わたしが一番お兄ちゃんを良く分かってるんだから
逃げ出して部屋に立て籠もったチナツをチハルと協力して引き摺り出し、当初の目的地であるチフユの家に来た。
玄関の前では最早ペットと化したうどんとそばが門番の如く両脇に立ち、侵入者を監視している。
この家の住人に危害を加える様な奴が来たら、自らの命を賭して住人達を守るためだ。
現に、うどんとそばはチハルに対して牙を剥き出しにして威嚇している。
その姿は正に魔獣である。
今日はチハルはお前達の主人に客として呼ばれているんだが、その対応で良いのか。
「お兄ちゃん、いつもの事だから大丈夫だよ」
チハルは俺に対して満面の笑みを浮かべながら、うどん達の鼻っ柱を思いっきり蹴飛ばし行動不能にさせていた。
相変わらずなチハルのバイオレンスな対応にちょっと悲しくなる。
と言うか、俺の見えない所で何時もこんな事やってたのか……。
気を取り直して、チフユの家を見る
見慣れた筈の家なのにも拘らず、これから中で起こる事を考えると、そこは伏魔殿の様にも感じられた。
「チフユの家に入るのに、ここまで気が重たいのは初めてだ……」
「奇遇ね。あたしもよ」
チナツも俺と同意見の様だ。
表情が死んでいる。
チアキのやる事で真面な事は殆どない。
今回はチフユが側にいるとは言っても、チアキのレベルの高さを考えれば油断は出来ないだろう。
チハルの方を見るとシャドーボクシングをしており、何時でも乗り込むことは可能だと言外で語っていた、
「わたしは何時でも行けるよ! いざ、魔王決戦だよ。お兄ちゃんの貞操を狙う魔王と賢者をここで討伐して、世界平和を目指すよ!!」
チハルが思っている様な展開にはならないと思うんだが……。
「まぁチフユも付いてるし死ぬ様な事にはならないでしょ」
チナツも覚悟が決まった様だ。
「何時までも、ここにいても仕方ないし入るか」
そして、取り敢えずチフユの家へと突入することになったのである。
家に入るとチフユが玄関で待っており、直ぐに部屋に案内される。
チフユの部屋には、不敵な笑みを浮かべたチアキが腕を組んで待ち構えていた。
「兄様、良くきてって、えーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
チアキがラスボスの様に俺達を出迎えようとしたが、それはチハルの手によって阻止された。
なぜなら、その姿を見たチハルが腰の剣を抜刀し、チアキに颯爽と切り掛かったからだ。
ビビったチアキとか久々に見るな。
しかし、その行動もまたチナツの手によって阻止される。
「あんた何やってるのよ?」
チハルを鞭で拘束しながら、その行動に苦言を述べる。
今の一瞬の攻防は俺の目には何をやっているのか良く分からなかったが、後でチフユに聞くと一流の武人が最大限の技術をつぎ込んだ攻防だったと教えてくれた。
こんな狭い部屋でそんな高度な技術を使わないでくれ。
俺は思わずそう思ってしまったのだ。
「いや、目の前に巨悪が見えたから討伐しないとといけないなと思って……」
ちなみにこれがチハルの良い訳である。
巨悪っていうなよ……。
チアキの手によって結構世の中便利にもなってるんだし。
ただの巨悪ではなくて必要悪だぞ。
「チナツ、ナイスプレイだよっ」
チアキもチアキで不敵な笑みを崩さずに、チナツの行動を褒め称えた。
自分でも十分対応できたと言わんばかりの姿だが、あの耳の動きは内心ではビビってたな……。
頬から汗が流れてるし。
「それで、俺達をわざわざ呼び出してどんな要件だよ?」
取り敢えず、この場を仕切り直すためにもチアキ達に用件を尋ねた。
「兄様達にはうちが開発したこの〈兄様好き好きメーカー〉の試験に付き合ってもらいたいんだよっ」
そう言ってチアキは机の上にある2本の棒が生えた四角い箱を指さした。
「〈兄様好き好きメーカー〉とは?」
「この機器は二人で使うもので、その二人の相性を診断できるものなんだよ」
「成る程」
つまりどういう事だ?
