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賢者様の独特な倫理観


 チハルとチフユの暴走を止めた後、詰所の総合受付付近で待っているとチアキが出てきた。

 何でも詰所の人達が、俺達をここで待機させているとチハルの手によって詰所が破壊されそうだからという理由で、通常よりも早くチアキを釈放してくれたらしい。

 これをチハルのファインプレーと見るべきなのか、兄として恥ずかしいと見るべきなのかは、考え始めると終わらない課題になりそうなので、帰ったらチナツにでも聞いてみよう。

 チナツの事だから「恥ずかしい話に決まってるでしょ」とか、お前は頭沸いてるんじゃないかと言わんばかりの顔で言いそうな気もするがな。

 しかし、こう言うのを見ると結果も大事だが、過程も相応に大切だと実感するものだよな。


 と言う訳でチアキの登場である。

 俺の想定通り、想定外であった牢屋にいたとは流石としか言い様がない。

 イーストウッドに着く前の段階で、チアキが詰所で捕まっていると想像できた人がいれば、その人は一流のチアキニストであると言えるだろう。

 そんな人がいれば、是非チアキを嫁に貰って欲しい。


「兄様、ごめんなさい。迷惑かけちゃったねっ」


 そんな考え方が悪い意味で規格外のチアキではあるが、俺の顔を見ると非常に申し訳なさそうな顔をしていた。

 何時も、満開のラフレシアを何輪も咲かせたような顔をしている癖に、今日に限ってはそのラフレシアが枯れていた。

 やってしまったものは仕方がないし、今回の件は取り返しの付くモノだったから良いが、きちんと反省はしてほしいものである、

 その為、こうして第一声で言い訳をせずに謝れると言うのは良いことだと思う。


「次はちゃんと捕まらない様に色々と注意するし、捕まったとしても兄様に迷惑を掛けない様に気を付けるよ……」


 予想通り反省する方向性が違ったが……。

 まぁチアキの生育環境が悪かったせいもあるのだろうが、もう少しちゃんとした価値観と倫理観を養って貰いたかった。

 これは全部叔父さんたちが悪いと思う。

 チアキは頭の回転は優れているし、興味を持ったことには惜しみなく時間をかけて多角的に研究するし、新しい物を開発するための着眼点も素晴らしいものがある。

 だからこそ、もう少し悪いことに対するブレーキをしっかりして欲しいと思うのだ。


「チアキ、次はないよ……」


 そしてそんなチアキに対して、チハルは相変わらずハイライトさんがログアウト中であり、激おこぷんぷん丸だった。

 体全体からどす黒いオーラを(みなぎ)らせ、左手には抜身の剣を握っている程だ。

 そんなチハルを見て、周りにいた兵士達が抜刀し始めてしまった。

 兵士の対応は正しいが、何人かの剣先は震えており、チハルの圧に負けているのが分かる。


「大丈夫だよっ。もう、ここの隊長の不正は見つけられたし、次捕まった時はそれをダシにすれば、兄様に迷惑を掛けないで釈放されるはずだよっ」


 まぁチアキはそんな圧にはなれているし、チハルよりも自分の方が各上だと思っていることもあり、普通に返事を帰すのだった。

 しかし、返事の内容がちょっと爆弾過ぎないか……。

 こう言った発言は日々昇進競争という荒波の中で戦っているお偉いさんには好ましい物なのだ。

 事実、『不正』という単語を聞き取った、副隊長というプレートの書かれた席に座っていたお偉いさんがこちらの話に耳を傾け始めている。


「不正って、ここの隊長何かやったの?」


 一応、正義の職業に就いているチハルは不正について興味を持った様である。

 まぁ興味を持ったというよりは、単純にここで不正を暴いて隊長を更迭させることにより、詰所におけるチアキの影響力の拡大を防ごうというのが、チハルの目的だろう。

 本能に従った行動ばかりするが、チハルは意外と頭が良いのだ。


