇で返してきたチハル達がいけないのだ。


「じゃあ、わたしはだれもしんようできないの……?」

「そんな事ない。兄さんは信用できる」

「にいさん?」

「そう、兄さん。その兄さんが自分がいない間は、私を兄さんの代わりだと思ってしっかり言う事を聞いて良い娘にしなさいって言ってた」


 ごめん、兄さん。

 でも兄さんだったら、時間があればそう言ってくれた筈。


「ほんと? にいさん、オリジナルのいうこときいたら、ほめてくれる?」

「褒めてくれる。むしろ、ちゃんと私のいう事を聞いたら兄さんの家族になれる」

「うん、わかった! ちゃんとオリジナルのいうこときいて、いいこにする!!」


 所詮、4歳児。

 ちょろい。

 何か騙す様で申し訳ないけど、これから危険な事をする訳だし、しっかり言う事を聞いてくれないと困る。


「それじゃあ、私の事はこれからはオリジナルじゃなくて、ママと呼んで」

「それはいや!!」


 ……何故?

 私の言う事はちゃんと聞く筈では……?


 うどんとそばが私を哀れな人間を見る様な目で見て来たのがよりショックだった。


チフユの家族になる発言は、嫁としてではなく子供として家族になれるという意味です。

というか本話を書いていて思ったのですが、チフユは勝ちヒロインの割には負けヒロインからの扱いが悪すぎる気がしました。

まぁ、負けヒロインからしたら、憎き恋敵なので仕方がないのかもしれませんが……。

兄さんの隣っていう幸せを手に入れてるんだから、多少は不幸になってもトータルでは幸福なはずです。

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