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チフユの夢


 チフユお姉ちゃんの夢は予想以上にファンシーだった。

 いつもあんなクールそうな面しておいて、ふわっふわな世界観を出している。

 そこら辺に生えている木もタオル生地のぬいぐるみで出来ていた。

 ここまでくると逆にあざとい。

 そんな感じの世界であった。


「チハル、あんまり夢の中で勝手なことするんじゃないわよ」


 わたしが興味本位でそこら辺にあるものをボコボコに壊しつくしてやろうとしていたら、チナツに止められてしまった。


「下手に弄繰り回すとうち等も危なくなる可能性があるし、チフユさんの精神にも悪影響を与える危険性があるからねっ」


 チアキの言うことも最もだ。

 でも逆に言えば、ここなら自由にチフユお姉ちゃんの精神をグッチャグチャのメッタメタに出来るということでもある。

 わたしを夢の世界に連れてきたことを後悔させてあげる。


「でも、この世界はファンシー過ぎない?」

「そうでもないわよ。そこの木の後ろ見てみなさい」


 チナツに言われ、木の後ろを覗き込むと、わたし達のバラバラ死体が至る所に散らばっていた。


 ある死体は断頭台に掛けられ、首と胴体が引き裂かれていた。

 ある死体は鉄で出来た牛の中に入れられ、火炙りにされていた。

 ある死体は股の間から何度も槍で突き刺されたのか、股間部分がズタボロにされ、槍の穂先が口から出ていた。


 それは世界中の拷問に掛けられた人の展示場の様でもあった。

 グロ体制のない人が見たら、多分吐ける景色である。


「これは酷い状況だねっ。うち達、チフユさんにここまで嫌われてたんだね……」

「あいつに対するファンシーな世界観とあたし達への憎悪を表した様なグロテスクな世界観。チフユの二面性を表している様な世界ね」


 チアキはショックを受けた様な口振りをしているが、表情はニヤニヤ笑っていた。

 アレはチフユお姉ちゃんの弱みを握れてラッキーといった顔である。

 これだから、チアキは嫌いだ。

 お兄ちゃん以外の全ての生き物を、実験動物としてしか見ていない。

 お兄ちゃんも良くこんな奴の面倒を見ているものだ。

 わたしだったら悪・即・斬である。


「それにしても、どうしてこんな世界になってるの?」


 わたしは夢の世界に来るのは初めてなので、先人のチナツに聞いてみる。


「夢の世界っていうのは、基本的にはその人の精神状態に由来して作られているわ。だから、この世界はあいつに好かれたいと思っているチフユの恋心とあたし達への嫉妬心によって作られたから、こんな世界になっているんでしょうね」

「わたし達への嫉妬心って?」

「まぁ、あんたはあいつの事以外興味ないから気付いてなかったでしょうけど、チフユはあたし達に比べると平凡な能力しかないからね。そういった所で劣等感を感じていたみたいなのよね」


 わたしは逆に良くそこまで他人のことを良く見ているなと思った。

 正直この世界はお兄ちゃんの為にあるものであって、他の生き物の為にあるものではない。

 だから、そもそもそこまで他人をよく見る必要などないのである。


「そうなんだ」

「あんた、自分で聞いてきた癖に興味のなさそうな態度を取らないの……」


 チナツから貰った回答を受け流し周りを見る。

 今回のミッションは、チフユお姉ちゃんの夢の中にいる先代魔王の討伐である。

 発注者がお兄ちゃんである以上、失敗は許されないのだ。

 だから従いたくはないが、パーティリーダーのチナツの言うことを聞いて動く必要があるのだ。

 この夢の世界に来ているのは、わたし達三人だけである。

 チフユお姉ちゃんは寝ていないとこの世界が発生しないため不参加、お兄ちゃんはチナツの手によって足手纏いと言われて切り捨てられていた。

 役立たずはチナツなのに偉大なるお兄ちゃんによくあんなことが言えたものである。

 帰ったらチナツは弑する。

 わたしはそう心に誓った。

 なお、うどんやそばは単純に信用できないということで置いてきた。

 戦力としては確かに申し分ないかもしれないが、信頼できない存在に背中は任せられない。

 戦闘中に後ろから攻撃されたら堪ったものではないのである。

 そういった意味では、チアキも信用できない。

 今回はお兄ちゃんの依頼だからしっかり勤めを果たすだろうが、通常のクエストでこんな奴とは組みたくない。

 チナツは恋愛観と性癖については頭がおかしいが、常識はある方なのでまだマシな部類だ。


「それで、これからどうするの?」


 考えがズレてきたのでリーダーに今後の行動について聞く。


「取り敢えず、夢の中のチフユを探すわ。彼女の目の前に魔王はいるみたいだしね」

「わかったよ」

「それであれば、多分向こうの方角だろうねっ」


 チアキがファンシーな木で作られた道の先を指す。


「なんで分かるのよ?」

「だって、この景色は村とイーストウッドの道中と一緒だよっ」


 チアキの言う通り、よく見てみるとここはイーストウッドから村へ帰る道だった。


「それに村の方から強大な魔力を感じるし、間違いないと思うよっ」

「成程ね」


 チアキの提案通り、村に向かう方針になった。

 こういう所は、流石賢者だと思う。



 それから10分程歩くと村が見えてきた。

 パッと見現実の村と変わりない様に思えたが、一つだけ大きな違いがあった。

 お兄ちゃんの製麺所が大きくなっているのである。

 そして、その軒先で小さな子供達が遊んでいた。

 その子供はあの糞女譲りの綺麗な銀髪をしており、お兄ちゃん譲りの利発そうな顔立ちをしていた。


「よし、まずはあの子供を殺そう」

「チハル? 何言ってるの?」

「チナツには見えないの? あの子供達は、お兄ちゃんとチフユお姉ちゃんの子供だよ」


 そう、あの子供達は十中八九お兄ちゃんと糞女の子供である。

 夢の中であってもそんな忌々しい存在を認める訳にはいかない。

 むしろ、夢の中だからこそ容赦なく躊躇なく殺すことが出来るのではないだろうか。

 そう思い、腰からお兄ちゃんに買って貰った剣を抜く。

 せめてもの慈悲である。

 自分の父親がプレゼントした武器で、殺してあげる……。


「あっ、チハルお姉たんだ~」


 そう思っていたら、わたしの殺気に気付いたのか子供達がわたしに向かって、嬉しそうに飛びついてきた。


「チハルお姉たんどうしたの? いつもより若く見えるよ~」


 その子供達のなんて無邪気な姿だろう。

 くっ、わたしの邪気が洗われてしまう……。


「チナツ叔母さんもチアキさんもいる~‼」

「お、叔母さんっ‼」


 チナツは子供達の叔母さん発言に大ダメージを受けた様である。

 チアキは子供の扱いに慣れているのか、ハイタッチをしていた。

 その目は丁度いい実験動物を発見したかの様な目をしていたが、純粋な子供達には分らなかった様である。


 ここはチフユお姉ちゃんがお兄ちゃんと無事結婚して幸せに暮らしている世界の様だった。


 まぁ現実で、そう旨く行くとは思わないことだけどね……。


次回は先代魔王戦です。

全裸スキルを持つ魔王に勇者チハルがどう立ち向かうのか。

そしてチフユの子供達は夢の中とはいえ無事生き残れるのか。

チハルの気持ちが試されてます!

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