教会強襲戦 その3
時系列的にはチハルの教会襲撃前になります。
「おい、本当にこっちで良いのか?」
俺は変態から渡された全身タイツとトレンチコートを装備して、配管の中を走っていた。
前には変態、後ろにはナタリアが着いてきている。
「何も不安に思うことはない。あの教会の隠し通路がここに繋がっているのは確定的に明らかだ!!」
変態は自信ありげにそう言うが、司教なんて偉い人が本当にこんな配管なんて通るのだろうか?
ナタリアも後ろで「何で、わたくしがこんな小汚ない所に来なければいけませんの!!」とか怒ってるし……。
「少年は心配性だな。古来からこう言う隠し通路と言うものは、この手の配管や井戸に繋がっているものなのだ!!」
「ちゃんとした証拠に基づいてここに来たんじゃないのかよ!」
俺の不安そうな顔を察したのか変態が更にそう説明するが、俺の不安を増長させただけだった。
本当に大丈夫なんだろうか……。
「にいさん、だいじょうぶだよ。しきょーがにげても、わたしがつかまえるんだよ」
変態の背中に張り付いた真冬ちゃんが、俺の不安を払拭させようと声をあげる。
最初は変態の背中で不機嫌そうにしていたのに、そのアクション性の高い動きに魅了されたのか、今ではご機嫌である。
現金なものだ。
でも不安そうな空気を出して、真冬ちゃんに要らない心配を掛けるのも良くないな。
「それで予定だと、司教の襲撃ポイントには後どれ位で到着するんだ?」
気持ちを切り替えて変態に尋ねる。
「後、5分程度で教会からの隠し通路の出口に到着する。そこで司教を待ち構えるぞ!!」
5分か、意外と近いな。
チハルの奴は無事にやってるだろうか?
一人で囮役になった時、物凄く不満そうにしてたし、あんまり無茶はしないで欲しいんだが……。
これが終わったら、後で何か埋め合わせしてやらないとな。
そんなチハルの心配をしていたら、目的地に到着していた。
隠し通路から配管に繋がる場所の為か高さは2メートル位、幅も人が3人並んで通行するのが困難な程度には狭い。
多人数での戦いは元より、剣を振り回して戦うなんて事も難しい場所だった。
「こんな場所で戦えるのか?」
「何、向こうは護衛の兵をぞろぞろと引き連れてくるのだ。寡兵を持って多兵を制するにはこう言った狭い場所の方が都合が良い」
現在のパーティで最も戦闘慣れした変態が言うのだから、間違いはないのだろう。
と言うか、このパーティで真面に戦えるのが変態しかいない。
俺は言うまでもないが、真冬ちゃんは幼女だ。
チアキの教育方針にもよるが、多分まだ戦闘経験はないだろう。
チアキの事だからやってそうな気もするが、やっていないと信じよう。
「そう言えば、ナタリアって戦えるのか?」
悪役公爵家の令嬢だし、チアキに師事していたと言う事なので無力ではないと思うが、どれ程戦えるのか聞いた事はなかった。
「言っておきますけど、戦闘の頭数にわたくしは入りませんわよ」
「そうなの?」
「先生からも『君は戦わない方が良いと思うなっ』と太鼓判を戴きましたからね」
ナタリアは自慢気にそう宣言するが、それは自慢にはならない。
……意外とこいつポンコツだよな。
それにしても、あのチアキが戦闘関係の事で手を上げるとは余程の事だ。
チアキは興味のないことには、とことん手を抜こうとするが、金銭のやり取りがある場合だけは多少の努力を見せる。
何でも、給料分くらいは働かないと次につながらないから仕方がないんだそうだ。
チアキは結構論理的に物事を説明してくれるため、戦闘関係のことも非常に理解しやすく教えてくれる。
実際、護身術程度は覚えようと思った時に、チフユ達に師事を仰いだことがあるがチアキが一番分かりやすかった。
まぁ、初っ端から【洗脳】すれば良いとか、【時間停止】が有効とか、違法だったり出来もしないことを教えて来るので欠点も多かったが……。
しかし、そんなチアキが見捨てたという事は、それだけ戦闘のセンスがなかったのだろう。
「何か可哀相な人を見る目をしないでくださる?」
戦闘が出来ない仲間を見つけた目で見ていたつもりだったんだが、ナタリア的には気に食わなかったらしい。
冷たい女である。
「わたしは、たたかえるよ!!」
ナタリアだけ構って貰えてズルいと思ったのか、真冬ちゃんが両手を挙げて自己主張をしてきた。
確かに真冬ちゃんはチフユのクローンなだけあって、このパーティの中では桁違いに魔力が多い。
しかし、その魔力を自由に制御出来る訳ではないので、エルードまでの道中みたいに下手に暴走されたら困る。
何よりも、いい歳をした大人が4歳児の後ろで指示を出して戦わせている姿は非常にダサい。
これが小型のモンスターで「任せた! 真冬」みたいな感じで戦わせる奴だったら、まだマシだろうが真冬ちゃんは普通に人間である。
傍から見たら、後ろで指示を出している大人は最低の人間だろう。
俺はそんな人間にはなりたくない。
まぁ普通に危ないので戦わせたくないと言うのが、本音なんだけどな。
正直、預けられる人がいればここにだって連れて来たくはなかったのだ。
「よし、じゃあ本当に大変になったら宜しく頼むぞ」
「うん、わかった!」
ただ、本音を正直に言うと拗ねるので、取り敢えずそう言って誤魔化す。
変態が妙に生暖かい視線を飛ばしてきたのが癪に触ったが……。
そうして、そんな会話をしつつ色々と準備を終えてから変態に確認を取る。
「それじゃあチハルに指示出していいんだな?」
「ああ、頼んだ!!」
チハルは便利な事に、俺の思考を常に読み続けている。
これはチハルに対して隠し事は出来ないという事でもあるが、逆に言えばこうして離れている時であっても、一方通行ではあるが以心伝心出来るのだ。
なので、チハルに作戦を開始する旨の支持を出す。
すると間髪入れずに、俺達がいる配管が物凄い勢いでグラグラと揺れた。
その揺れに耐え切れず、ナタリアが尻餅をつく。
真冬ちゃんも怖かったのか俺の足にしがみ付いていた。
「……あいつ、何やったんだよ」
多分チハルの攻撃によるものだと思うが、本当に大丈夫だよな?
色々な意味で、チハルの事が心配になってしまったのだ。




