その頃のチフユと兄さん
チハル達が魔王退治と言う茶番に旅立って半月が経った。
兄さんはチハル達が居なくなって寂しそうにしていたが、私個人としては心の安寧が訪れており、一時の平和を満喫していた。
そう、久々に昼過ぎまで寝坊が出来、依頼をする気のない日は一日中部屋の中に籠って、ボケボケする生活が出来るのである。
チナツがいれば早朝に叩き起こされて規則正しい生活を強要されるし、チハルがいれば部屋に籠っていると聖剣を投擲されて殺されそうになるし、チアキは特に何もしてこないけどいるだけで何か仕出かしそうで不安になるから見張ってないといけない気になるのだ。
そんな彼女達がいない。
これは平和で素晴らしい事なのだ。
「偶には部屋から出て働けよ」
今日は兄さんが私の部屋に来ていた。
所謂お家デートと言う奴である。
単純に私が部屋からあまり出て来ないのを心配されただけというのも一つの原因なんだけど。
「ちゃんと依頼を受けに行く時は外に出てる」
兄さんのあんまりな意見に私は反論する。
むしろ依頼書がイーストウッドに張り出されてるから、外に出る時は結構真面目に動いているくらいだ。
こういう時、異世界にあると言う【いんたーねっと】なるものが欲しくなる。
聞いた話によると家にいながら仕事が出来て、しかもお金が入ってくるらしい。
買い物もこの【ねっと通販】とか言うものを使えば家から出ずに欲しい物が届くと言う素晴らしいものだ。
引き籠り気質の私にこそ相応しい技術ではないだろうか。
こういう技術を是非発達させて欲しい。
チアキに頼めば開発してくれそうだが、どんな対価を求められるか分からないので、恐ろしくて頼めないのも事実である。
「そういう問題じゃないだろう。チハル達が居なくなってから自堕落が過ぎるぞ」
「そうは言っても、布団の上でゴロゴロするのは素晴らしい事。それに依頼以外にも用事があれば、ちゃんと外出してる」
そう答えると兄さんは溜息をついてしまった。
チハル達の前では一応お姉さん役として多少は気を張っているのだ。
居ない時くらい楽しても良いと思う。
それに彼女達の面倒を見るのは凄く大変な事なのだ。
兄さんの負担を減らす為にいつも頑張っているのだから、こう言う時くらいは自堕落な生活をしたい。
「そう言えばチハル達から連絡来たの?」
兄さんもチハル達を心配しているだろうし、変に話題に挙げるのも良くないと思ったので、今まで聞かなかったが、自分から話したのだから聞いても良いのだろう。
「毎日チアキが報告に来てるぞ」
「えっ?」
兄さんにあっさりと言われてしまう。
と言うか毎日来るとかチアキは暇なんだろうか……。
私にも報告に来て欲しいんだけど……。
「ほら、チアキの奴【転移魔法】を作ってたじゃんか。アレを改良して日常的に少ない魔力で使える様にしたらしいぞ」
兄さんは凄い気軽に言っているが、実際にそんな事をするのは高い技術力が必要だ。
少なくとも私では魔王の力を使ったとしても出来ない。
こういう事を見せ付けられると、チアキの高い技量を改めて感じてしまう。
本当に妬ましい……。
「それでチハル達は無事なの?」
私の嫉妬心は兎も角としても、彼女達が危険な任務に行ったのは事実である。
出来れば、元気な状態で帰ってきて欲しい。
下手に討ち死にする位なら逃げ帰ってきて欲しい位だ。
まぁどうせ、あの三人は兄さん以外の事で命を懸ける気はないとかで、途中で逃げそうな気もするけど。
「取り敢えずは三人とも元気らしいぞ。」
「それは良かった」
「後、魔王討伐の為に新しいパーティを選定して、今は12人の大所帯になっている様だな」
「それは問題しかない気がする。チハルが他の人達と上手くやれてるのか凄く不安……」
三人が無事なのは良い事だが、下手に他人が入るとトラブルを起こしそうな気がする。