「不倫とセクハラだね。なんでも入ったばっかの若い職員を権力で言う事を聞かせて食べちゃったって話らしいよっ」


 そして、チアキはそれに気が付いているんだろうが、チハルにのって普通にここで話し始めてしまった。

 チハルを取り囲んでいた兵士も自分の上司の話になる為、興味津々である。


「なるほどね。若い女の子を無理矢理犯そうとするなんて最低だね!」


 チハルはチハルで敢えて、回りに聞こえる様に大きな声でその内容を繰り返し、聞き耳を立てていたお偉いさんに情報を流し始めてしまった。


「兄さん、あの二人止めなくていいの?」

「今更遅いだろ……」


 冷静なのはチフユだけである。

 まぁ、チフユは単純に面倒ごとに巻き込まれたくないだけだろうけど。


 そして、今更二人を止めた所でこの話は終わらないのだ。

 一度、隊長への疑念が沸いてしまったら、それが払拭されるまで、隊長への信頼感が地に落ちてしまう、

 その疑念は兵士たちの仕事――特に治安維持に直結することになり、最悪の場合犯罪率が上がってしまうのである。

 そうなると、ここはチアキの仕入れた情報を全部暴露させて、速やかに現隊長には席を開けて貰うのが一番になってしまうのだ。

 詰所の人達もまさか贈賄の被疑者を捕まえたら、組織のトップが更迭される流れが出来るとは思ってもみなかった事だろう。

 俺も思わなかった。


「兄様、一応これで今回の件の埋め合わせが出来たと思うんだけどどうかなっ?」


 チハルとの暴露話が終わったのか、チアキが声を掛けてくる。


「やっぱりお前わざとやったのか?」


 そんなチアキを見ていると、隊長の不正でここの詰所を牛耳ろうとは思っていなかった様に感じるのである。


「今回の隊長の件は、職場の上下関係がなければ即強姦で逮捕される様な案件だからねっ。こういう心と体を傷付ける様な罪は、ちゃんと償って貰わないと皆納得しないんだよっ」

「それは確かにそうだけどさ」

「特にこう言う件は中々表面化しないで終わっちゃうからね。今後の事も考えるとこう言った所で暴露した方が皆の為になるよっ」


 そう言ったチアキは小さな子供の様に満面の笑みを浮かべていた。

 なんで、こいつは他人の行動に対する倫理観だけはしっかりと持ってるんだろうな……。


「自分の行動に対してもその倫理観を適用してくれ」


 俺はそうチアキに言わざるを得なかった。



 後日談にはなるが、隊長は普通に免職された上、その被害を与えた職員に多額の慰謝料を支払うことになったそうだ。


「同じ女性としてその様な卑劣な手段は決して許すことはできなかった。今回の件を糧に組織の自浄作用を高めて、詰所には今後もこの街の治安維持に邁進して欲しい」


 チアキ容疑者は今回の件の後、報道にインタビューにそう答えていた。

 正しいコメントであるとは思うが、こいつに言われると物凄い違和感を感じてしまう。

 チアキには是非とも違和感を感じさせずに、こういった事を言える人物になって貰いたいものだ。


「兄様、今後も色々と捕まるかもしれないけど、見捨てないでくれると嬉しいなっ」


 インタビューの様子を見ていた俺に気付いたチアキは近寄ってきてそう言った。

 それに対する俺の回答は一つである。


「そもそも、捕まるようなことをしないで欲しいんだが」


今回の話を書いていて思ったんですが、チナツだけあんまり他の三人の話に絡んでこないですね。

別に省いている訳ではないんですが……。

まぁ前の話でチナツだけ重たいバックグラウンド出したんで我慢してもらいましょう。


次回からはチフユが三人に認めて貰える様に、積極的にヤンデレ達に絡んでいく話になっていきます。

無事、チハル達にお兄ちゃんの嫁として、義姉として認めて貰えるのでしょうか。

後私も完全に忘れがちですが、魔王軍の方の話も進めていければと思っております。


引き続きよろしくお願いします。

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