「つまり、相手が自分の事をどう思っているのかが一目で分かるって事だよっ!!」
確かにそれは凄いものだ。
これがあれば世の中の恋愛事は一発解決であろう。
普及すれば、チナツみたいなツンデレには必須のアイテムとなるかもしれない。
「ちなみにどうやって相手への想いを測定してるんだ?」
「当然、洗脳魔法だよっ!」
元気に違法物ですとか言わないで欲しいんだが。
「ちゃんと国から許可下りてるから大丈夫だよっ。取り敢えず、チハルとチナツでやってみて欲しいなっ」
「何であたしがやらないといけないのよ?」
「チナツが一番腹芸出来ないから、この機器の正確さを図るには丁度いいんだよっ」
確かにチナツは思ったことが直ぐに顔に出る。
そう言った意味ではこの機器の性能を助かめるには丁度いい存在なのかもしれない。
「あんたあんまり失礼なこと言ってるとチハルを放しても良いのよ?」
しかし馬鹿にされてると思ったチナツは、当然の如く額に青筋が浮かべた。
だから、チアキに腹芸が出来ないって言われるんだよ。
後、自分の義妹を猛獣の如く扱わないでくれ……。
「まぁ取り敢えずやってみてくれよ」
話を進めるために助け船を出す。
チアキではないが、こいつらがどう思いあっているのか俺も興味がある。
「はぁ、しょうがないわね」
チナツは溜息を付きながら、チハルを解放し棒を握った。
チハルも腰の剣を抜こうかちょっと考えていた様だが、俺の目線を読み取り、空いている方の棒を握る。
「これで少し待つと真ん中のガラスに、二人がどう思いあっているのかが表示されるんだよっ」
チアキの言葉通り、ガラスに文字が表示された。
[チナツ] [チハル]
厄厄厄厄厄 □□□□□
厄煩煩煩厄 □□□□□
厄護愛護厄 □□殺□□
厄煩煩煩厄 □□□□□
厄厄厄厄厄 □□□□□
「この結果はどう言う事なんだ?」
「左がチナツがチハルに対してどう思ってるか、右がチハルがチナツに対してどう思ってるかが表示されてるんだけど……」
チアキは顎に手を当てて考え始めてしまった。
「チハルの方が文字が一つしか出てない。一応、試験段階では30文字出るはずだったのに」
チフユが考え始めたチアキに変わって説明してくれた。
「あたしってチハルから見たらこの程度の存在だったの……」
チナツはチナツで診断結果にショックを受けている様だ。
「文字が読めない組は肩身が狭いね」
文字の読めないチハルは、結果に全く興味がないようである。
「ちなみにチナツの方はどうなんだ? 俺的にはラーメンの丼の柄を思い出して、お洒落さを感じるんだが」
「兄さん、周りに書いてある文字はラーメンのマークじゃなくて厄って文字。チナツの結果を簡単に言うと面倒だけど大切な存在ってところだと思う」
「成る程な。チハルの方に書かれている文字は何なんだ?」
まぁチナツの立ち位置を考えればそんな物だろう。
チハルの方も一文字出てるらしいが、何が出ているんだ。
「チハルのは殺す一文字ね」
「えっ?」
「逆に考えるとそれ以外に何も思っていないみたい」
この機械が本物であればちょっとチハルの将来が心配になってくるレベルだ。
「まぁまだ一組目だから、次はちゃんとした結果が出るはず。」
チフユはそんな不安気な俺を見て、フォローしてくれた。
「取り敢えず、次は兄様とチハルでやってみて欲しいなっ」
再起動したチアキに言われ、俺達は棒を握った。
[兄 ] [チハル]
憂憂憂憂憂 愛愛愛愛愛愛愛
護愛愛愛護 愛愛愛愛愛愛愛
厄護愛護厄 愛愛愛殺愛愛愛
護愛愛愛護 愛愛愛愛愛愛愛
憂憂憂憂憂 愛愛愛愛愛愛愛
チアキは結果を見て頭を抱えてしまった。
何故か、チハルだけ想定していた結果が出ないのである。
「チハルの方だけ文字が多いんだが?」
「これはわたしの溢れんばかりの愛を表しているんだよ!!」
これにはチフユも苦笑いしていた。
お兄ちゃんの『憂』はチハルの将来とか人間関係とかの不安を指しています。
お兄ちゃんにとっては、チハルも大切な存在なのです。
他の面子については次回出るはずです。




