面会室の中で ~チアキとチフユの頭脳戦~
「さて、チアキ。あのドワイトとか言うの貴女の差し金でしょ?」
「チフユさんは何を言っているのかな?」
チナツが居なくなったので、チアキに尋ねる。
チナツがいる所でこういう話をすると、チナツが暴れるので出来なかった話だ。
「あんな良いタイミングで私達を襲ってくるなんて、狙ってない限り在り得ない。しかも、私があのレベルの冒険者に殺されなかったこともおかしい」
Cランク冒険者に過ぎない私が、Aランク冒険者であるドワイトを撃退するなんて本来であればあり得ないのだ。
それ位Aランク冒険者は強い。
いくら真冬のファンがプロ並みの動きで、私を援護してくれていたとしてもそれは変わらない。
彼らが本気で私を倒す気があれば、ファン諸共瞬殺されてもおかしくはなかったはずなのだ。
それなのに瞬殺されなかった。
向こうに嬲る意思があったから瞬殺されなかったんだとしても、真冬が捕まらないで逃げられた時点で不審点が残る。
つまり、あのドワイトと言う冒険者は本気で戦えなかったか、私達に危害を加える事を禁止されていたと見ることが出来るのだ。
しかし、ドワイトの殺気は本物だった。
本気で私を害しようとしていたのだ。
そうなると可能性は一つだ。
ドワイトは【洗脳】されていて、本来の実力を発揮することが出来なかった。
だから本人としては本気でも、実際は手加減しているという不可思議な現象になる。
そして、そんな風にドワイトを【洗脳】出来るのは一人しかいない。
それはチアキである。
「……ふーん」
そうチアキに説明すると、私の出方次第ではいつでも攻撃に移れる様な態勢を取っていた。
いつになく強い緊張感を感じる。
これは包丁を持ったチハルに追いかけられた時と同じレベルの緊張感だ。
チハルで慣れているとは言えども、敵対心を剥き出しにされるとちょっと悲しくなるのも事実である。
「もし、うちがそうだって言ったらチフユさんはどうするつもり?」
そんな緊張感の中でチアキが一歩踏み込んだ質問をしてきた。
「別にどうもしない。私は貴女をそれなりに信じている」
「なんで、うちみたいな人をチフユさんはそこまで信用できるのかなっ?」
「そんなのチアキが私の妹分みたいなものだからに決まってる。他の誰もが貴女を信じなくても、私は良い意味でも悪い意味でも貴女を信用してる」
当り前のことを聞かないで欲しい。
兄さん程ではないにしても、私だってチアキに好意を持っているのである。
兄さんの事についてはライバルだし、人間性だって最低だとは思うが、それでもチアキは何だかんだで私に協力してくれているのだ。
本人は認めないかもしれないが……。
だから私はチアキと自分から敵対するような事をする気はない。
「本当にチフユさんはお人好しだよね。うちはチフユさんが思ってる程、良い人間じゃないんだよっ」
チアキは何とも言えない顔で溜息交じりにそう答える。
「そんなのは分かってる」
チアキは社交的に見えて、自分の心を誰かに開く様な事は絶対にしない位に猜疑心が高い。
今でこそ兄さんを始め私達にはある程度、心を開いてくれているみたいだけど、他人を信用する事なんて絶対にしないのがチアキである。
だからチアキは【洗脳】を多用する。
絶対に自分が裏切られない為に。
【洗脳】すれば裏切られることはなくなるから。
「それで今回は何を企んでいるの?」
「チフユさんを罠に嵌めて処刑しようと考えてるって言ったら?」
チアキは殺気を交えながら、何時もより冷たい口調でそう言った。
本当にチアキは本心をひた隠しにしようとし過ぎだ。
だからこんな簡単にバレる様な嘘をつく。
「貴女はそんな兄さんが悲しむ様な手段は使わない。やるんなら、もっと回りくどくて小賢しい手段を使う」
「……本当にチフユさんは嫌になってくるんだよっ」
チアキは両手を挙げて、降参したと言わんばかりの態度を取った。
「正直な話をさせて貰うと、うちはドワイトの行動には全く関係ないんだよっ」
「えっ?」
じゃあ、今までの思わせぶりな行動はなんなの?
「なんか関係ありそうな空気出したら面白そうだなって思ったんだけど、チフユさんが予想通りの良い反応をしてくれてうち的には大満足だよっ」
……何、……この娘。
今までのシリアスなモノローグを返して欲しい。
チアキは私を騙せたと満足気な表情でそんな事を宣ったのだ。
「本当にドワイト達は貴女と何の関係もない訳?」
「チフユさんの想像通り、うちがドワイトを【洗脳】しているのは事実だよっ。それに伴って、ドワイトがチフユさんを襲った時に本気を出せなかったのもね。でも、ドワイトにチフユさんを襲わせる様にうちは指示を出してないから、ドワイトとチフユさんが出会ったのは偶然だと思うなっ」
「じゃあ、ドワイト達は何であの場所にいたの?」
「そんなのうちはドワイトじゃないから知らないよっ。まぁ考えられる可能性としては、あの大爆発に興味をそそられて野次馬根性であそこに行ったのが一番確率が高いんじゃないかなっ」
チアキに言われるとそんな気がしてきた。
なんか推理小説とかでドヤ顔で間違った推理をした探偵の気分が分かった気がする。
「なんか、悲しくなってきた……」
「まぁ偶にはそう言う事もあると思うよっ」
そう言ってチアキが慰めてくる。
多分内心では小馬鹿にしていると思う。
「そんなチフユさんに朗報を一つ教えてあげるよっ」
「何?」
「公爵家はもううちの手中にあるから、後は教会をどうにかすればこの問題は解決するって事だよっ」
「えっ?」
「公爵家も既に【洗脳】済って事だよ。兄様には一応今後の事を考えて動くべきだとは言ってあるけど、大半はもう解決だよねっ。国王に不正について密告すれば、この公爵家も終わりだろうし。兄様にこの土地あげようとしたのに断られちゃったからねっ」
「……チアキは何をやっているの?」
この娘は本当に何をやっているんだろう。
「うち的には、もう後はどうでも良いんだよねっ。チナツ達の寝取られ計画もチハルに阻止されちゃったし、降って湧いたオルフェ公爵領の奪取の機会も兄様に要らないって言われちゃったし」
……ちょっと何も言えなかった。
チアキの視点はちょっとぶっ飛び過ぎである。
もう少し一般人と同じ視点で物事を考えて欲しい。
「うちとしてはもう飽きて来たから、早くチナツには満足して貰って村に帰りたいんだよっ」
「……はぁ、つまり今後は不審な事はせずに協力してくれるって事?」
チアキには色々と言いたい事があるが、取り敢えずそれだけは確認したい。
「兄様がチナツに協力する気みたいだからねっ。兄様の意向が変わらない限りはそのつもりだよっ」
何時も通り、チアキにあまり信用の出来ない薄笑いを浮かべられた。
でもチアキが乗り気であれば頼りになるのは事実なのだ。
それこそを朗報として受け取っておこう。
私はその時そう思ったのだ。




