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紅い狐と翠の狸

わたしはきつねの方が好きです。


 紅い狐には尻尾が九本あった。

 その驚愕の事実は全俺の中を急激な速度で駆け巡った。


「お兄ちゃん、落ち込まないで。あれが魔物だったら尻尾の数を誤魔化す様な幻惑くらい使えるはず」


 明らかに落ち込んでいた俺をチハルは励ましてくれる。

 そうだよな?

 俺の目が節穴だったって訳じゃないよな!?


「でも、あの狐からはそう言った魔法の気配を感じないよっ」


 折角チハルがよいしょしてくれたのに、チアキは容赦なく叩き落してきた。


「チアキが感じ取れない程、高度に掛けられてる可能性だってあるでしょ?」


 チハルは尚も俺を擁護してくれる。

 しかしチアキは何だかんだ言っても優秀な賢者様である。

 彼女が発動中の魔法を見落とすことなんてそうないだろう。


「つまり、あの狐は魔物ってことか?」


 魔法を使っていようがいまいが、尻尾が九本ある狐は魔物以外には在り得ない。

 そうすると何故チフユが魔物を飼っているのかといった疑問が生れてくる。


「まぁ取り敢えずあの狐は討伐しないといけないよね!!」


 そう言ったチハルは、窓を開け、聖剣を抜き、狐に向かって投げた。


 そして、着弾地点が爆発する!!


「ちょっ!! 聖剣あんなに雑に使っていいの!?」 


 あまりに滑らかな動きだったため、止める暇もなかった。


「剣は投擲武器だよ、お兄ちゃん。手に持った物は取り敢えず投げる。これが戦闘における基本だよ!」


 そう言ってチハルは窓から出て行った。

 自由人である。



 爆発で上がった土煙が晴れてくると、そこには聖剣を口に銜えた紅い狐がいた。

 色が青くて狼であれば、伝説のモンスターとしてゲットしたくなるような、そんな端正な姿を見せる。

 なお、チフユの家の前は今の爆発でボロボロになっていた。

 アレの修理費ってもしかしなくても俺持ちなのか……?

 ふと、そんなことを考えてしまう。


「チッ!!」


 チハルは五体満足な紅い狐の姿を見て舌打ちをし、窓から飛び出す。

 紅い狐をここで狩るつもりだ。

 チハルと紅い狐の距離は約5メートル。

 チハルの足であれば3秒と掛からない距離である。

 即ち、そんな説明をしている間にチハルと紅い狐のドッグファイトが始まっているのである!!

 チハルが距離を詰めて肉弾戦を挑もうとすると、狐はチハルを寄せ付けない様に口に銜えた聖剣を巧みに使う。

 その一進一退の攻防を見てふと思ってしまうのだ。


「なぁ、チアキ」

「何かなっ?」

「普通聖剣を勇者が持って、魔物が肉弾戦をするものじゃないのか?」

「うちもそう思うよ」

「だったらなんで、あいつらの得物は逆なんだ?」

「それはうちも聞きたいくらいだよ……」


 チアキも遠い目をしてその戦いを観戦するのであった。



「いい加減、しつこい!!」


 打ち合うこと数合。

 互いに殆ど無傷である現状にチハルがイライラし始めた。

 チハルは狐の攻撃に合わせて一旦距離を取る。

 そして腰を深く落とし右手に魔力を溜めて腰に構える。

 右手に闇よりも黒い漆黒のオーラを纏っていく。

 狐もチハルが次の一撃で決着を付けようとしていることに気付いた様だ。

 口に銜えていた聖剣に魔力を溜め始める。

 聖剣は狐の魔力を帯び、神々しい光のオーラを纏う。



「だから、アレ属性逆だろ……」

「まぁチハルは光魔法より闇魔法の方が得意だしね」


 俺達は軒先でその状況を見守る。


「なぁ、どっちの方が有利なんだ?」


 一応チハルが心配なので有識者であるチアキに尋ねる。


「籠めてる魔力の量を見る限りだと五分五分だねっ」

「チハルは大丈夫なのか?」

「伊達に勇者として訓練した訳じゃないよっ。安心して見ててよ」



 チアキのそんな言葉に合わせるかの如く、チハルが一気に狐に向かい駆け出す。


「死ねぇえええええええええええええええええ!!」


 チハルは手の形を手刀にし、闇を纏った右手を狐に突き出す。

 その速度は正に神速。

 狐もチハルの動きに合わせて聖剣を繰り出す。


――――しかしチハルの動きの方が早かった。


 聖剣がチハルの体に届く前にチハルの手刀が狐を貫く。

 正に勝負は一瞬であった。


 ちなみに上記の流れは俺の動体視力では分からなかったので、後でチアキに説明してもらったものである。

 戦闘職と生産職にはそれほどの格差があるのである。

 決して、俺が情けない訳ではないぞ!!

 本当だぞ!?


 チハルは右手を振り狐の血を落とした上で、狐の持っていた聖剣を天高く掲げた。

 あたかも聖剣で怨敵を倒したかの様なポーズである。

 チハルがどれだけ格好をつけた所で俺たち以外に観客はいないのだが……。

 そして、その観客は聖剣で狐を倒した訳ではないのを知っているのである……。



「何事?」


 そんなこんなでバタバタしていたら、チフユが家から出て来た。

 足元には翠の狸がいる。

 かき揚げそばが食べたくなる様な見た目である。


「チフユお姉ちゃん、あなたが魔王であることは解っているわ。神妙にわたしに討伐されなさい!!」


 チハルがチフユに向かって聖剣を向けた。


「どういう事?」


 チフユは寝惚け眼で俺の方を見た。

 昨日も冒険者ギルドで依頼を受けていた様だし、寝起きで頭が回っていないのだろう。


「なんでもお前に魔王の疑いが掛かっているらしい」

「えっ?」


 そんなチフユの呆けた顔を見るのは久しぶりであった。

 

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