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教会強襲戦 その2


 教会の中も酷いものだった。

 チハルが通ったと思われる廊下には負傷した僧兵やその救護をする修道女がいたり、廊下そのものも壁に穴が空いていたり、瓦礫が積まれていたりとその道中の戦いの過激さを物語っていたのだ。


「……チハルの奴、やり過ぎよ」


 ただ今はその状況に助けられているのも事実ではある。

 このボロボロになった道を辿っていけば、チハルのいる場所に行けるからだ。

 負傷した僧兵は見た感じそこまで酷い怪我はしていなさそうではある。

 外にいた僧兵と同じだ。

 多分この辺はあいつの指示によるものだろう。

 チハルだけだったら絶対に死人が出ている筈だ。


「君、この先は危ない! 悪魔に襲われるぞ」


 何人か怪我の軽そうな僧兵に声を掛けられるが、あたしはそんな声を無視して更に奥に進んでいく。

 こうして他人の心配を出来る正義感の強い僧兵がいる所を見ると、この教会の全てが腐敗している訳ではないのだろう。

 だからこそ、チハルの強襲作戦で怪我をした僧兵に申し訳ない気持ちになってくる。

 チハル達の作戦の意図が掴めないので何とも言えないが、本来であればこの僧兵達が怪我をする必要はなかったのだから。

 チハルももう少し穏便な手段を取れなかったの!!



 そうして更に進んでいくと等々剣戟の音が聞こえてきた。

 やっとチハルに追い付けた様だ。


「こ、この悪魔め!!」


 その場所は丁度司教室の前だったらしく、戦闘をするのに十分な広さがあった。

 そして、その中心には黒い魔力を纏った金髪の少女がおり、周囲をこの教会の僧兵が取り囲んでいる。

 僧兵の数は20人程で、中には僧兵の中でも最強と呼ばれる聖騎士もいた。

 聖騎士はSランク冒険者に比肩する強さを誇り、教会でも有数の力を持った存在でもある。

 そんな聖騎士と20人にも及ぶ精鋭の僧兵が取り囲んでいるのだ。

 真面な考えをした人であれば、大人しく降参した事だろう。

 しかし真ん中にいる少女は、その程度の数がなんだと言わんばかりの堂々とした態度で、僧兵達と相対している。

 むしろ、数の多い僧兵の方が少女に対して怯んでいた。

 僧兵の気持ちも分かる。

 道中であれだけの惨劇を作り上げたにも関わらず、少女には怪我はおろか汗一つかいた要素がないのだ。

 

 そんな圧倒的に少女の有利そうな空気の中、少女は漆黒の剣や闇の魔力弾を司教室に向かって投げる。

 司教室を守らせ、僧兵達の動きを制限させる為だ。

 そして一人、また一人と油断した僧兵を切り伏せて行く。

 背中で一本にまとめた髪がうねうねと動く様は、何か恐ろしい物ノ怪の様にも感じられた。

 しかし、そんな少女の凶行に僧兵達も黙ってやられる訳ではない。

 聖騎士の号令に従い体制を立て直すと、連携して少女に剣を振るう。

 少女はその剣を時には受け、時にはかわす。

 自身の次の行動を読ませようとはしない虚実混ぜた動作は洗練されており、端から見ても舞踏の様におどろおどしくも美しかった。

 しかし、そんな舞踏も踊る相手が居なくなれば終わってしまう。

 何時の間にか、少女の前に立つのは聖騎士だけとなっていた。


 ――チハルってこんなに強かったっけ?


 その戦闘を見て、あたしがいの一番に思ったことはそれである。

 まぁ言うまでもなくその少女はチハルの訳だが、あたしの前で何時も見せていた戦闘とは桁違いの良い動きを見せていた。

 Sランク相当である聖騎士を一方的に打ちのめす様は、勇者としての実力で考えれば申し分ない程である。

 あいつ以外の前ではデフォルトになっている感情一つ浮かべていない表情で、闇の魔力を纏って戦う様は勇者と言うよりは、呪われた暗黒剣士を名乗った方が良さそうではあったが……。


 20対1で戦って勝てない相手に1対1で勝てる訳もなく、聖騎士は数分と経たない内にチハルの手によって倒された。


「チナツ、結構早かったね」


 そして聖騎士が動かなくなったのを確認すると、チハルはあたしの隠れていた廊下に視線を飛ばしてくる。


「良く分かったわね」


 僧兵の味方もチハルの味方も出来ないので、隠れて戦闘の様子を伺っていたのだが、チハルにはバレていた様だ。

 声を掛けられてしまった以上、チハルの前に姿を現す。


「まぁチナツからは甘くて酸っぱい乙女心満天な空気を感じるから」

「……それ、どんな空気よ」

「お兄ちゃん大好き抱いてって奴」

「あんた後で磔刑ね」


 あたしのプライドに掛けて言わせてもらうが、そんな空気は一切出した事はない。


「はぁ、それでチフユお姉ちゃんはどうだったの? 後、チアキは?」

「チフユは無事だったわ。何でもドワイト達に襲われたらしいけど、無事切り抜けられたみたい」

「ふーん。それでチアキは?」


 チハルの目から一瞬だけハイライトが消えた。

 あれは後で誰かを血祭に上げようとしている目だ。

 狙いがドワイトなのかチアキなのかは分からないが、今はどちらでも良いので置いておく。


「チアキはチフユの面倒を見る為に拘置所に残ったわよ」

「裏切った訳じゃないって捉えて良いんだよね?」

「ええ、多分大丈夫だと思うわ」


 流石、チアキだ。

 チハルからの信頼感が無さ過ぎる。


「それで、あんた達は何教会に強襲戦を仕掛けてるのよ?」

「これ以上慎重に事を運んでも、何も変えられないって事に気付いたお兄ちゃんの意向だよ。お兄ちゃんがそう決めたのであれば、わたしはその願いを叶える為に全力で事に当たるだけだから」


 その全力で事に当たった結果が、僧兵を一人でほぼ倒し切るという奇行になるの?

 こんなレベルの事が出来るんだったら、何時も全力を出して欲しい。


「それであいつは?」

「お兄ちゃんだったら司教とそろそろ会ってるんじゃない。わたしの今回の仕事は囮だからね。わたしが大暴れしている間に逃げ出した司教をお兄ちゃんが捕まえるって作戦だし」

「……それってあんたが付いてなくて大丈夫なの?」


 司教は確かに聖騎士よりは弱いが、戦いの知識が一切ない麺職人が戦って勝てる相手ではない。


「まぁ、忌々しいけど向こうには変態と間女がついてるからね」


 間女ってナタリアのこと?

 チハルの奴、いい加減人の名前をちゃんと呼びなさいよ。


「わたしは一番囮らしく派手な技が使えるって事で、お兄ちゃんの護衛を外されてこんな下らない唾棄すべき仕事に回されたって訳」

「成程ね」


 なんかチハルが不機嫌そうなのは、あいつと同じパーティを組めなくて苛々していたからか。

 そして、僧兵達はその苛々を思いっきりぶつけられたのだろう。

 ご愁傷様である。


 何にしても一平とナタリアがいるのであれば、あいつは無事だろう。

 であれば、あたしはあいつと合流するのが最優先である。


「それであいつは何処にいる訳?」

「なんでわたしがチナツにお兄ちゃんの場所を教えないといけないの? チナツはここでわたしと一緒に囮役をやって貰うよ」

「えっ?」

「チナツだけお兄ちゃんと一緒にいられるなんて、羨ましい権利をわたしが渡す訳がないんだよ!!」


 こんな時まで、そんな嫉妬出さないで欲しいんだけど……。


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