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座り心地


「それで、貴女はどういう理由でドワイトに寝取られた訳?」


 チナツが珍しく落ち着いた様子で羽虫に内容を尋ねた。

 珍しい。

 大体こういう系の話ってチナツ怒るパターンが多かったのに。

 しかも、脅されている=寝取られ案件っていう発想もどうなんだろうか。


「チナツ、疲れているんだね。わたしが後は処理しておくから、休んでいた方が良いと思うよ」


 椅子にしているチナツの肩を叩いて、わたしはそう提案した。


「あんた今の状況でよくそんな台詞言えるわね……。しかも、あいつの事以外で自分から動くなんて何を考えている訳?」


 チナツが訝し気な目でわたしを見てくる。

 あれー、もう少し信頼して貰ってると思ったんだけどな。

 少なくともチアキよりは信頼されてると信じたいところだ。


「まぁわたしにも色々と思う所があるんだよ」

「はぁ、あんたね」


 チナツは相変わらず不安そうな顔をしていた。


「ローズマリーさんも安心してよ。わたしは勇者としても名を馳せているけど、子供の頃のはチナツの下っ端としてチナツの小間使いをしていたんだよ」


 取り敢えず、チナツと話をしていても話が進まないので羽虫の方を向き話を聞く。

 ちなみに子供の頃の話は嘘である。


「分かりました。取り敢えず、あたしとドワイトの関係から説明させてください」


 羽虫も話が進まないのを理解したのか身の上話から始めようとする。


「いや、そう言うのはどうでも良いから、脅されている原因とその後どうしたいかだけ言ってよ」

「えっ、でも――」

「聞いたところで興味ないし、過去が変えられる訳でもないんだから。時間の無駄だよ」

「チハル……。あんた、話を聞くって言っておいてそれはないでしょ……」


 チナツからも冷めた視線が飛んできてしまった。


「どうせ、あの蛆虫の罠に引っ掛かって、身動きが取れなくなりましたとかそんなんでしょ?」

「まぁ、ざっくり言ってしまえばそうですけど……」

「なら、どんな罠を掛けられたのかと罠から抜けた後どうしたいのかだけ考えれば、対策考えられるじゃん。そんな、自己紹介的な部分なんて、興味ないしどうでも良いよ」


 わたしの完璧な理論にチナツは呆れたように口を開けていた。


「なんか凄い暴論を聞いている気がするわ」


 まぁ椅子の意見とか今はどうでも良いよね。


「それじゃあ単刀直入に話をお願いね」

「はぁ、分かりました。あたしは所属していた教会に売られたんです。ドワイトが高額の寄付をした見返りにあたしを引き取ったみたいで……」


 羽虫は教会に裏切られたことが悔しかったのか、目を伏せながら話を始めた。

 成程、やっぱり神って糞だね。

 お兄ちゃんが神になれば、こんな不条理な事にはならないだろうに。


「それは辛かったでしょう」


 チナツも神妙な顔をして羽虫の話を聞いていた。

 まぁチナツは裏切りとかそう言ったのが嫌いだから当然かもしれないけどね。


「ちょっと聞いても良いかな?」

「何ですか?」

「ローズマリーさんが蛆虫の元から逃げないのって、【奴隷紋】が体に刻まれてたり、教会に何か恩があったりするのが原因なの?」


 ちなみに【奴隷紋】とは、奴隷が主人の元から逃げられない様にしたり、逆らえない様にしたりできる契約書みたいなものである。

 契約の内容についても、離れられる距離から、逆らえる範囲まで色々と設定することが出来て、この世界では結構ありきたりなものなのだ。

 わたしもお兄ちゃんと主従関係を結びたいと思って、自分の体に【奴隷紋】を入れてみたが、お兄ちゃんに拒否されてしまった。

 なので、主人なしの【奴隷紋】がお腹に入っている。

 やっぱりこう言うのは丁度子宮の辺りに入れた方が、ご主人様(お兄ちゃん)の奴隷感が出て良いと思うんだ。

 なお、主人と奴隷の両方の同意が【奴隷紋】の効力を発動させるのに必要なので、わたしの【奴隷紋】はお兄ちゃん専用なのだ。

 ちゃんと三倍で動けるように赤い【奴隷紋】にしてあるのだ。


 何にしても【奴隷紋】を刻まれた奴隷は、主人の不利になる様な行動を取ることが出来なくなる。


「はい、そうです。あたしの【奴隷紋】は腰に入っています。」

「腰か……」


 腰もそれなりにエロさがある気がする。

 でも、ぱっと見【奴隷紋】って入墨にしか見えないし、あんまり入れるのはお兄ちゃんの趣味に合わないし良くないんだよね。


「変な事考えてないで真面目に話を聞きなさい」


 【奴隷紋】を入れる場所についての考察をしていたら、チナツに怒られてしまった。


「それで、教会への恩とかは何かあるの?」

