賢者の涙ぐましい無駄骨 IFルート
昨日はチナツに邪魔をされてしまったので、今回はちゃんとNTRイベントを目指して行くよっ。
そもそも、材料を最初から準備しておかなかったのが前回の失敗の要因だね。
そこで今回はこちらに、クズ男とそこそこに可愛いエル娘を用意しました。
二人とも前もって催眠魔法を掛けておいたので、うちの想定通りに動いてくれるんだっ。
作戦は、まず兄様にエル娘を接触させて、仲良くしているところをチフユに見せるよ。
その姿を見て、多分チフユはショックを受けるだろうから、そこにクズ男を登場させチフユの心の隙間を狙わせる感じだね。
よくある展開かもしれないけど、逆にこういう定番こそが一番成功率が高いものなんだよ。
まぁ、兄様とチフユがちゃんと互いを理解していれば、こんなイベントは余裕で突破してくれるんじゃないかなっ。
そんな訳で、製麺所の前にやって来たよ。
この時間帯だと兄様は麺打ちをしているはずだからねっ。
「兄様、おはようっ」
「お、チアキか。朝から珍しいな」
「今日は暇かな? うちとデートしようよっ」
「朝から何言ってるんだ?」
「たまには兄様との距離感を縮めてみようかなと思ってねっ」
こういう戦略で大切なことは自然さだね。
不自然さを出したら、疑われるから当然なんだけどねっ。
「まぁ、別にいいけどさ。どこに行くんだよ?」
「ちょっとイーストウッドまで買い物に付き合ってほしいんだっ」
「王都で大体の物買えるのになんでイーストウッドまでわざわざ行くのさ?」
「イーストウッドの特産品はこっちで買った方が安いからねっ」
「わかった。ちょっと準備するから待っててくれ」
ちょっと疑われた空気出してたけど、多分大丈夫のはず。
逆にこれで疑われてたら、兄様がうちのことをよく見てくれてるって事だから、それはそれで嬉しいけどね。
所変わってイーストウッドにやって来ました。
道中は色々とあったけど、大したことがなかったから全部ショートカットするよっ。
展開の速さが大切ってことだね。
そして、うちの調べによるとチフユは今日はギルドに依頼を受注する日のはず……。
つまり狙った時間帯にギルドに行けば、チフユと兄様を鉢合わせさせることが出来るってことだね。
自然な空気を心掛けてギルドに兄様を連れて行くよっ。
「兄様、ちょっと冒険者ギルドに寄りたいんだけど良いかなっ?」
「別に構わんけど、何かあるのか?」
「今、各町のギルド依頼状況の調査をしているんだよ。だから、イーストウッドの状況もちょっと見ていきたいんだっ」
「ふーん」
兄様の視線がちょっと冷たい。
不自然さは出していないのあるに何故?
取り敢えず、ギルドに入ったらエル娘を登場させて、兄様に抱き着かせよう。
童貞オーラを出している兄様であればテンパるはず……。
そこをチフユに見せれば、第一段階クリアである。
冒険者ギルドはいつも通りそこそこに人がいた。
大半の人がクエストが終わって、酒盛りをしていた感じではあるが……
うちは周りを見渡し、チフユがいることを確認する。
作戦開始である。
「あの~、あなたも冒険者なんですか?」
待機させておいたエル娘に声を掛けさせる。
同時にうちも気配を消して、兄様達から距離を取る。
うちが近くにいたら、チフユが『またこいつの仕業か』って冷たい目を向けてくるだけだからね。
「いや、俺は違いますよ。こいつが、依頼書見に来たいって言ってたんで付き添いです」
「そうなんですか~。わたしは冒険者になったばっかりで、こういった所良く分からないんですよ~」
「そうなんですか。それであれば、こいつはBランク冒険者だから結構詳しいですよ。って、あれ、チアキどこ行った?」
よし、今だ!
エル娘抱きつけ!!
うちが脳内でエル娘にそう指示を出すと、エル娘がバランスを崩して、兄様に抱きつく。
「あっ、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですか?」
エル娘の突然の行動に対する、まさかの兄様の紳士的な対応だとっ。
うちの想定ではもう少し動揺するはず……。
いや、逆にこう言う対応をしている方が見ている側としては嫉妬出来るか……?
そう思い、チフユのいる方向を見る。
何故か視線が合う。
ん?
いや、気のせいのはず。
そう思っていたら、チフユがこちらに来た。
「チアキ、何やってるの?」
「何やってるって何がかなっ?」
質問に質問で返すという場を誤魔化すための高等テクニックを使用する。
「チナツから話は聞いてる。貴女の事だから、例のNTR作戦を諦め切れなかったんでしょ」
チナツはうちを裏切ったって言うの……。
この作戦に乗れば、兄様を強奪するのが楽になるのに。
「そもそも、昨日の今日でこういったことを実施する方が馬鹿」
「確かに今回のうちの作戦は早急だったかもしれないねっ」
でも、問題ないんだよ。
洗脳魔法をかけて、うちの思い通りにしてあげるよっ。
「ちなみに、精神感応系の状態異常は私には効かない」
「えっ?」
「普通魔王には状態異常は入らない。特に魅了とか混乱とかの自傷する可能性のある状態異常は効かない」
言われてみると確かにそんな気がする。
魔王に状態異常が入るんだったら、ここまで危険視されることもないはずだ。
完全に想定外だよっ。
というか、うちの周り状態異常耐性持ってる人多すぎじゃない。
状態異常耐性のバーゲンセールでもやってるのかなっ?
「おいチアキ、勝手にいなくなるなよ。って、チフユじゃんか。お前も今日来てたのか?」
「まあね。それよりも兄さん、またチアキが下らないことをやろうとしてる」
「お前、やっぱり……」
「バレちゃったら、しょうがないね……」
「チナツの手でネタバレしてるのに、何でまた計画を実行してるんだよ?」
「折角、計画を立てたのに勿体ないと思って」
「何にしてもチアキ、お仕置きの時間だな」
こうして魔王の手によって悪の計画は事前に阻止されたのだった。
「ちゃんと迷惑かけた人達、元に戻しておけよ?」
「それは当然だよっ。ちゃんとバイト代も迷惑料込みで前払いで払ってるからね、その辺は安心して欲しいなっ」
ちなみに、チアキの計略がバレてなくても抱き付かれてるのを見た程度ではチフユは動揺しません。
二人の信頼関係はその程度で崩れる程弱くはないのです。




