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人間誰しも心に闇を持っているものである


 チナツの言葉は俄かには信じられなかった。

 彼女達が私の事を認めている?

 だって彼女達は私なんかよりも余程優秀で、兄さんの家族として相応しくて、皆から愛されているかは分からないけど、性格も……いや性格は私の方がマシなはず……。

 チナツは兎も角、チハルとチアキは性格破綻者だ。

 あの娘達といて兄さんの精神が休まる暇があるとは思えない。


 あれ、よくよく考えると私が彼女達に劣っている所って戦闘力だけで、他の部分では勝ってる?


「やっとマシな顔になって来たねっ。魔王の力を手に入れて調子に乗りたかったんだろうけど、中二病になるには遅すぎるよ。自分の年齢考えてよねっ」

「貴方と3つしか年齢離れてないんだけど……」

「18歳は良い大人なんだから、突然手に入った力に踊らされて興奮するとか止めて欲しいってことだよっ」


 悔しいが、確かにチアキのいう通りだ。

 魔王の力が手に入ったとかその程度の事で何を考えていたんだろう。

 よく考えれれば、別に冒険者のランクとかCランクもあれば普通に生活できる訳だし、兄さんと一緒に生活するのにそれ以上のランクが必要な訳ではない。

 戦闘方面で、私が彼女達に劣っているのは事実だ。

 でもお義母さん直伝の料理レシピで、兄さんの胃袋はしっかり掴める様に料理の技術を磨いてきた。

 兄さんの役に立てるように製麺技術についても学んできたし、小麦粉にも種類があることを勉強した。

 こう言った知識はチハル達にはない物だし、私のアドバンテージでもあるのだ。


 兄さんと結婚して生きていくのに、全てにおいて一番である必要はない。

 私はそれを勘違いしていた。


 若しくは、この嫉妬心からくる破壊衝動こそ魔王の力を受け継いだ弊害だったのかもしれない。

 自分の視野を狭めさせて、考えを短慮にする。

 そうして力を暴走させ、周りの人に迷惑を掛けて孤立させる。

 そうすれば立派な魔王の出来上がりだ。


 純粋な力のみが成立させるまやかしの世界。


 そんな世界は必要ないのだ。

 そんな世界では兄さんは生きていけない。


「吹っ切れたみたいだねっ。それじゃあ、いい加減チナツ達の援護をしてあげないと」

「そうね」


 全裸とチナツ達の戦いは、チナツ達が押されている。

 あの魔王は私が生み出したもので、チナツ達3人よりも強くなるように設定したからだ。

 それなのにチハルとチナツの2人だけで抑えてるなんて、やっぱりこの娘達は私の常識を超えている。


 私の戦う覚悟に呼応したのか、右手にはいつも使っている剣が握られていた。

 私が冒険者になった時に兄さんと祝いとして買いに行った剣。

 私の大切な剣だ。

 だから、左手に握られていた禍々しい魔剣。

 これを使うのだ。


 私は魔剣に魔力を籠める。

 チハルの使っている俄仕込みの闇の魔力ではない。

 当代の魔王として勇者に闇の魔力で負ける訳にはいかないのだ。

 私が籠めるのは、漆黒の常闇の魔力。

 触れたモノすべてを闇へと返す消滅の魔力。

 全てを消し去る呪われた魔力。


「チハル! チナツ! 避けなさい!!」


 チハル達の勧告した後、その魔剣を全裸に向かって投擲する!!


 チハル達は私の声を聞き、すぐさま魔王と距離を取った。

 チアキもそれに合わせて全裸に捕縛魔法を使い、全裸の行動を阻害する。


 私の投擲した魔剣は、チハルの聖剣より鋭く正確に全裸に向かって飛んでいく。


 全裸は捕縛魔術を解く気配も見せず、良い顔を作り右手をサムズアップしていた。


 魔剣はそんな全裸の胸を貫き空洞を空ける。


 そうして私の夢の全裸は消滅したのである。



「前から言いたかったんだけど、剣って投げる物じゃないと思うのよね」


 全裸の消滅を確認したチナツが近寄ってくると、そんなことを言ってきた。


「何を当り前の事を言っているの」

「じゃあ何で投げたのよ?」

「剣は2本もいらない。必要のない方の剣は有効活用するしかない」

「だからって普通投げないでしょ?」

「それはチナツの考え。私は違う」


 チナツに溜息をつかれてしまった。


「それにしても久しぶりにチフユお姉ちゃんの投擲を見たけど流石だね。」

「チハルは剣を投げるときにもっと腰を使った方が良い。後、魔力は籠めればいいって訳じゃない」


 チハルは最後の魔剣投擲について話をしてくる。


「そう言えばチハルの剣投擲技術って……」

「そうだよ! チフユお姉ちゃん直伝の技術なんだ!!」


 チアキの疑問にチハルが即答する。

 私が子供の頃短剣の投擲練習をしていた時に、チハルが興味深そうに見て来たので教えたのが始まりである。

 何故か段々と得物が大きくなり、最終的に木剣を投げることになっていたがその辺はご愛敬だろう。


「あんたがこの悪しき文化の元凶か……」



「それじゃあ、これ以上長居してもしょうがないからそろそろ戻るわね。」


 チナツのその言葉で、お開きになることになった。


「そうだ、起きて忘れる前に言っておく。今回は迷惑を掛けてごめんなさい。」


 こういう事は後になってからだと忘れてしまう。

 だから、私は三人に向かって頭を下げた。

 今回の件は私のミスだ。

 私の心が弱かったから皆に迷惑を掛けた。


「チフユお姉ちゃん、頭を上げてよ」


 チハルの言葉に頭を上げる。


 そこには聖剣を抜いたチハルがチナツの手によって羽交い絞めにされていた。


「ちょ、チナツ離して! 今回の迷惑料であいつの首を貰うんだから!!」

「折角の良い空気を何であんたはぶち壊そうとしてるのよ!! 偶には空気読め!!」

「嫌だよ! ここで魔王を誅して、お兄ちゃんに褒めて貰うんだ!!」


 チハルとチナツの攻防は激しいモノがあった。


「ねぇ、チアキ」

「何かなっ?」

「アレで本当にチハルが私の事を認めてると思う?」

「認めてなかったら、初手で聖剣を投げるって選択をしてないと思うよっ」

「単純に有用だから使ってるとかじゃないの?」

「それもあるかもしれないねっ」


 チアキは苦笑いをしてそう答えた。

 本当にこの女は信用できない。


「でもチフユさん。人間誰しも心に闇の一つや二つ抱えているものだからねっ。今回の件はあんまり気にしなくても良いと思うよっ」

「心に闇を抱えている人間がそれを言うと重みがある」

「まぁそう言う事だよっ」


「チアキ!! ボケっと見てないでチハル抑えるの手伝いなさい!!」


「チナツに呼ばれたから行ってくるよっ。じゃあ、また後でねっ」


 チハルを拘束するのをスイッチした後、チアキ達は私の夢から出て行った。


「あの三人の心の闇って、本当に重そう」


 チアキと最後に話した内容を思い出し、三人の事を考える。

 今回は迷惑を掛けたから、あの三人が困っている時が来たらちゃんと助けないといけない。


「でも、取り敢えずは起きたら、兄さんにお礼と謝罪をしないと」


 私はそう思い、目を開けた。


チハルの投擲は着弾すると爆発、チフユの投擲は防御力無視して貫通と言った形で差別化されています。

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