1年ぶりの実妹との再会
相変わらず、先の展開とか何も考えていません。
頭を空っぽにして楽しんでいただければ幸いです。
俺の妹チハル・グレイシアは勇者である。
それが判明したのはチハルの15の誕生日だった。
俺達の国では15歳になると今後の将来を占うためにイーリス正教会に行き神託を受ける。
その時に将来なるべき職業を授かるのだ。
チハルはその神託で勇者として見出されたのである。
ちなみに俺は麺職人だった。
チハルに無理矢理選定の場に連れていかれたので現場にいたが、勇者と選定された時の周りの盛り上がり具合は恐ろしいものがあった位だ。
俺も妹が勇者と選定された時は嬉しいような、自分から離れていく様で悲しいような気持になったのを覚えている。
チハルは昔からお兄ちゃん子だった。
何をするにも俺の後ろを付いて回り、村では俺の背後霊とまで言われた位だ。
勇者となったからには、いつも俺と一緒とはいかないだろう。
兄離れをする良い機会になるなと思ったくらいだ。
チハルはその後、俺と離れたくないと駄々をこねながらも王都まで搬送されていった。
ドナドナである。
まぁ勇者が生れたという事は、人間の天敵である魔王もその内生れるという事である。
魔王を放置していたら人間が滅びる。
対抗する手段が勇者しかいない以上、仕方のないことだろう。
「絶対にお兄ちゃんの所に戻ってくるから!! 絶対に帰ってくるから!!」
そう言ってチハルは泣きながら連れていかれたのである。
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それから1年が経った。
俺は今日も麺職人として薄力粉を捏ねていた。
一人前の麺職人になるため、妹に自分の兄として紹介された時に恥ずかしくないよう努力を続けていたのだ。
『麺王に俺はなる!!』
チハルが勇者になった時からその言葉を旨に、無心になって麺を打ち続けてきたのである。
この世界では小麦は簡単に手に入るが、調味料となる塩や砂糖は値段が高く入手するのが困難だった。
そこで、幼馴染のチフユに協力してもらい最高の麺を作るための素材を集め、麺作りに勤しんできたのである。
しかし、俺の努力はチハルには認めて貰えなかったようだ。
今俺の目の前には聖剣を構えたチハルがいる。
俺は何時も通り、自分の店で出荷用の麺を伸ばしていた。
そこにチハルがやって来たのだ。
昔褒めたブロンドの髪を背中で一本にまとめ腰まで伸ばしている。
それは俺が好きな髪形だった。
若草色をした緑色の瞳はこちらを睨んでいる。
銀色をした胸当てに、動きを阻害しない程度の長さをした青いスカートを穿いた姿と相まって、物語に登場する姫騎士にも見えた。
その格好も昔チハルに女剣士と言えばこの格好だろうといったものである。
1年経ってより美人になったな。
身長と胸は全然育ってないが……。
俺は緊張感もなくそう思った。
「お兄ちゃん、わたしというものがありながら何で浮気したの?」
ん?
チハルは何を言っているんだ?
「わたしはお兄ちゃんに会うために、いっぱい努力したんだよ。ドSのクソ王族とか異世界から来たナルシストクソ野郎とかイケメンさわやか系剣聖とかの玉をいっぱい潰してきたんだよ。それなのに何でなの……?」
どれだけの男の玉を潰してきたんだ、こいつは。
俺の玉も潰そうとか思ってないよな。
「お兄ちゃんの玉はお兄ちゃんとの子供が出来るまでは潰さないよ」
チハルは俺の心を読んだかのようにそんな恐ろしいことを言ってくる。
「いや、ちょっと待ってくれ。そもそも浮気ってなんだ?」
「だってチフユお姉ちゃんと結婚したって連絡来たよ?」
チハルは首を傾げながらそう言う。
ちょっと可愛い。
「そもそもチフユとはまだ結婚してないぞ」
「まだって何かな? そのうち結婚するって言いたいの?」
チハルの目からハイライトが消えた。
「いや、だって、一応許嫁だろう。お前がこっちいた時からそういう話あったじゃん」
「嘘だ!!お兄ちゃん婚約破棄するって言ってたじゃん!! わたしと結婚するって約束した!!」
チハルが叫ぶように言う。
ちょっと怖い。
「ちょっと落ち着け。そもそも、お前と結婚するって約束はお前が3歳の時にしたことだろ」
「お兄ちゃん……、覚えててくれたんだ」
目にハイライトが戻ってきた。
すごく嬉しそうだ。
「そうだよ。だから、お兄ちゃんとわたしは婚約関係にあるんだよ。婚約指輪だって6歳の時のお祭りで買ってくれたよね」
「それは、チハルが欲しそうにしてたからな。妹が欲しがるものを買うのはお兄ちゃんの特権だろ」
ちなみにその指輪は子供のお小遣いで買える程度の安物であり、後でチフユ達にもたかられたので買ってあげている。
「やっぱり、お兄ちゃんはわたしの運命の人だよ。わたしとお兄ちゃんは運命の赤い糸で繋がっているんだ」
「それでもだ。実の兄妹での結婚は認められていないぞ」
「それは書類上の話だよ。一緒に住んで、二人の間に子供がいれば夫婦と一緒だよ」
法律上決まっていることなのに、チハルは否定する。
まぁ実際近所の人はそんな家族がいれば夫婦だとは思うが……。
「わかった。取り敢えず剣を収めろ。ずっと向けられたままなのは怖い」
チハルの感情に従って震えたり光ったりしていると、何時こっちに攻撃が飛んでくるのか分からん。
当たったら、俺死ぬよ。
ただの麺職人だもん。
「そうだね。お兄ちゃんを怖がらせるのは、わたしも本意じゃない」
チハルはやっと聖剣を腰の鞘に納めてくれた。
これで俺はまだ生きていける。
「ところで、俺とチフユが結婚したって誰から連絡が来たんだ?」
俺もチハルと連絡を取り合っていたが、そんな連絡をした記憶はない。
「決まってるじゃん。チフユお姉ちゃん(泥棒猫)だよ」
やっぱりか。
「それじゃあ、取り敢えずチフユに会って話を聞こう」
元凶にあった方が話が早そうだ。
そう思い頭につけていたハチマキを外しエプロンを取る。
「ああそうだ。お帰り、チハル」
なんか浮気だなんだで、すっかり言うのを忘れていた。
チハルは呆気にとられた顔をしていたが、
「うん、ただいま。お兄ちゃん!!」
思わずこちらが見惚れるような笑みでそう返してくれたのだった。