チナツは社交性が高いから、あの変な恋愛観と性癖さえ出さなければ、疎まれることはないだろう。
チアキは人懐っこい空気を出しているから、その空気が実験動物を騙すためのものと気付かれない限りは大丈夫のはずだ。
ただ彼女はウッカリしているから、その空気が道中でバレて周りに迷惑をかけていそうな気がするけど。
チハルは人見知りが激しいし、ある程度仲良くならないと名前すら呼ばない(私は10年掛かった)し、自分から用がなければ会話すら成立させる気がないしと、大丈夫そうな気配が一切ない。
不安だ……。
「何でも、隣国から来た英雄を役に立たないとかで、パーティから追い出したらしいぞ」
「やっぱり……。本当に大丈夫なの?」
「もうチナツに期待するしかないな……」
それはチナツのストレスがヤバそう。
問題を変に抱え込んで、爆発しなければ良いんだけど。
「でもチハルの事だから追い出したのだって、他にも理由があるんじゃないの?」
「そうだな。あいつの事だから、パーティが解散すれば魔王城に行かずに村に帰れるとか思ってそうだな」
兄さんは遠い目をしていた。
流石実兄なだけあってチハルの事をよく分かっている。
言われてみると、私もそう思う。
むしろ、それ以外の理由が思いつかない。
「でも、魔王のいない魔王城に行っても意味がないから、結局はどこかで引き返さないといけない訳だし、チハルの考えもアリだと思う」
「まぁそれもそうだけどさ……。そう言えば、変態達は何か言ってないのか?」
兄さんは魔王軍の動きが気になっている様だ。
確かに、私の所には定期的に一平達が魔王軍がどうなっているのか報告に来る。
「特には何も言ってない。最近の話題だとカップ焼きそばの新味の開発に成功したとかそんな事くらい」
「新味だと!!」
「海鮮塩焼きそばだって。何でもシーフードを乾燥させて腐らない様にさせるのが大変だったとか」
「それは素晴らしい品だな」
「この間1ダース置いてったから、兄さんに後で一つあげる」
「それは助かる。変態にもお礼を言っておいてくれ」
即席麺のネタを出した私も悪いけど、兄さんのこの麺製品への異常な愛は何なんだろう。
「分かった。取り敢えず、一平にはチハル達に危害を加えない様に頼んでるけど、主戦派の日清派がどう動くかまでは保障できない」
「それでも主戦派以外が敵対しないのであれば、チハル達の危険も減るだろ」
「そうだと良いんだけど……」
それでも危険であることに変わりはない。
兄さんも普通そうにしてはいるけど、内心ではチハル達の事を気にしているはずだ。
「やっぱり私も行った方が良かった」
「そうは言っても魔王が勇者パーティにいたら問題だろう。魔王城の方に行ったって主戦派に捕まったらどうなるか分からないんだ」
兄さんの言う事も正しい。
勇者パーティに入れても、私が魔王であることがバレたら道中で殺される可能性が高い。
チハル辺りは嬉々として聖剣を向けてきそうな気がする。
魔王城に行っても主戦派の日清派に捕まれば、もう村には帰ってこれないだろう。
そう考えると、このまま村にいるのが一番なのだ。
「不安なのは分かるが、今はチナツ達を信じるしかない」
「分かった」
兄さんにそう言われたら、私もそう答えるしかない。
何にしても、チアキとチハルが何かしでかす前に、そしてチナツの胃がヤバいことになる前に、無事に帰ってきて欲しいものである。
十話ぶり位に登場した兄さんとチフユでした。
なお、この後チナツからの手紙が届き二人で更に溜息をついています。
チハルとチナツはチアキが兄様に会いに来ていることは知りません。
後でチアキがお仕置きされる案件ですね。
次回からはやっとドワイト君回のスタートです。
引き続きよろしくお願いします。




