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処刑当日


 この世界に神はいない。

 わたしがこの世界に生まれて、初めて好きになった人は実の兄だった。

 しかし、この世界の神は実兄の婚約を禁じていた。

 わたしはそんな神を信仰する気はない。


 この世界に悪魔はいない。

 悪魔は禁じられた行為を唆すというが、わたしは生まれてこの方、実兄との結婚を唆されたことはない。


 ここから導き出される結論は、この世界には神も悪魔もいないという事である。

 この世界の職業が神託によって決まろうが、転生者が神に会ったと言おうが、そんなものは関係ない。

 神託に従った職業に就かなくても生きていけるし、転生者だって別に手に負えない存在だという訳でもない。

 結局のところ、自分の意志さえしっかりしていれば、何者にも縛られず自由に決めて生きていけるのである。


 色々とわたしの持論を述べさせて貰ったが、つまりわたしが言いたいことは一つだけだ。

 チフユお姉ちゃんを処刑するのはわたしの仕事であって、こんな辺境の地のよく解らない処刑人の仕事ではないという事である。

 チアキは出来れば処刑したい程度なので、最悪処刑できなくても良いけど、チフユお姉ちゃんについては譲る気はないのである。


 そんな訳で、わたしは今処刑会場の最前列で、チフユお姉ちゃんが来るのを待機していた。

 処刑が始まった瞬間に処刑人を斬首して、その返す刃でチフユお姉ちゃんの首を刎ねる為だ。

 この時の為に、わたしは昨日お兄ちゃんに貰った剣をしっかりと研いで苦しまないで誅せる様に準備してきたのである。

 お兄ちゃんの剣で首を刎ねるのは、せめてもの情けである。

 チフユお姉ちゃんも見ず知らずの人間に処刑されるよりは、わたしに処刑された方が嬉しいだろう。


 チフユお姉ちゃんの首を刎ねた後は、チアキの番だ。

 チアキもちゃんと苦しまない様に聖剣で首を刎ねてあげる。


「チハル、変なこと考えてるでしょ?」


 チナツがわたしの考えに水を指してきた。

 無粋な奴だ。

 チナツは、今回のメイン火力と言うことでわたしとセットにされた。

 聖女の癖にメイン火力とはお笑い草である。

 他の聖女みたいに大人しく後衛職をやってれば良いのに、前衛でバッタバッタと敵を倒そうとするから火力ゴリラ扱いされるのだ。

 一応お兄ちゃんの考えを覗いてみたところ、わたしのお目付け役としての意味合いの方が強い様だった。

 ……解せぬ。

 わたし一人で全部片づけられるのに、お兄ちゃんも心配性である。


「変なのはわたしじゃなくて、向こうの集団じゃないかな」


 ただまぁ今はチナツの疑惑の目を逸らす方が優先である。

 その為、同じく最前列に位置していたチフユお姉ちゃんのサイン入りの法被をきた集団に犠牲になって貰う事にした。


「チフユさんの処刑反対!!」

「彼女は俺達の母となってくれる女性だ!!」

「断固として、チフユ氏の処刑に抗議する!!」


 その集団はここにいる観客達の中で一際熱い熱を持っていた。

 わたしの目から見ても頭のオカシイ集団だったので、チナツの目を逸らすには十分な存在であろう。

 ただ、意外と街の人からは好意的な目を向けられており、チフユお姉ちゃん達のアイドル活動とやらが如何に浸透していたのかを察することが出来た。

 本当に、この街の人ちょっとアレじゃないかと思う。

 ちなみに、法被を着ていないレベルのファンも結構来ている様で、その人達も今回の処刑について積極的な声は挙げていないものの疑問視していた。


 ……チフユお姉ちゃん、愛されてるなぁ。


 わたしの生暖かい視線とは対照的に、チナツがわたしに向ける目線は冷たかった。


「あの集団が変なのは否定しないわ。でも、あんた今回の作戦ちゃんと把握してるのよね?」

「当たり前じゃん。チフユお姉ちゃん達が処刑される前に、処刑人を処刑して、その流れでチフユお姉ちゃん達を処刑した上で、チフユお姉ちゃんを処刑しようとした公爵家の人間も処刑すればいいんでしょ?」


 自分で言っていて『処刑』がゲシュタルト崩壊してきた気もしたが気のせいである。

 つまりは、目に見える者を皆殺しにすればいいのだ。


「……ちょっと、あんたね」

「大丈夫、お兄ちゃんを悲しませるようなことはしないから安心してよ。それに、チフユお姉ちゃんもチアキも簡単には処刑されないと思うよ」


 どうせ、あの二人はわたしも思いもよらない様な手段で、わたしの首刎ねを避けてくるのだ。

 チナツの心配は無駄である。


「はぁ……。まぁ、それもそうだろうけどね」


 チナツはわたしの発言に諦めたかの様に溜息を付く。

 失礼な奴だ。

 わたしは至極真っ当な事しか言っていないというのに。


「一応、今回のあたし達の作戦を確認しておくわ」

「さっき言ったのが、今回のわたしの作戦だよ」


 鏖作戦以外に作戦はないので、これ以上確認すること等ないのだ。

 わたしは言外にそう主張する。


「それはもう良いから」

「そうは言ってもそれ以上の作戦なくない?」

「じゃあ逆に聞くけど、チアキ達が変な作戦立ててたら如何するつもり?」

「その辺は臨機応変に対応するしかないよね」

「つまりは、あんたの作戦も訂正する必要があるって事じゃないの」


 ……チナツの奴、面倒な屁理屈をのたまうものだ。


「はぁ、分かったよ。チフユお姉ちゃん達の処刑は機会があればまで重要度を落とす。それで良いんでしょ?」

「良くないけど、まぁ良いわ。取り敢えず、チフユ達と公爵家が来たら動くわよ」


 わたしの返事に渋々であるが理解を示してくれた様である。

 まぁ何にしてもこれが片づけば、お兄ちゃんの所に帰れるのだ。

 それを考えれば、チフユお姉ちゃんの処刑とかチアキの処刑とか些事である。

 その最重要な命題を達成するために、わたしは全力を尽くそう。


 わたしのすべてはお兄ちゃんの為にあるのだから……。


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