聖女の問診
「さて、いい加減チフユの問題について話し合おう」
全裸と言うセンセーショナルな議題が出たせいで、話が大幅にズレてしまったので元に戻す。
なお【全裸カウンター】について熱い議論が交わされている間、チフユは嘲笑した様な目をしていた。
まぁ男であれば全裸と言う単語には強く惹かれてしまう為、仕方がない。
そういえば、例の被験者の性別はどちらだったのだろうか?
女性だったというのであれば、俺も是非その検証に参加してみたかった。
時に欲望は法律を凌駕するのだ。
それをやり過ぎた結果、チアキみたいな人間が生まれ、断頭台の露と消えるのである。
つまりは欲望は理性をもって制御する必要があるということだ。
チアキには自重するように伝えておこう。
「何時から魔王の全裸を夢で見る様になったんだ?」
気を取り直して、改めてチフユに尋ねる。
しかし、この言葉だけを見ると完全にセクハラだな……。
「最初に出てきたのは魔王としての前世を思い出した時。それから、段々と夢で出てくる時間が長くなってきてる」
「ちなみに出てくるのは先代の魔王で間違いないのね?」
そう聞くのはチナツである。
チナツは治療院で先生をしているから、こう言った問診は慣れているんだろう。
「私の前世の記憶とも間違えないし、うどん達にも聞いてみたけど残っていた伝承と違いはなさそうだった」
「成程ね。魔王は夢の中で何してるの?」
「最初の頃はただ立っているだけだったんだけど、段々と裸踊りを初めて、最近は股間のブツを見せ付けるかの様に筋トレをしている」
そう答えたチフユの顔は青褪めていた。
まあ同性であっても、そんな物を見せ付ける様に筋トレをされたくはない。
そんなことをされて喜びそうなのはチアキ位である。
彼女ならブツのサイズを測りに行って、鼻で笑う位の事はしそうだ。
若しくは、どうしたらそこまでデカくなるのか聞きに行ってドン引きされる未来が見える。
実際チナツはその話を聞いて苦笑いをしていた。
チハルだったら夢の中であっても、そんな事されたら玉を潰しに行きそうだな……。
「魔王には話しかけられるの?」
「やってみようとしたけど、そもそも体が金縛りにあった様に動かなくて喋る事すらできなかった」
「それは確かに恐怖ね。眠れなくなるのも分かるわ」
つまり目的も分からず、唯々股間を見せ付けてくるという訳だ。
「出てくるのは夢の中だけで、現実世界で幻覚として出てくるとかはないのね?」
「そう」
チナツはそこまで話を聞くと顎に手を当てて思考の海に沈んでいった。
今までに見て来た症例とすり合わせをしているのだろう。
その姿は流石女医様と言っても良かった。
「チアキ、最近この村で睡眠時に特定の夢を見せる系の催眠魔法の気配とか感じたことある?」
「それはないよっ。この村だけじゃなくてその周辺でも、うちが使ったもの以外はないって言い切っても良いねっ」
賢者様の魔力探知能力は非常に高い。
つまりチフユの夢は外部から魔法を掛けられて、見せられているという訳ではないという事だろう。
と言うか、チアキは催眠魔法を使って何をしているんだ?
あいつさっきから気兼ねなく催眠魔法使ってるけど、法律で禁止されているはずなんだが……。
「チハルも最近この辺で魔族の気配とかは感じてないのよね?」
「感じた瞬間狩りに行ってるから、少なくともそんな魔法とかスキルを使ってる暇はない筈だよ。それにそんなの放置してお兄ちゃんに怪我なんかさせてられないし……」
勇者は魔物とか魔族への探知能力が非常に高いという。
特に俺の為に動いているチハルに間違いはない。
本当に気配を感じた瞬間狩りに行ってるのだろう。
「となると結論は一つね。完全に前世の記憶のせいよ」
「つまりどうしたら解決するんだ?」
「想定してたパターンの中では一番面倒臭い奴ね。チフユの夢の中に入って魔王を討伐するしかないわ」
「それって大丈夫なのか?」
「まぁ元々存在しないものだから大丈夫のはずよ。最悪の場合、魔王としての力がなくなる位で、逆にあたし達からしたら都合が良いでしょ」
確かにそれで魔王としての力がなくなったら、チフユが討伐されることはなくなる筈だ。
ある意味でその行為は当たりと言えるだろう。
「チフユはそれで良いのか?」
チフユが妹達に嫉妬しているのは知っている。
魔王の力を手に入れたことで、彼女達とやっと並び立てる存在になれたと思っていることも分かっている。
今回の件はそれを捨てることに繋がるかもしれないのだ。
「構わない」
でもチフユはそんなことは気にしていないと、そう言わんばかりに答えた。
「魔王の力があろうがなかろうが、兄さんは私だから選んでくれたんでしょう? だったら、魔王の力とかどうでも良い」
流石、俺の嫁だ。
この心の強さは見習う必要がある。
「それで準備に時間とか掛かるのか?」
「手持ちの素材だけで充分だから、やろうと思えば何時でも行けるわ」
「それなら、タイミングとかは任せる」
こうして、チフユの夢の中へ突入することになったのである。
「あっ、あんたは留守番だから」
「何でだよ?」
「戦闘になった時あんた足手纏いだし」
チナツの一言によって、俺の留守番が決まった瞬間でもある。
チナツがにぃにの夢行きを止めたのは、言うまでもない事ですが夢の中でにぃにに怪我をされたら嫌だからです。
にぃにもそれが分かっているので、チナツのいう事には従う事にしています。




