兄様好き好きメーカー
チアキが官憲に逮捕されてから、数日が経った。
その間、チハルが兄さんの布団に入り込もうとしてチナツに縛られたり、チアキが新しい魔法を開発する為に生贄を求めて王都に帰って捕まったりしたが、概ね村は平和だった。
その間、私は冒険者ギルドにも出掛けず、兄さんの嫁として三人に認めてもらうためには、どうしたらいいのか検討をしていた。
生半可な方法ではチハル達を説き伏せることはできないだろう。
その為には、目に見える証拠が必要である。
「それでうちの所に相談来るとか、チフユさんも随分耄碌したんじゃないかなっ」
頭のおかしい娘には、頭のおかしい娘をと言うことでチアキに相談しに来た結果がこれである。
まぁ、この程度の反応は予想の範囲内だ。
会話の成立しそうにないチハルや、会話は成立するが人の機微に疎いチナツではダメなのだ。
「貴女が簡単に協力しない事くらい分かってる。だから、貴女にこれをあげる」
私はそう言って、自分の髪の毛を一本引き抜き、チアキに提示する。
「そんな物を貰ってうちが喜ぶとでも?」
口調は不満げではあるが、耳が上下にピクピク動いているので提示した物に興味津々なのは明らかである。
チナツは顔に感情が出るが、チアキは耳に感情が出るのである。
この耳の動き方で喜怒哀楽を図ることが出来るのだ。
これは兄さんが長年チアキの事を観察した結果、身に付けた技術らしい。
兄さんと婚約した時に、チアキとうまく付き合うには必須の技術と言うことで教えてもらったのだ。
後に兄さんの前でだけチアキが意図的に動かしていたことが分かるのだが、感情が酷く刺激されると耳が動くことに変わりはない。
「魔王の転生体の細胞、欲しかったんでしょ?」
つまりチアキの興味のなさげな反応は、自分に不利な交渉にならない為の会話術なのである。
自分には必要ないと思わせておいて、安く買いたたくというのは交渉術の基本だろう。
チアキが私の魔王としての力に興味を持っているのは事実なのだ。
だからこそ私が支払う対価は、チアキに対して効果があるはず。
「分かったよ。それで、うちに何をして欲しいのかなっ?」
チアキは「まぁいっか」といった顔で私の提案に乗る。
私としても自分の細胞をチアキに提供するのは怖い。
何をされるか分からないし、クローンを作られる可能性もある。
しかし背に腹は代えられないのだ。
「私が兄さんに相応しいってことが分かる明確なものが欲しい」
だから、チアキに兄さんに対する好感度を即判断できる機器を作成して貰いに来たのである。
一週間後、チアキが例の機器が完成したと私の所に来た。
チアキは懐から直方体の塊を取り出し机の上に置く。
「これが頼まれてたものだね。その名も〈兄様好き好きメーカー〉だよ」
その表情は今回は大変面白いものが作れたと満足げである。
「何これ?」
その塊には片手で握れる棒が2本生えており、その間には一辺が20cm程のガラスが付けられていた。
「チフユさんに頼まれていた好感度を測定する機器だよ。好感度を測定したい人同士で、それぞれの棒を握ってもらうと相手がその人をどう思っているのかが一目で分かるんだっ」
それが本当であれば、これは凄い製品だ。
「ちなみにその相手への感情はどうやって計っているの?」
「そんなの決まってるよっ。棒を握ると催眠魔法が発動して、握った人の頭の中を解析、もう片方の棒を握った人への感情を読み取るんだよ。サイコメトリー的な奴だねっ」
それは違法な品って事では?
この娘はどうして催眠魔法が違法な魔法であることを理解しないで、積極的に使っていくんだろう……。
「これが違法な品だって主張したさそうな目をしているねっ。でも、ちゃんと王都の魔術研究所から正式な認可を貰った品なんだよ」
「魔術研究所って貴女の勤務先じゃない。どうせ不正したんでしょ?」
「それは秘密だよっ!」
チアキは悪びれない態度でケラケラと笑った。
まぁチアキに頼んだら法律に抵触する可能性があるのは分かっていた。
今回は違反してないだけ良しと思おう。
「まぁ取り敢えず、試験的にうち達が互いにどう思っているのか見てみようよっ」
「後遺症とかは大丈夫なの?」
「安全性については所長からちゃんとOK貰ってるから安心して欲しいなっ」
チアキが確認してないのであれば、確かに大丈夫だろう。
「じゃあ、チフユさんはそっちの棒を握って」
チアキに声に合わせて私は棒を握る。
もう片方の棒は既にチアキが握っていた。
「そうするとこのガラスに相手をどう思っているのかが表示されるんだっ」
3秒程待つとガラスに以下の文字が表示された。
[チフユ] [チアキ]
警恐恐恐警 無無無無無
警嫉嫉嫉警 無無興無無
警災尊災警 無無尊無無
警嫉嫉嫉警 無無興無無
警恐恐恐警 無無無無無
「これは?」
「相手の事をどう思っているのか、30文字の漢字で表しているんだよっ。チフユさんはうちの事を随分と警戒しているみたいだねっ」
「逆にチアキは私に対して何とも思ってないって事?」
「……。取り敢えず、こうやって結果が出るってことだよっ!!」
この娘、誤魔化した。
まぁ一文字だけでも『尊』があるって事は、思ったほど悪い結果ではなかったと思おう。
「さて、これで皆の相性を計りに行くよっ」
この手の脳内診断ってジョークグッズだから面白いと思うんですが、ガチで相手の感情を読み取ると人間関係崩れそうですよね。
チフユはそこまで考えてやっているんでしょうか?
次回は、チハル達と兄さんの相性診断です。
皆の兄さんへの愛の重さが見られるぞ!




