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お兄ちゃんとわたしと塵芥


 勇者とは、勇気ある者を指す。

 そして、誰もが恐れる様な困難に立ち向かい偉業を成し遂げようとしている者に、敬意を表す言葉でもある。


 先代の勇者は、魔王の討伐と言う当時は不可能だと言われていた困難に立ち向かい、人類の平和と言う偉業を成し遂げた。

 今現在まで伝わる物語の中でも、信じていた仲間と婚約者の裏切り、魔王四天王という強敵との生死を掛けた戦い等、魔王決戦も困難なものではあったが、道中もまた困難に満ち溢れていたことが語られている。

 しかし、そう言った困難を打ち破ったからこそ、先代は勇者として認められているのである。


 そして今代の勇者もまた困難に挑み、偉業を成し遂げようと努力していた。

 それは、宗教で禁忌とされている近親相姦を周りに邪魔させずに成立させるという困難に挑み、この国初の実兄との結婚を認めさせると言った偉業を成し遂げようとしていることであった。

 その偉業を成し遂げるためには、実兄との結婚を邪魔しようとする存在(聖女や賢者や魔王)を如何に排除するのか。

 一方通行の愛ではなく、双方向の愛にどうやって発展させていくのか。

 そう言った誰もが恐れる様な困難が待ち受けていた。

 だからこそ、その困難に挑む姿は勇気ある者――即ち、勇者として相応しい存在であると言えるのだろう。



 俺はチナツと別れた後、婚姻届の提出を妨害するために動いているチハルとチアキを回収しようとイーストウッドに向かう事にした。

 チフユはまだ気を失っているが、先程のチナツとの会話の感じだと今回婚姻届を出すのは諦めているだろう。

 仕方がない事ではあるが、こうしてチハル達に自分との関係を認めさせる様、頑張ると言ってくれたのは素直に嬉しかった。

 そんな言葉を聞くと、チフユだけに任せるのではなく俺も色々と努力しないといけないと思えたのだ。

 そんな訳で、チフユを背負ってイーストウッドに向かっているのである。

 チフユの怪我は村を出る前にチナツが回復してくれた。


「あんたの為にやった訳じゃないんだからね!」


 そんなテンプレツンデレ台詞という御言葉も合わせて賜った。

 この御言葉はツンデレ業界の中では一位を争うような素晴らしい御言葉であり、この御言葉を気兼ねなく発言することが出来るチナツと言う存在は、ツンデレ界の救世主(メシア)と言うことが出来るだろう。

 実際はただのチート主人公狩り専門のツンデレだがな……。



「お兄ちゃん、やっと来たね」


 そして、イーストウッドに向かう森の中で現れる第二の刺客。


「中堅戦はお前か、チハル」


 俺の目の前には堂々と腕を組んだ格好で立ち塞がるチハルがいた。

 しかし、チハルも戦闘で決着を付けたいとか言い始めたら、チフユは意識失ってるしどうにもならんな。

 そんな俺の不安を余所に、チハルは俺を――正確には俺の背中を見て、不快そうな顔をしていた。


「お兄ちゃん、背中にいる汚物は何?」

「汚物っていうなよ……。昔お前だって世話になっただろう」


 チハルは俺がチフユを背負っていることが気に食わないらしい。

 目からハイライトがログアウトしていた。

 ハイライト先生、仕事をしてください。


 しかし、そんなチハルではあるが小さい頃は俺の後ろだけでなく、チフユの後ろも偶について回っていたのだ。

 それが、何故か五歳の頃になると右手に包丁を装備する様になっていた。

 日が暮れた後に、右手に包丁、左手にランタンを持って、無表情でチフユの後を追い掛け回していた姿を見た時は、幼心に妹に恐怖を覚えたものである。

 そして、得物は年々大きくなっていき、包丁から脇差へ、脇差から小太刀へ、小太刀からチェーンソーへと進化していった。

 白いマスクを付けながら、チェーンソーを振り回して、チフユを負い掛けていた時は、思わず間に入ってしまったものである。

 14歳の小柄な少女が夜な夜な16歳の美少女を追い掛け回すのだ。

 一時期、イーストウッドの新聞に載っていたのだけは覚えている。

 正直な話、俺も怖かった。

 チフユは良くトラウマにならなかったものである。


「そんな話あったっけ? わたしの記憶的には、お兄ちゃん以外の事はどうでも良いからよく覚えてないや」


 しかし、そんな話もチハルは覚えていない様だった。

 こいつは昔からそうだ。

 俺の事は三歳になる前からお兄ちゃんと呼んでくれていたのに、チフユの名前を呼んだのは13歳になってからだった。

 チナツとチアキに至っては14歳になるまで名前を覚えようともしなかったのである。

 俺の事以外に一切関心を持とうとしない女であった。

 実の両親すらもどうでも良いと思っている節がある。


 チハルが、何故ここまで俺に固執しているのかは全く記憶にないが、それ位チハルはヤンでいるのだ。


「ところでお兄ちゃん。どうして、イーストウッドに行くのかな?」


 相変わらず、チハルの目にハイライトさんは戻ってこない。


「俺達の婚姻届を出すのを妨害しようとしているお前達を回収しようと思ってたんだ」

「俺達って、わたしまだ婚姻届にサイン書いてないよ」

「いや、お前とのじゃなくて、チフユの――――」


 俺の言葉は、チハルの出した殺気に遮られた。

 殺気自体は俺の背中にいるチフユに向かっているものではあったが、途中にいる俺にも十分浴びせられた。

 一流の武人は、殺気だけで人を殺せると言うが、その状況が分かった気がした。

 チフユさん、いい加減起きてチハルの相手をしてやって下さい。


 そんな気持ちにさせる様な殺気だった。


「まぁ良いや。お兄ちゃんの感じからすると婚姻届を出すには諦めたんでしょ?」


 しかし何に納得したのか分からないが、チハルの目にハイライトさんが戻ってきた。

 その結果、チハルからの殺気も消える。

 俺はまだ生きていられるんだな……。

 こんなにも嬉しい事はない。


「ああ、チナツの説得にチフユが折れたんだ」

「やっぱり、チフユお姉ちゃんはその程度にしかお兄ちゃんの事を思ってないんだね……」

「それは違う!! チフユは、お前達に俺との仲を認めて貰える様に努力するってそう言っていたんだ」

「そんな事が可能だと思っていること自体が、現状をちゃんと把握できてないってことだよ。今回は諦めたみたいだから良いけど、次はないよ」


 そう言ったチハルの目は狂気に満ちていたのだ。

 これ、本当に説得できるのか……。


「それじゃあ、お兄ちゃん。イーストウッドに行こうよ」


 一抹の不安を覚えながら、俺はチハルと共にイーストウッドへと足を向けた。


今回はちゃんとコメディをお届けできたと思います。

チハルの狂気っぷりがアレでしたが、これはコメディです。

チハルはむやみやたらと人を殺さない良い娘です。


次回はチアキの所まで話が進むはず。


引き続きよろしくお願いします。


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