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処刑前日 ~裏話~


「抵抗するな!!」


 大人しく牢屋で一人しりとりをしていたら、チアキがグルグル巻きにされて衛兵に連れて来られていた。

 私はその微妙に緩んだ縛られ方に違和感を感じながらも、等々チアキも捕まってしまったのかと諦めの境地に達していた。

 まぁチアキは何時捕まってもおかしくない人間なので、全く驚きはなかったんだけど。


「なんでうちが捕まらないといけないのかなっ」

「貴様は【洗脳】魔法の使用と言う大罪を犯しただろう!! その為の処置だ」

「納得がいかないんだよっ!!」


 口調は荒げていたが顔はニヤニヤしていて、チアキが何か悪い考えを持っているのが確定的に明らかだった。


「チアキ、そういう小芝居は要らない」

「流石チフユさんだね。うちの小芝居を一目で見抜くなんて」


 私はチアキのそんな様子に耐えかねて声を掛けると、チアキは衛兵に指示を出して自信の拘束を解かせる。

 

「それで一体何の用? 何でわざわざ捕まったふりまでしてここに来たの?」

「一応言っておくとうちが捕まったのは本当だよっ。王都からオルフェ公爵家の長男達が帰ってきて、公爵家に掛けた【洗脳】がバレちゃったんだ」


 チアキは相変わらずの軽い空気で重たい内容を伝えてくる。

 何だかんだで【洗脳】系の魔法は大罪だ。

 良くて断頭台、悪くて凌遅刑と確実に死刑になるものである。

 『バレちゃったんだ』とか軽くすませられる問題ではない。

 それをここまでどうでも良さそうに言ってくる神経は流石である。


「そんな自分のことだけで、貴女はここには来ないはず。他に何があったの?」


 チアキだったら【洗脳】がバレたのであれば一人で勝手に逃走を図る筈だ。

 私に【洗脳】バレを一々伝えに来る訳がない。


「兄様達が教会に襲撃を掛けたらしいんだよっ」

「えっ!? 兄さん達は無事なの?」

「皆無事らしいから安心してよっ。それで、兄様達が無事だった事から分かると思うんだけど、一応襲撃自体は成功したんだ。でも、そのせいで困ったことになっちゃったんだよっ」

「それって公爵家の事?」

「その通りなんだよっ。教会が襲撃されたことを知った公爵家が、人身売買の不正がバレるのを嫌がって、襲撃犯を処刑しようとしてるんだよっ」

「成程。公爵家失脚のネタにされる可能性があるから処刑して口封じをしようって事か……」


 流石、小物らしい考え方である。


「うちの洗脳が生きてれば、こんなことにはならなかったんだけどねっ。まぁタイミングが良くなかったよね」

「それなら尚の事なんで私の方に来たの? 正直、私よりも兄さんの方が危険」


 チアキの中の優先順位を考えれば、私よりも兄さんの方が百倍以上高い。

 チアキは私と兄さんのどちらかしか助からないと言われれば、間髪入れずに兄さんを取る娘だ。

 なのに、何故私のところに来たのか……。

 ……まさか。


「まあチフユさんが今思った通りだよ。何処にいるか分からない兄様を誘き出す為に、チフユさんを囮にしようって事だねっ」

「それじゃあこんな所でのんびり一人しりとりとかしてる場合じゃない!!」

「……えっ、チフユさん。……一人しりとりとか何やってるの?」


 私が兄さんの足を引っ張る訳にはいかない。

 取り敢えず、ここから脱出しないと。


「うどん、そば、ここから出る。協力して」


 私の声に従って、私の影からうどんとそばが出て来る。


「ちょっと、チフユさん。落ち着いて欲しいんだよっ!! ていうか見ないと思ったら、うどんとそばそんな所にいたんだ……」

「まだ何かあるの?」

「一応兄様にはチナツとチハルもいるんだよっ。向こうは戦力的には問題ないんだから、こっちはこっちで公爵家打倒のために色々と動いた方が良いと思うんだっ」


 チアキの言う事は一理ある。

 落ち着いて考えてみれば、チハル達がいて兄さんが危険に晒されることはまずない。

 むしろ私がその場にいた方が足手まといになる可能性だってある。

 そう考えれば、兄さんの所に行かない選択肢も悔しいけどアリと言えばアリだ。

 しかし、それでも兄さんの所に行きたいのも心情である。


「それにチフユさんは、今兄様が何処にいるのか分からないでしょ?」

「チハル程じゃないけど、私にだって兄さんを感知するレーダー位標準搭載されてる。何となくだけど、方向位は分かる」


 チハルみたいに常にストーキングしている訳ではないが、私だって兄さんの匂いで兄さんの居場所を探知すること位余裕なのだ。


「流石チフユさん。伊達に兄様の婚約者を名乗ってる訳じゃないって事だねっ……」


 当り前である。

 どうせ、チナツやチアキだって兄さんの居場所を探知する事なんて、手段は分からないが容易くできるのだ。

 であれば、この戦いで私も負ける訳にはいかないのである。


「まぁ取り敢えず兄様の探知性能の話は置いておいて、うちの話を聞いて欲しいんだよっ」


 チアキの話はこうだ。

 公爵家は私とチアキを明日断頭台に掛けようとしているらしい。

 当然この話はこの街中に広められており、その話に釣られた兄さん達を一網打尽にしようとしていると言うのが、公爵家の戦略だという。


「それであれば、私達がここにいるメリットあんまりないと思う」

 

 公爵家の作戦の肝は私達の存在である。

 私達がここから逃げ出せば、兄さん達も気にすることがなくなるので普通にこの街から脱出できる。

 そうすれば、公爵家は教会の告発によって断罪されることになるだろう。


「それも一つの考えだけど、それだと教会が告発するまでの間に、公爵家があの手この手を尽くして今回の件をなかったことにしようとすると思うんだよっ」


 私の考えをチアキは否定する。


「それに、それで公爵家が生き残っちゃったら、汚点を知っているうち達を何時までも見逃すはずがないしねっ。チフユさんが暗殺者の魔の手に一生晒されても良いって言うんなら止めないよっ」


 悪党の考えは悪党が一番分かるとは言うが、チアキの言う事は最もだった。


「だから、ここは一回公爵家の策略に乗ってやれば良いんだよっ。公爵達も自分の作戦通りに事が運んでいれば、疑うことなく動いてくれる筈だからね。そして、一番大事な所でトラップを仕掛けてやればいいんだよ」

「はぁ、分かった」


 説明しているチアキの顔に邪悪なオーラを感じたが、こういう搦手はチアキの方が得意だし、チアキの作戦に乗るのはやぶさかではない。


「取り敢えず、どうするの?」

「それじゃあ、―――――」


 こうして私とチアキは明日の処刑に向け、色々と準備を進める事にしたのである。


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