「はい。あたしは孤児だったので、教会にいる他の子供達とは兄弟みたいに育って来たんです。あたしが逃げたら子供達をもっと酷い目に合わせるって……」


 ふむ、教会は孤児院としての役割もあると聞いている。

 そして孤児同士の繋がりというのは、やっぱり強いものなんだろう。


「ちなみにそれは何処の教会なの?」

「エルードの街です」


 エルードの街とは王都の西側にある公爵家だかの直轄領である。

 海に面しており、交易が大変盛んらしい。

 お兄ちゃんと行ってみたい街ランクに入っているので、わたしも把握している位には有名な街だ。


「最近、公爵家からの上納金が多いと思っていたらそんな事になっていたのね」


 チナツは自分の所属している組織の事だからか、結構責任を感じている様だった。


「ちなみに、貴女の前とかに居なくなった孤児っていたの?」

「はい、大体の人は有名な商家に引き取られたって聞きました」

「チナツどうするの?」


 これは結構根深い問題である。

 この感じだと結構昔から教会の地位を上げる為に、孤児を人身売買に使っていたという事だ。

 一応、人身売買自体は戦争とかの関係で合法ではあるが、それでも限度というものがある。

 あまりに道徳に反するような人身売買は禁止されているのだ。

 真っ当な職業につける為と公金を使って孤児を育ている組織が、自分達の利益の為に孤児を身売りしているなんて言うのは聞こえが悪い。

 しかもその組織が人々に徳を説いている教会なのだ。

 つまりこれは禁止された人身売買であり、教会――引いては国教の不正であると言える。


 国教から聖女として崇められているチナツとしては大事だろう。


「取り敢えず、事実関係とか確認しないといけないし、公爵家が絡んでいるとなると国にも色々と出てるかもしれない……。あたし一人で対処するのは難しいわね」

「成程ね。つまり、教会にローズマリーさんが裏切ったって事がバレない様に蛆虫を処理すれば良い訳だね!」


 そう、羽虫が蛆虫を裏切ったことが教会にバレなければ、別に教会にいる孤児が今すぐどうこうなる訳ではないのである。

 教会の不正の問題は今回の件には関係がない。

 気になるのであれば、気になる人が不正を正せばいいのだ。

 少なくとも、わたしには関係のない話である。


「それじゃあ、わたしが蛆虫を処理してくるから」

「えっ?」


 チナツに驚かれてしまった。

 何故に?

 そんなに、わたしが他人の為に動くって変な事なのかな。


「だってチナツはエルード街の教会の不正が気になるんでしょ? だったら聖女であるチナツがそっちは対処した方が権力的な意味でも良いと思うし、結局蛆虫を殺虫したところでそっちの問題も片付けないと全部終了したことにはならないでしょ」


 という理屈を使う。

 単純にこれからの展開にチナツが邪魔だから追い払うための抗弁である。


「――分かったわよ。あんたも気を付けなさいよ」


 チナツはちょっと考えてからそう答えた。

 まあ合理的に考えれば、これ以外の選択肢何てそんなにないと思うしね。

 でも、教会の件は急ぎじゃないから、二人で蛆虫の方にに当たる事も出来るんだ。

 チナツがそう思わないのは、わたしへの信頼からなんだろうけど。


「ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 羽虫はわたし達が助けてくれるのを察してか、涙を流しながらお礼を言っていた。


 いや、本当に白々しいよね。

 【奴隷紋】を付けられている段階で主人である蛆虫に逆らえないのに、何を言ってるんだろう。

 今回チナツの所に来たのだって、何かしらの裏がある筈なのだ。

 本当に、自分を奴隷から解放して欲しいと思っていてもだ。

 チナツだけなら騙せても、わたしは騙せないんだよ!!

 わたしを騙していいのはお兄ちゃんだけなんだからね。


 どうせ、裏でチアキがコソコソと動いてるだろうし、ここからは注意が必要だね。

 チアキがポカをするのは分かっても、何処でポカするのか分からないから油断できないんだよ。

 まぁ、放置しておくとわたしにまで迷惑が掛かりそうだし、今の内に動かないといけないんだけどさ。


 ――――本当に面倒な事をしてくれるよね。


 そうして、わたしは椅子にしていたチナツから立ち上がり、羽虫を連れて蛆虫の所へ向かうのであった。


今回の話の間、チナツはずっとチハルの椅子をしていました。

当人達は納得しているので、いじめではありません。

チナツが新しい性癖に目覚めた訳でもありません。

ただチハルが退いた後、立ち上がろうとして足が痺れてこけたのは、言うまでもない事でしょう。

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