聖女はにぃにを寝取りたい
「チナツ、何でここに?」
俺とチフユの婚姻届提出の旅路はチナツの手によって阻止されようとしていた。
チナツは何時もの聖女然とした恰好をしており、腰には愛用の鞭を装備している。
これは俺達を確実に止めるつもりなのだろう。
「あたしがここに来た理由は一つだけよ」
そう言ったチナツは懐から1枚の書類を取り出した。
「それは離婚届……」
チフユは一目でその書類がなんなのか把握する。
離婚届――それは結婚した二人を赤の他人に戻す究極の書類である。
少なくともラブコメで出てきてはいけない品ランキングがあるとすれば上位に入るものだろう。
まぁ婚姻届もそうそう出てくるものではないが……。
そんな危険な品をチナツは堂々と提示してきたのである。
「流石、チフユね。この書類を一目で離婚届と判断するなんて……」
「そんな禁忌の書類を取り出してどうするつもり?」
「決まってるじゃない。あんた達の名前をここに書いてもらうのよ!」
「どういうことだよ?」
チナツのその毅然とした態度に思わず疑問をぶつけてしまう。
俺の中ではチナツはまともな部類だと思っていただけに、その突拍子のない行動にチナツの頭を心配してしまったのだ。
「この書類をあたしが持つことによって、何時でもあんた達を離婚させることが出来るって事よ」
「それはそうだろうが……」
「あたしはあんた達の結婚について文句を言うつもりはないわ。でも、何時までもその結婚生活を認めるわけではないの」
「つまりお前はタイミングを見て、俺を寝取るつもりなのか!?」
この女、恐ろしい恋愛観を持っている。
ラブコメで出してはいけない恐ろしい存在である。
物語のエンディング後から攻める女。
それがチナツだ。
しかし、俺を寝取るつもりとは凄いパワーワードだな……。
「そ、そんなことを言っている訳じゃない!! あんまり調子に乗らないで頂戴!!」
素直になれないチナツは当然真っ赤になって否定するが、その表情や仕草からそのつもりなのは明らかなのであった。
どちらにしても、ここでチナツの足止めを食う訳にはいかない。
「ここは実力行使で突破するしかない」
チフユは武力行使によるチナツの突破を考えている様であった。
確かに、その手段は手っ取り早い方法ではある。
でもチフユでチナツに勝てるのか?
「兄さん、私を信じて。それに、あんな書類にサインをしてチナツに持たれていたら、幸せな新婚生活なんて送ることはできない」
チフユの言う事は最もである。
多分、チナツは俺達の新婚生活を見るのに飽きてきたら、即座にあの離婚届を役所に提出することだろう。
チナツの要求を受け入れることは、これからの生活を考えれば絶対に出来ないのだ。
「あたしと戦うつもりなの?」
チフユの殺気を感じ取ったのか、チナツも戦闘の意思を見せる。
「言っておくけど、あたしは他の二人より格段に強いわよ」
チナツの言う通り、チナツは強い。
チハルは「チナツとは訓練で何回か戦ったけど全然勝てなかった。あれは美少女の皮を被ったオークキングだ」とか言っていたし、チアキも「正面切って戦ったら十戦全敗すると思うよっ」等と言っていた。
回復職の聖女が攻撃職の勇者や賢者よりも強いって言うのもなんだかなとは思うが……。
しかし、今のチフユには魔王としての力がある。
「知ってる。でも、今の私なら貴方にだって勝てる」
だからこそ、この発言に強い信頼を寄せることが出来るし、チナツに勝つのも可能なんじゃないかと思ってしまうのだ。
「そこまで言うなら、やってみなさい。あんたがあたしに一太刀でも入れられればあんたの勝ち、あたしが先にあんたを縛ったらあたしの勝ち。ルールはそれで良いでしょ?」
「わかった」
それでも、チナツはチフユに負ける気はないらしい。
殺し合いにならない程度のルールを決めて、二人は武器を抜く。
「兄さん、合図をお願い」
チフユの言葉に頷き、足元に落ちていた石を拾う。
「それじゃあ、この石が落ちたら開始だ」
そう言って、俺は上空に向かい石を投げた。
二人はその石の行方を見守る。
チフユの左手にはいつの間にか、禍々しい片手剣が握られていた。
そして石に向かい、左手の力だけでその剣を投擲する。
「ちょ、それ卑怯でしょ!!」
「チナツに向かって投げた訳じゃないからノーカン」
石は投擲された剣に当たって、遠い森の中で行方不明となった。
確かに、石に対して何かしてはいけないとのルールはなかったが、チナツの言う通り卑怯であることは否定できなかった。
チフユ、今のはない……。
そんなことを考えていたら、チフユとチナツの戦闘が始まっていた。
気づいたら10万字超えてました。
書き始めたときはここまで続くとは思ってなかったので、自分でも驚いています。
引き続き、頑張っていきますので宜しくお願いします。




