チフユママ
「と言うか、あんたこそ大丈夫だった訳?」
あたしは時間もないのでチアキとの口喧嘩を一旦中断し、チフユこそ怪我はないのか尋ねた。
チフユは衛兵に捕まる前に魔術師風の男と女騎士と一戦を交えている。
チハル達の喧嘩とは違う本当の実戦だ。
むしろチフユの方が危険だったとも言える。
「確かに二人は強かった。その連携力、実力、冒険者としての実力で見ればAランク相当になると思う」
「そんなに強かったの?」
「ええ。守りに徹して戦っていたからどうにかなったけど、普通に戦っていたら多分勝てない」
チフユが言うには、野次馬か女騎士を必ず魔術師との射線上に置いて、魔術師に魔法を打たせない様に注意しながら戦っていたらしい。
本当にチフユはこういう小細工は巧い。
あまり褒められた戦い方ではないが、チフユは普通に戦って勝てない相手には結構汚い手段を使うのだ。
「正直な話、あの状況下じゃなかったら、カップラーメンが出来る前にやられていた……」
「あんた、その例示はどうなの……?」
あいつと一緒にいて即席麺に脳が侵されてしまったのではないだろうか。
「でも、いくらチフユさんに有利な状況とは言えども、正直チフユさんレベルで互角って何かおかしい気がするんだよっ」
チアキのいう事にも一理ある。
チフユがいくら魔王の転生体と言えども、普通に戦えば所詮は一介の冒険者と同レベルだ。
「……あんた、例の力使った訳じゃないわよね?」
「そんなのは当たり前。単純に向こうが私を嬲りたかったから、手加減していただけだと思う」
衛兵の前で魔王云々は言えないのでぼやかして聞いてみたんだけど、チフユは即座に否定した。
「嬲りたかったって……、そいつら悪趣味ね」
「それだけチハル達に恐怖していたんじゃないかと思う。それに野次馬の中に私達のファンがいてくれたおかげで、色々と援護してくれたから……」
「は?」
「日頃の草の根活動が役に立った」
「いや、どういう事よ?」
「『チフユママの為なら、自分の命は惜しくない。自由に使ってくれ』って、自己主張するファンが多数いてくれた」
いや、チフユママってどうなの……?
ていうか何嬉しそうにしてんのよ。
「あのアイドル活動にはそんな副産物もあったんだねっ」
チアキはチアキでチフユの話を聞いて謎な納得をしていた。
「そのファン達は時には魔術師の射線に自ら入り込み、時には女騎士にいい感じのちょっかいをかけて気を逸らさせていた。あの一糸乱れぬ見事な集団行動はプロの動き」
「その動きはちょっと見てみたかったな。うちの好奇心がそそられるよっ」
いや、なんか逆に気持ち悪いだけじゃないかと思う。
少なくとも、あたしは見たくない。
「でも取り敢えずチフユの事を助けてくれたんなら、後でお礼に行かないといけないわね」
「彼等なら多分隣の部屋にいるはず」
「いや……、なんかそれは余計に申し訳ないわ」
まぁ指名手配犯であるチフユを助けたのなら、捕まるのも当然かもしれない。
しかし、こっちの都合でそんな関係のない人たちに迷惑を掛けるのは如何なものなのだろうか。
「チナツ、大丈夫だよっ」
「何でよ?」
「多分、その人達はチフユさんを助けた事を栄誉に思ってるだろうからねっ」
「何でチフユを助けたことが栄誉になるのかが聞きたいんだけど?」
「チナツだって兄様を助けられたら誇りに思うでしょ? それと同じだよっ」
確かにそれは誇りに思うと思うけど、あんまり同一視して欲しくない気もする……。
「まぁそんなチナツの感想なんてどうでも良いんだよっ。チフユさんを襲った人達って、どんな人だったのかなっ?」
言われてみれば、確かに気になる。
ただでさえ面倒な状態なのに、新しい敵が現れた可能性だってあるのだ。
「男はドワイトと呼ばれていた」
「ドワイト?」
ドワイトで魔術師ってまさか……。
「女騎士は名乗ってなかったの?」
「そっちは名前で呼ばれてなかったから分からない。でも、私よりも年上で結構キリっとした感じの人だった」
「チアキ、まさかドワイトって?」
「多分チナツが想像している通りの人だと思うよっ」
チフユの説明を聞いて、思わずチアキに確認してしまった。
「はぁ、本当に面倒臭い事になったわね」
「でも逆に考えると新しい登場人物が出て来た訳ではないから、その点においては楽なんじゃないかなっ」
「偶にあんたのその楽観的な考えが羨ましくなってくるわ」
「チナツもうちを見習った方が良いって事だねっ」
チアキのそんな姿勢を見て思わず溜息が出てしまう。
しかし、本当にどうしよう?
ドワイト達と敵対するのはやぶさかではないけど、話して終わりになるのであればそれに越したことはない。
「そろそろ面会終了時間だ」
そこで衛兵からチフユとの面会終了が告げられた。
「仕方ないか。チフユ、また来るから」
「分かった。兄さんに心配しないよう伝えておいて」
チフユはそう言いながら、寂し気に笑った。
「心配かけたくないなら、早めに出てきなさい」
あたしは、そんなチフユを見てそれしか言えなかった。
「それじゃあチナツ。うちもここに残るから」
「はぁ? あんた何言ってるの?」
「チナツには言ってなかったけど、うちは今公爵家についているんだよっ」
「いや、本当に何言ってるの?」
「……このままだとチフユさんは処刑されるよっ」
チアキはあたしの耳元でそう囁いた。
そうだ、チフユは今ここの公爵家に逆らったという事で指名手配されているのだ。
顔に泥を塗りまくっている現状、処刑されてもおかしくはない。
「はぁ、わかったわよ。チフユの事よろしく頼んだわよ」
つまりチアキはここでチフユのフォローをするという事だろう。
こういう潜入作戦はチアキの方が得意だ。
「兄様が悲しむ様な展開にだけはしないから安心して欲しいなっ」
チアキはあたしにそう胡散臭い笑みを浮かべていた。
本当に大丈夫なんだろうか……。
「チナツ、大丈夫だから。チアキは兄さんを裏切らない。なら、私も無事」
チフユはあたしとは違って、チアキを信用するらしい。
「まぁ良いわ。それじゃああいつ達には適当に伝えておくから」
まぁ現状はどうにも出来ないのだ。
チアキが動くというなら、信用できないけどチアキに任せよう。
あたしはそう思い、拘置所を後にした。
チアキに対するチフユの信頼度はそこそこに高いです。
特に兄様関連のことであれば、絶対的な信頼をしています。
なので『自分が処刑される』=『兄様が悲しむ』になるので、チアキが自分を裏切ることはないと信じているのです。
ただ、何処かで自分を陥れる為の罠がある可能性については危惧しています。




