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隣の家の魔王様?


 魔王――それは悪の秘密結社の総帥にして世界の破壊者である。

 勇者の手によって300年前に討伐され、今は復活の時を待っているのだ。

 そんな魔王が今日、辺境の村で覚醒しようとしていた。



 王都から帰って来て一週間が経った。

 それまでの間、特に何もなかったのだが、今日は朝起きると布団の中にチハルがいた。

 俺は紳士な男なので年頃の娘が布団の中にいた位では慌てない。

 落ち着いてチハルを抱き枕にして二度寝するのだ。

 気が付くと昼前になっており、家にはチアキがチハルを回収しに来ていた。


「なんで兄様はチハルと一緒に寝てたのかなっ?」


 口は笑っていたが、目は笑っていない。


「気が付いたらチハルが布団の中にいたからだな。休日は、昼頃までゆっくり寝ていたいと思うものだろう」


 今回の件に俺の過失は一切ない。


「そうは言ってもチハルが布団に入ってきたりしたら目が覚めるものじゃないかなっ?」

「それだけ疲れていたってことだろう」


 俺がチアキに攻められている間、チハルは俺の布団の中でトリップしていた。


「えへへへへ。お兄ちゃんと一緒に寝ちゃった……。抱き枕にされちゃったよ」


 いい加減布団から出て正気を取り戻して、お兄ちゃんの援護をしてくれ。



「それで、お前らは何でと言うかどうやって村まで来たんだ?」


 チアキとの言い争いにもひと段落付いた(最終的に俺が勝利した)ため、疑問に思っていたことを聞く。


「兄様が帰った後、チハルが荒れに荒れてね。面倒臭いから王都とこの村を自由に行き来できるゲートを作ったんだよっ」


 何事もないかのようにチアキは主張するが、これは世紀の大発明である。


「ちなみに繋がっているのは、うちの家の屋根裏と兄様の家の屋根裏だよっ」

「だよっじゃないわ!! 俺の家の防犯とか色々と考えろよ……」

「兄様の家よりうちの家の方が防犯レベル高いと思うんだけど……」

「そういうリアルな話がしたいのではないんだが……」

「そんな訳で何時でも会いに来れる様になったんだよ、お兄ちゃん」


 我が実妹様は非常に嬉しそうである。

 なんでもこの為だけに現在チアキの家に住んでいるらしい。


「ちなみにこの事はチナツ様も知ってるから、その内遊びに来ると思うよっ」


 何時から俺の家は妹達の集り場になったんだ?



「それに他にも理由があるんだよっ。最近チフユさんの様子はどうかな?」

「チフユがどうかしたのか?」


 チアキが珍しく神妙な顔をしてきた。


「彼女に魔王の器としての疑いがかかっているんだよ」

「はぁ!? どういう事だよ!?」


 チアキの言に思わず声を荒げてしまう。


「この間会った時から感じてたけど、チフユさんの中に今まで感じたことのなかった深い闇を感じるんだよ」


 しかしチアキはどんな俺の態度も解ると言わんばかりに冷静にそう告げた。


「それが、どうして魔王ってことに繋がるんだよ?」

「まぁ時期が時期だからね。うちだってそんなことは信じたくない。だから、近くで様子を見る必要があるんだっ」


 確かにチアキのいう事が本当であれば、チフユの言動には注視する必要があるだろう。

 ただでさえ、この国の大半の人間が信じているアイリス清教を情弱が信じている気休めだとか、この世界に神はいないとか、戦争根絶のために武力介入が必要だとか言っているのだ。

 俺はチフユの事をよく知っているから問題だとは思わないが、異端者として宗教裁判にかけられてもおかしくはない思考をしている訳で、そこを捉えれば魔王と言われても仕方がないのかもしれない。


「でもチフユお姉ちゃんが魔王だったら、合法的にお兄ちゃんの婚約者にわたしがなれる訳だよ」

「いや、だから実の兄妹の結婚は法律上禁止されているぞ……」

「チフユさんを討伐すれば後釜に座れるみたいな考えを満面の笑みで語らないで欲しいなっ」


 チアキもチハルの意見に白い目を向けていた。


「ていうか、人の許婚を簡単に討伐しないでくれ」


 お兄ちゃん、妹達がバイオレンス過ぎてちょっと悲しくなってくるぞ……。



「それで、最近のチフユさんはどうなのっ?」


 気を取り直してからの質問である。


「そうは言っても特に前と変わらないぞ。ただ、最近は倦怠感と頭痛が酷いとか言ってたな」


 最近のチハルは体調が悪そうだった。

 吐気とかも止まらないと言っていたし、よくお腹をさすっていた。

 ちょっと心配である。


「お兄ちゃん、それは妊娠初期の症状だよ!!」

「はぁ?」

「やっぱり、あの泥棒猫が魔王ってことにして討伐した方がいいね」


 チハルは聖剣を取って隣の家に駆けだそうとしていた。


「チハル、ちょっと待ってよ」

「何よ?」


 そんなチハルをチアキが止める。


「想像妊娠の可能性もあるし様子を見た方がいいと思うよっ」

「確かに……」


 いや確かにじゃないし、そもそもチフユはそこまでメンヘラではないはずなんだが……。

 それに2日前に生理来たとか言って残念がってたし。


「いきなり体から湧いて出た闇の力に順応できてない可能性もあるよっ」

「むしろ妊娠とかよりもそっちの可能性の方が高いだろ」


 思わず冷静なツッコミを入れてしまう。



「体調の事は良いとして他に特異なことはなかったかなっ?」


 取り合えず、体調については横に置いておくことにしたらしい。

 チアキから近況について質問が入る。


「そうだな、最近紅い狐がチフユの周りにいるようになったな」


 村に帰って来てから、3日位経つといつの間にかチフユの家に生息していたのだ。


「紅い狐ってアレの事かなっ?」


 チアキは窓からチフユの家の様子を伺う。

 チフユの家の前には紅い狐が今日も日向ぼっこをしていた。


「そうだな。餌をあげると尻尾を振って喜んだりと非常に可愛らしいぞ」


 油揚げを持っていくとブンブンと嬉しそうに尻尾を振るのだ。

 その姿は非常に愛らしい。

 ペットを飼ったことがある人なら俺の気持ちがわかるはずだ。


「兄様、普通狐の尻尾は一本しかないはずなんだよ……」


 しかし、チアキは俺のそんな気持ちに気付かないのか沈んだ声で当り前のことを言ってくる。


「何を当り前のことを言っているんだ?」

「お兄ちゃん、あの狐、尻尾9本あるよ」


 チアキと共に窓からチフユの家の様子を伺っていたチハルが狐を見て思わず俺に主張したのだ。

 あの紅い狐は尻尾が9本あると――――。



「えっ?」



いつもの言葉になって恐縮ですが、ブクマ・評価等ありがとうございます。

励みになってますので、引き続き応援(ブクマ・評価等)よろしくお願いします。

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