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教会強襲戦 その5


「これ以上、こっちに近付いたらこの娘がどうなるか分かってるの?」


 司教室の前でチナツと合流してから、近付いてくる僧兵をは千切っては投げ、ぶん殴っては投げを繰り返していたら、段々と飽きて来たのでチナツを人質する名案を思い付いた。


「あんた、今更何考えてるのよ!!」


 チナツがわたしの手の中で文句を言ってくるが、正直飽きて来た以上にもう疲れて来たのだ。

 教会に突入して、目に付く僧兵に重傷を負わせない様に気を使いながら戦い、司教への増援を阻止するために司教室の前に陣取る。

 結構いい仕事をしたと思うし、いい加減休憩しても良いよね。


「……君達は仲間ではないのか!?」


 わたしの突然の行動に、僧兵のリーダーと思しき男が動揺して手を止めた。

 よし、これで良い休憩時間の確保できる。


 確かにこのリーダー的存在のいう様に、わたしは先程まではチナツと協力して戦っていた。

 しかし、それはチナツをお兄ちゃんの元に行かせない為であって、別に手が足りないからとかそう言う理由ではない。

 なので、用が済んだら別にチナツを切り捨てても構わないのだ、


「この娘の服装が目に入らないの?」


 それに、チナツはアイリス清教に所属する数少ない聖女の一人だ。

 その役職は、こういう身分に弱い相手には絶大な効果を発揮する。


「そのシスター服が何だと言うのだ!!」


 ――あれ?

 なんで、こいつチナツのシスター服で聖女だって気が付かないの?


「……この娘はアイリス清教に所属する聖女なんだけど?」

「私は生まれた時からアイリス清教を信仰しているが、そんな聖女など知らん!!」


 わたしの疑問に対して、リーダー的存在はそう言い切った。


「ちょっと、チナツ。どういうことなの?」


 チナツの教会内での立ち位置はどうなっているんだろう。

 わたしの記憶によると結構偉い位置にいたと思ったんだけど。


「……その言葉はあたしの方が言いたいんだけど?」


 チナツはチナツで、わたしの質問にも答えずわたしの行動に文句を言ってきた。

 そんな些細な事を一々気にしないで欲しいが、ここでチナツに暴れられたら後で確実にわたしが磔刑に処されてしまう。

 チアキと違って自ら磔刑に処される様な趣味はないので、取り敢えず弁明しておこう。


「わたしは休憩時間を確保するために、チナツを人質に取ろうと思ったんだよ」

「それならそれで、先に言ってよね。そう言うんであれば喜んで人質位なってやるわよ」


 チナツがわたしの弁明に理解を示してくれる。

 よし、これでチナツの磔刑から逃れる事に成功した。

 もうこの事実だけで、わたしの心にゆとりが出来る。


「でも、チナツ人質として全く役に立たなさそうだね。……本当に使えない女だよ」


 しかし、あの僧兵の反応を見る限り、チナツに人質としての価値はなさそうである。

 現状、役立たずであるとしか言いようがない。


「さっきまで誰があんたに回復とかバフを掛けてたと思ってんのよ」

「それとこれとは話が別だよ」


 ……別にチナツのバフとかなくても、この程度の相手処理出来たし。

 いくらお兄ちゃんからの頼み事とは言えども、チナツに借りを作るのは癪なのだ。

 ぶっちゃけ要らないと言っても良い位である。


「というか聖女って教会内で結構高い身分で良いんだよね?」

「……そうだけど」


 教会内では、身分の高い人の名前は下々の階級の人間まで知れ渡るという。

 それなのにチナツはこの僧兵達に存在を知られていない。

 そこから考えられる結論は一つだ。


「つまりチナツは教会内で人気がないって事だね。今まで何やって来たの?」

「そんなのあたしの方が聞きたいわよ!! あたしだって結構ショックなんだからね!!」


 今更騒ぐなんて無様である。

 どうせ教会内でも、わたし達にする様に気に食わない奴がいれば縛り付けて磔刑に処してきたんだろう。

 そんな恐怖政治を行っていれば、人気が出なくても当然である。

 ハハっ、ざまぁないね。


「それで何時までそうしているつもりだ? その娘は我々にとっての人質とはならんぞ!!」


 今まで律儀に待ってくれていたリーダー的存在が急かしてくる。

 ここまで待ってくれたんだから、もう少し待ってくれても良いのに。


「チナツ、何か聖女であることを証明できる様な印籠的な物はない訳?」

「そんな便利なものがあれば苦労しないわよ!!」


 しかしチナツの恐怖政治のせいで、わたしにまで被害が及ぶのは納得がいかない。

 何か良い手段はないのだろうか。

 むしろ休憩を取るとか変な事を考えないで、もう僧兵を薙ぎ倒した方が楽かもしれない。


 そう思いチナツを解放し、剣を構え直そうとした所で、一人の糞虫が場に乱入してきた。


「やっと見つけた!!」

「リジー!! 何であんたがここに!?」


 そう現れたのは蛆虫(ドワイト)パーティの一人――糞虫である。


「チナツ!! あんたに見捨てられてから、わたしがドワイトにどれだけ虐待されてきたか分かる!?」

「えっ?」

「あんたへの恨み、ここで果たさせて貰うわ!! 覚悟しなさい、緊縛の聖女!!」


 態々、チナツへの恨みを解消するためにここまで追い掛けてきた様だ。

 ご苦労な事である。


「しかし、……緊縛の聖女ってダサい名前だね。自分で名乗ってるんならセンスないよ?」

「知らないわよ!! あたしが自分からそんなダサい名前、名乗ってる訳ないでしょ!!」

「でもそう呼ばれるって事は、自称にしても他称にしてもそう呼ばれる要因があるって事だよね。もう少し日頃の行いを改めた方が良いんじゃない?」


 聖女なのに緊縛って頭おかしいでしょ。

 逆にこの頭のおかしさがチナツらしいと言えるかもしれないけど。


「緊縛の聖女だと!!」


 しかし、その緊縛の聖女というパワーワードに一番食い付いたのは僧兵達だった。


「まさか、そちらにおわすはアイリス清教所属聖女の一人チナツ・グレイシア様では?」

「そうだけど」

「こ、これは失礼を致しました」


 僧兵達が一斉にチナツに向かって跪く。


「えっ、どういう事?」

「まさか貴女様が緊縛の聖女だとは気付かず、今までの数々の無礼、平に陳謝致します」


 チナツは僧兵達の動きに困惑しているが、なんとなく空気が読めて来た。


「つまりチナツの顔は知らなくても、緊縛の聖女とか小恥ずかしい二つ名だけは知られていたって事だね」

「その通りで御座います」

「チナツ、やっぱり日頃の行動って大事だね」


 そう言って、チナツの肩を叩いたらチナツは固まっていた。

 自分の緊縛趣味が教会中に知れ渡っていたことがショックだったのだろう。

 しかし、これでチナツに人質としての価値が出て来たとも言える。

 休憩時間が確保できるかも。


「わたしを無視するなーーーーーーーーーーー!!」


 そんな事を考えていたら、糞虫が大声をあげる。

 完全に忘れてた。

 さて、どうしようかな?

 僧兵を扇動して糞虫に仕掛けるか、チナツを糞虫に差し出してわたしが僧兵と戦うか。


 まぁ何にしても、お兄ちゃんに早く会いたいものである。


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