賢者来りて何かを企む
先程見たら日刊9位になってました。
色々とありがとうございます。
翌日の朝のことである。
俺は作業場で日課となっている麺打ちを行い、商人へ出荷の準備をしていた。
チフユが色々と材料を集めてくれるおかげで、俺の作った麺は隣町で結構人気があるのだ。
日が昇ると同時に起きて作業を始めていたのだが、何故かチハルも同じタイミングで起きて、一緒に作業場に来ていた。
作業の邪魔にならない様に端の方にいたが。
木箱に麺を丸めて詰めていく。
麺が全て均等の量になる様に丸めるのは非常に難しかった。
しかし、これが出来ないと麺職人として二流にすらなれないのだ。
「お兄ちゃんの麺づくり久々に見たけどやっぱり凄いね」
木箱に今日の出荷分を全て詰め込み終わると、チハルが声を掛けてきた。
「凄いって何がだよ?」
「だって玉にならない様に小麦粉を混ぜたり、麺の細さを均一にしたり、実際やってみると大変なのに簡単そうにやるんだもん」
「麺職人になってから3年以上経つんだぞ。これくらい出来ないと師匠に顔向けできないだろう」
「そう言うものでもないと思うけどね」
「朝食に一つ食べてみるか?」
「いいの!?」
俺の提案に嬉しそうにのってくる。
「商人もまだ来ないだろうし、構わないさ」
鍋にお湯を沸かし、出荷しない様に取っておいた麺を二つ程入れる。
「お兄ちゃんの手作り麺だよ。これは凄い!!凄いことだよ!!」
チハルはなんか興奮していた。
砂時計をひっくり返して時間を図る。
「そう言えば、いつまでこっちいるんだ?」
「そんなのお兄ちゃんが望む限りいつまでもだよ。お兄ちゃんのいる所にわたし在りだよ」
「そうは言っても魔王退治とか行かないといけないんだろ。それに訓練だって3年位かかるとか言ってたじゃんか」
「そんなのはわたしとお兄ちゃんの愛の前には無力だよ」
「いや、そんな訳ないだろう」
実際、適当な力で魔王退治に行ったら逆に負けるだろう。
「お兄ちゃんとしては、お前には無事に帰ってきて欲しいんだよ」
「むぅ。心配してもらえるのは嬉しいけど、心配をかけるのは申し訳ないと思う、何とも言えない乙女心だよ」
そんな話をしていると砂時計の砂が全て下に落ちた。
「やっぱりお兄ちゃんの作った麺は最高だよ」
「具がなくて申し訳ないがな」
チハルと早い朝食を終える。
思い付きで作ったせいで、具の準備を忘れてしまっていた。
ちょっと失敗したな。
「具がなくても美味しいのがお兄ちゃんの麺だよ」
チハルは本気でそう思っているのか嬉しそうに完食していた。
そんなこんなで食休みをしていると、玄関が叩かれる。
玄関に顔を向けると一人の少女が立っていた。
その少女はフードを被っていて顔は見えなかったがフードの脇から三つ編みにした茶色い髪の毛が見えた。
この少女は扉も開かずにこの部屋に入ってきたのだ。
正直、不気味だった。
チハルを見ると恐怖で震えている。
勇者であるチハルより強いということか。
そんな少女はこちらに顔を向けると
「やっと、見つけた」
チハルを見てそう言ったのだ。
「久しぶりだねっ」
ちなみにその少女は俺の従妹だった。
従妹の名前はチアキ・リーフィア。
現在15歳の天才賢者様である。
彼女は現在王都にある魔術研究所で新しい魔術・魔導具の開発をしている。
天才と呼ばれるだけあって、「空間転移」を理論上可能であると証明したり、複数属性の複合魔術の開発をしたりと色々と歴史に名前を残せる様な活躍をしているのだ。
まぁぶっちゃけ俺はそこまで興味ないから彼女が何をしているのかはよく解らない。
ただ俺がベッドの下に隠していた本を見つけ出して、エルフ耳が好きな事を調べだした三日後に自分の耳をエルフ耳にする位には、頭のおかしい少女である。
また賢者として神託を受けた割にはフィールドワークが好きで基本的に机に向き合ってない。
日焼けした肌は健康的であり、口にある八重歯と相まって完全に元気っ娘であると言えるだろう。
今着ている服も行動を阻害しない様にノースリーブのシャツに太ももをむき出しにした短パンを履いている。
ニーソックスとの境界線が眩しい。
「それで、態々王都から何しに来たんだよ?」
「決まってるじゃない。勇者としての訓練から逃げ出したチハルを回収しに来たんだよっ」
「わたしは帰らないよ。このままお兄ちゃんと一緒に暮らすの。子供を作って幸せになるんだよ!!」
チハルはチアキの言葉に抵抗する。
「そういう訳にはいかないんだな。王様の命令書もあるんだよ」
チアキが懐から一枚の書状を取り出す。
残念ながら、この世界の識字率は高くない。
俺には文字が読めない。
なんか色々と書いてあって、右下に判子が押されていることしかわからん。
「チアキ、悪いが何書いてあるんだ?」
「兄様はいい加減文字の勉強をした方がいいよ。これには、勇者を王城まで連れこいって書いてあるんだっ」
「チハル読めるか?」
チハルは村にいた頃は文字が読めなかったはずだ。
「大丈夫だよ」
苦笑いをしながら返事になってない答えが返ってきた。
こいつ、読めないな。
「そんな訳だから、王都に帰るよっ。一人だけ抜け駆けして兄様に会いに来るだけでも反則なのに、何時までもこの村に残るなんて言うのは許されないよ」
「い~や~だ~!! わたしはこの村に残るの。そして泥棒猫を討伐するっていう大事な用を果たすの!!」
チハルが物騒なことを言い始める。
「あんまり我儘をいうとチナツ様が来るよ」
チアキの言葉でチハルが止まる。
それはもう綺麗に固まったものである。
「チナツはダメだよ。チナツが来ると世界が終わる……」
ちなみに、チナツは俺の義妹だ。
王都の教会で働いている。
チハルとチナツも姉妹関係になるのだが、チナツの方がヒエラルキーが上なのだ。
「ちなみに泥棒猫ってチフユさんの事かなっ?」
「昨日も言ってたしそうだと思うぞ」
チハルは放心していて答えそうになかったので代わりに答える。
チアキは何か考えるような空気を出していたが、
「よし、うちも久々にこの町に来たんだしチフユさんや伯父さんたちにも挨拶しに行くよっ」
チアキは何か企んだような顔をしてそう言った。
チアキもあまりチフユと仲良くなかった気がするので、出来れば止めて欲しいのだが……。
数時間後その予感は的中するのである。
次回は夜投稿できるといいなあと思ってます。
まだ何も書いてないので期待しないで待っててもらえると嬉しいです。




