裸族の魔王とチフユの闇
魔王、それは魔族の王にして世界の破壊者である。
私がそんな魔王の記憶を引き継いでから困っていることが一つある。
それは前世の魔王が男だったせいで、先代の裸が常に頭の中に出てくることである。
先代の魔王は裸族だったのだ。
確かに魔族は大体が裸だ。
うどんやそばも裸だ。
でもそれは狐や狸みたいな動物型だからだ。
普通の人型魔族は服を着ているはず……。
実際、一平は全身タイツにトレンチコートとかいう謎な格好ではあったが服を着ていた。
なんで先代は人型の癖に裸なんだ……。
その先代魔王は、毎晩人の夢の中に現れて、全裸でポージングをしていくのだ。
最早恐怖でしかない。
想像して欲しい。
毎晩毎晩、筋肉ムキムキ逆三角形の体系をしたムサい全裸の中年が、目の前で口に出すのも烏滸がましいモノをブラブラさせながらポーズを決めてくる姿を。
確かに全裸の兄さんであれば、私だって嬉しい。
それだけでその一年は幸せな気持ちになれるだろう。
しかし、大して良く知りもしない中年にそんなことをされて嬉しい人がいるだろうか。
いたとしたら、そいつは変態か痴女だ。
断言してもいい。
もしかすると、こうやって私を追い詰めて、私の体を乗っ取ろうとしているというのだろうか……。
そこまで考えているというのであれば、魔王というのは恐ろしい存在である。
別になりたくて魔王になった訳ではないが、魔王になるというのは予想以上にハードルが高い事だった様である。
最近はそんな唾棄すべき様な夢しか見ないため、ストレスが溜まっている。
そして、そのストレスを解消するために今日もイーストウッドで討伐依頼をこなすのである。
私の固有スキルは【2回攻撃】という、まぁまぁ使える部類の良くあるスキルだ。
【2回行動】じゃないので、同じ技が2回出るだけという殲滅速度を上げること以外に役に立たない。
私は神託を受け冒険者になってから、このスキルを頼りにCランクまで上り詰めた。
兄さんの食材調達の助けになれば良いと思ってやっているだけなので、そこまで真面目にやる気はないのもあるが、これ以上のランクになるのは私の実力では不可能だろう。
兄さんの妹達であれば職業的にもスキル的にも能力的にも、私みたいに苦労をしなくても簡単に上のランクに行けるはずなのだ。
冒険者ランクだけではない。
あの三人は、私が欲しかったものを欲しいものを簡単に手に入れていくのだ。
だからこそ兄さんがあの三人ではなくて私を選んでくれたことは凄く嬉しかった。
なのに……、あいつ等は私よりも優れた物を持っている癖に……、私が欲しい物を簡単に手に入れられるだけの能力を持っている癖位に……、私が唯一手に入れられた兄さんを横取りしようとしているのである。
私はそんな三人が憎くて、恨めしくて、どうしようもない位に妬ましいのだ。
チハルのいう事もわかる。
私だって三人を殺すことが出来るのであればやっている。
でも、そんなことをしたら兄さんに嫌われてしまう。
私の誇りは兄さんに選ばれたこと。
兄さんの、兄さんによる、兄さんのための私の人生なのだ。
兄さんに嫌われない様に、捨てられない様に、私は自分の持ちうる全てを使って、兄さんを幸せにする義務があるのだ。
だから、あの三人は殺せない。
殺さずに、あの三人を兄さんにとって都合の良い様に、害の出ない様に制御する必要がある。
魔王の力はその為に必須なのだ。
でも、あの全裸中年には耐えられない。
私は何か悪いことをしたのだろうか……。
前世が魔王で悪の化身だったからとは言っても、今世でここまで酷い目に合させられる様なことはしていないはずである。
だから、このむしゃくしゃした気持ちを魔物にぶつけるのだ。
魔物はいくら殺しても犯罪にならない。
そう考えると魔物は素晴らしい存在だ。
人間を殺すと犯罪になるし、兄さんに嫌われる可能性も高い。
私の個人的な精神維持の為に、兄さんの気を煩わせる訳にはいかないのだ。
「死ね……。死ね……。死ね……。死ね……。死ね……。死ね……。死ね……。死ね……。」
だから、
オークを見つけて、細切れにする
コボルトを見つけて、バラバラにする
ゴブリンを見つけて、丸焼きにする
ドラゴンを見つけて、捻り潰す
アークデーモンを見つけて、グチャグチャにする
そうして、私の精神を維持させるのである。
こうして血を浴びていると気持ちが落ち着く。
冷静になった心で考えることは一つ。
あの全裸だけは絶対に殺す!!
そうすれば、私の苛々も全部晴れるはずだから……。
誤字報告有り難うございました。
チフユの闇は兄さん依存型で他の3人とは方向性が違います。




