成功報酬の話 春・夏
チフユが目が覚めてから数日経った。
体から魔王の力が抜けたとかは特になく、今でも普通に魔王の力は使えるらしい。
むしろ、この力がないと何時チハルに殺されることになるか不安になるとの事だった。
兄として「すいません」としか言えなかった。
夢の中では色々とあったらしいが、誰に聞いても詳細は教えてくれず、ちょっと仲間外れ感があり悲しくなったものだ。
まぁ、それだけ4人が仲良くなったと言えるのかもしれない。
それだけは非常に良かったと思う。
この調子で俺とチフユの結婚についても認めていって欲しいものだ。
「さて、お兄ちゃん。わたし達はこの間チフユお姉ちゃんの夢に潜り込んで、先代魔王と言う名の全裸を討伐してきた訳だよ」
「ああ、そうだな……」
麺の仕込を終えた俺を待っていたかの様に、チハルに製麺所の前で捉まった。
チハルは非常に良い顔をしており、瞳には欲情したかの如くハートマークが浮かんでいる。
これはマズい。
「つまり、わたしはお兄ちゃんから成功報酬を貰う義務がある訳だね」
「そこは義務ではなく、権利では?」
「お兄ちゃんから貰える権利は義務だよ?」
「いや、権利はやってもやらなくてもどちらでも良いもので、義務はやらないといけないものだろ?」
「だから義務なんじゃない」
ちょっと権利と義務の違いについて分からなくなってくる。
まぁチハルは昔から何を言っているのか良く分からない時があったから仕方がないかもしれない。
「それで、成功報酬で何が欲しいんだよ?」
取り敢えず、話を進める為に権利と義務についての違いについては置いておく。
「もちろん、お兄ちゃんの子種だよ!」
「んっ?」
「わたしのお腹にお兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいってことだよ」
「いや、言い直さなくても良いから……。と言うか、確かに成功報酬の話はしてなかったが、そこまでは出来ないぞ」
「何言ってるんだよ!! 上手くいったら、何でもしてくれるって言ったじゃん!!」
「言ってないんだが……」
「何? お兄ちゃんにとってチフユお姉ちゃんはその程度の人なの?」
チハルの目からハイライトが消える。
「何でそうなるんだよ?」
「だって、チフユお姉ちゃんを助ける為にわたし達はわざわざ命を賭けて全裸を討伐してきたんだよ。それ相応の対価が必要になるに決まってるじゃん」
「それはそうかもしれないが……」
「だからお兄ちゃんはわたしに出来る限りの事をする必要があるんだよ。その為に、わたしのお腹に子種を満たす必要があるんだよ。今日は排卵日だからね。丁度良いね」
こいつ、どんどん表現が生々しくなってきてやがる。
「分かった。ただ今はまだ昼間だ。夜になってからにしよう」
こうなったチハルは止めることは不可能だ。
ただでさえ俺より身体能力が高いのに、ハイライトの消えた状態では到底敵わない。
ここはお茶を濁して逃走するしかない。
その為の一手だ。
「分かったよ。ゼッタイニ、ニガサナイカラ……」
チハルから逃げ出した後、今度はチナツに捕まった。
「お前も成功報酬の話か……?」
「そうだけど……、なんか疲れてるわね」
「さっきチハルに捕まってな……。成功報酬に俺との子供を求められた……」
「あの娘も相変わらずね……」
チナツと共に溜息を付く。
こいつはこう言った所は常識的で助かる。
チナツならそこまで変な報酬を求めてくることはないだろう。
「それでお前は俺に何を求めるんだ?」
「あんたは結婚したら新しく家建てる訳?」
「いや、多分製麺所を改築して家族で住めるようにすると思うぞ」
それがどうしたんだ?
「そう。なら、あたしの報酬はその家のあんたの部屋にあたしのベッドを置くことで良いわ」
こいつは何を言っているんだ?
「正気か? 新婚の夫婦の部屋に一緒に住むとか普通ありえないぞ……」
「正気よ。最初は同じ家の中に部屋を作って貰うだけで良いかとも思ったけど、考えが変わったわ」
「何で考えを変えてしまったんだ……」
「決まってるじゃない。あんた達に子作りをさせない為よ!!」
「いや、意味が分からないんだが?」
「チフユの夢の中であんたとチフユの子供を見たの」
チナツは当時の状況を思い出すかのように説明を始める。
「その話は聞いた。なんでもチフユ譲りの銀髪で利発そうな子供だったんだろ?」
「そうね。凄い将来有望そうだったわ」
「それは良いことじゃないか」
「あんたにとってはね。でも、あたしはそれを認めないわ」
「何でだよ?」
「だって、そんなチフユの子供とあたし達の子供を見比べた時に、やっぱり実子の方が優秀じゃないと嫉妬しちゃいそうじゃない?」
なんでチフユとの子供の後に、チナツとの間に子が出来ているんだ……?
こいつの頭の中ではチフユと別れて、チナツと結婚するのは確定事項なのか……。
そしてチフユとの子供の親権もこっちで引き取るつもりなのか……?
「チフユとの間の子供はチフユに引き取ってもらえば、俺達との間の子供と比べられることはないんじゃないか?」
そもそもそんな事態になることはないと思うが。
「嫌よ。チフユの手元にあんたとの繋がりを残したくなんてないもの」
こっちもこっちで頭がおかしい。
何故、うちの妹達は皆常識がなくなってしまったのだろうか……。
「分かった。それも考えておく」
取り敢えず、チナツの要求は後日の話だ。
チハルと違って逃げることは可能なはずだ。
そう思い、俺はチナツからも逃げの一手を打つことにしたのだ。
長くなったので分割します。
次回はチアキとチフユの成功報酬についてです。




