闇よりも魔族よりもドス黒い聖剣
兄さんが今日の製麺をしている間、邪魔にならないように真冬を連れて公園に来ていたら、物凄い閃光と爆発音がしてきた。
「今の爆発は……、チハル?」
あの全てを飲み込む闇よりもドス黒い閃光とこの距離まで感じられる爆風は、チハルの聖剣投擲だ。
何でこのタイミングで聖剣を?
チハルは確かに血生臭くバイオレンスで常識に欠けているが、兄さんの事と自分の事以外で誰かを傷付けるような事はしない。
つまりチハルが聖剣を投げたと言うことは、兄さんかチハルのどちらか若しくは両方に危機が迫っていると言うことでもある。
「ふわー。すごいばくはつだったね」
真冬が今の爆発に興奮したのか、砂場で作っていたお城作りを中断して、私の方に寄って来た。
チハルが聖剣を投擲するという事がどういう事か、真冬には分かっていないのか暢気なものである。
「真冬、直ぐに兄さんの所に戻るから準備して」
「にいさんのところにかえっていいの?」
多少無理矢理真冬を連れ出したこともあり、真冬は目をキラキラさせながら嬉しそうにしていた。
「今の爆発は多分チハルがやったと思う。チハルがいるから無事だと思うけど、兄さんの無事を確認したい」
「あれ、ちはるおねーちゃんがやったの!? ちはるおねーちゃん、すごい!!」
「ちなみにあれ位なら私でも出来る」
「それなら、あんまりすごくないってことだね……」
真冬がチハルの事を手放しで褒めていたので、対抗してみた結果がこれである。
……納得がいかない。
しかし、今はそれを気にしている場合ではない。
「……取り敢えず、兄さん達の所に戻るから」
「うん、わかった」
そう、今は兄さんとチハルの安否の方が大事なのだ。
私の今の悲しみよりもそっちを優先すべきなのだ。
他の家族連れも公園から流れる様に出ていたので、その流れに乗じて真冬をおんぶして公園を出る。
誰もいなくなった公園には、真冬作の外堀から天守閣まで完璧に作られた平城が物悲し気に佇んでいた。
「……これは酷い」
そうして到着した隠れ家はボロボロになっていて、そのすぐ傍にも物凄いクレーターが出来ていた。
付近にいる衛兵達が近づくと危険なのもある為か、野次馬が近づかない様に注意している。
「……オリジナル、にいさんだいじょうぶかな? けがしてないかな?」
そのあまりの惨状に真冬も不安になってしまった様だ。
まさにそこは戦場後の有様だった。
周りの野次馬からも、この状況のあまりの酷さに不安がっている声が多く出ている。
「兄さんは大丈夫。全く問題ない」
しかし、私はこの惨状に慣れていた。
これはチハルと多分チアキだと思うが、二人の喧嘩の跡である。
大体、チハル達が実力行使に出るとこれ位のクレーターは簡単に出来るのだ。
クレーターの出来る主な要因は、チハルの聖剣投擲、チアキの無差別魔法と変な開発物である。
あのクレーターの直径から察するに、二人に怪我はない筈だ。
そして、あの二人が不用意な事で兄さんを傷付けるとは思えない。
「ほんと?」
それでも真冬は不安だったのだろう。
私の服の裾を握りしめてくる。
「だって、これはチハル達の仕業だから」
「ちはるおねーちゃんの?」
「そう、チハルと多分チアキの仕業。真冬はあの二人が兄さんを傷付けると思う?」
「……しないとおもう」
真冬はちょっと考えてから、私の質問にそう答えた。
「あの二人にとって兄さんは神様以上に大切な存在だからね」
私達4人の中でもあの二人は特に兄さんに対して狂信的である。
兄さんに死ねと言われれば喜んで死ぬのがチアキで、兄さんを殺して自分も死ぬのがチハルだ。
兄さんは絶対にそんな事は言わないけど。
「でも、ちはるおねーちゃんとチアキおねえちゃんのちからだと、にいさんあぶないよ?」
「大丈夫。あの二人だったら、どんな事があっても兄さんだけは無事だから」
チハルとチアキの無事は保障できないけど。
「オリジナルがそこまでいうならしんじる!!」
真冬はまだ不安そうではあったが、私の説明に納得してくれた様だ。
しかし、私には他にも不安があった。
あの二人が兄さんの前で実力行使に出る程の喧嘩をしたのだ。
兄さんがいれば普通はそこまでやらない筈である。
つまり兄さんがいるにも関わらず、実力行使に出ざるを得ない何かが二人の間にあったという事になる。
チハル、チアキ、貴女達は本当に大丈夫なの?
真冬を不安にさせる訳にはいかないので表情には出さない様に注意してはいるが、彼女達の安否は心配だ。
「いや~、これは酷いな!!」
そんな中、野次馬からそんな大きな声が聞こえて来た。
「ドワイト、周りに被害者がいるかもしれないんだから……」
「悪い、悪い」
そこには魔法使い然とした格好をした男と女騎士がいた。
あの空気は冒険者だ。
「しかしこの闇の魔力は凄いな。これが魔族の力って奴か」
「確かにドワイトの闇魔法よりも上の力を感じるわね……」
二人はチハルが作ったであろうクレーターを見て、そんな評価をする。
しかし、魔族扱いされる勇者とは一体……。
チハルも勇者らしく光属性の攻撃技を覚えればいいのに、闇の方が使いやすいとか変な事言ってるから……。
「真冬、取り敢えずチハル達を探しにいこう」
どちらにしても、あの二人は結構ハイレベルな冒険者の様だ。
ああいうのに目を付けられると色々と面倒だ。
「うん、わかった」
真冬の返事を聞き、隠れ家址を離れようとした所で
「おい、そこの銀髪ちょっと待てよ!!」
その冒険者に声を掛けられた。
周りに銀髪は私しかいない。
真冬を後ろに隠しながら、その男に相対する。
「私ですか?」
「ああ、お前今チハルとか言ってたよな?」
「それがどうかしたんです?」
「丁度良いや。お前を餌にしてあいつらを釣り出してやるよ」
話の感じからするとこの二人はチハルの知り合いの様だ。
多分、チハルに酷い目に遭わされた人達だろう。
そして仕返しの為に私を餌にすると言った所だろうか。
まさか本当に面倒臭いイベントに巻き込まれるとは……。
「真冬、一人でチハル達探せる?」
しかし、この二人は普通に戦えば私よりも格上である。
二人の風格からそれが感じ取れた。
このままだと真冬も危ない。
「オリジナルはどうするの?」
「私はここで二人を足止めする。真冬はチハル達を探して今の状況を説明してあげて」
「むぅ、わかった」
不満そうではあるが、真冬はそう言って人混みの中を小さい体を利用して駆けて行った。
あれなら、そう簡単に追いつけないだろう。
「チハルに用があるなら、チハルに言って。私は関係ない」
人混みの中であまり戦いたくはないが仕方がない。
「アンジェラ、あのチビは任せた」
「ええ、ドワイトも気を付けて」
二人組の冒険者も戦闘態勢に入る。
無事に帰れたら、チハルに何かして貰わないと割に合わない。
そう思いながら私は先手を打つために攻撃を仕掛けた。
真冬作の砂の城は大阪城をモチーフに城下町を再現しております。




