磔刑
「結論だけ言うとチアキはロクサス公爵に【洗脳】なんてされてないわ」
チハルと共にチアキを磔刑に処し、満足したチナツは俺のここ最近の中での最大の疑問に答えてくれた。
流石は俺の都合の良い女を自称しているだけはある。
必要な時に現れ、必要な疑問を解決する様は正に都合の良い女と言えるだろう。
個人的にはそんなものを自称せずにもっと違う所に力を使って欲しいが、そんな事を今更言っても仕方がないだろう。
「まぁ、兄様に信じて貰えてなりよりなんだよっ……」
十字架に磔にされたチアキは何とも言えない表情をしていた。
「それにしても、チアキは何で磔刑に処されたんだ? チナツに黙って街に入り込んだくらいじゃ、そこまでする必要はないと思うんだが」
「……それは、色々とあるのよ」
チナツが俺の疑問に視線をそらしながら答える。
そんなに、言いたくない事なのか?
「昨日チナツが真冬と一緒に歌って踊っていたのを、ファンと一緒に扇動したのがチナツの癪に障ったみたいなんだっ。だから、チナツとは会いたくなかったんだよ」
「ちょ、チアキ!!」
チナツは答えたくなくても、チアキが普通に答えてくれた。
それにしても何やってんだよ、お前ら……。
「ちゃんとその時の様子はムービーで保存してあるから、後で兄様にも見せてあげるよっ」
「チアキ!! にぃににあんまり変な事言わないで!!」
「うちをその程度の事で磔刑に処したんだから、それ位やり返させてもらうんだよっ」
「その程度の事じゃないんだから!! あたしにとっては一大事よ!!」
「結構観客も盛り上がって、いいステージだったと思うんだよっ。それなのに、うちをこうやって縛り上げるなんてチナツは鬼畜だよ」
「あんたは単純にあたしをからかって面白がってただけでしょ!!」
「……それは否定できないねっ」
「だったら、こうして磔刑に処せられるのも仕方がないと思うんだけど」
いや、それにしても磔刑はやり過ぎだと思うぞ。
こんな大通りで磔刑なんてするからめっちゃ目立ってるし、通行の邪魔にもなっている。
二人とももう少し周りの目線を考えてくれよ。
「それじゃあお兄ちゃん。チアキが【洗脳】されてるかどうか分かったことだし、わたし達も愛の巣に帰ろうよ」
チハルもこの状況を気にしなさ過ぎである。
というか、愛の巣って何だよ?
あそこ普通にチフユ達もいるんだけど。
「チハル、まぁ落ち着け。チアキに会えたのはある意味で丁度良かったんだ」
「何で? わたしがいれば、チアキなんて必要ないよね」
そうして、キャストオフされるハイライトさん。
チハルの目のハイライトさんはもっと頑張って欲しい。
直ぐにいなくなり過ぎである。
「そうは言うが、お前もチアキも得意分野が違うだろ。今はチアキの力も必要なんだ」
「ふーん。そういう事なら仕方がないかもしれないね。でもお兄ちゃんにとっての一番は、わたしだからね」
その意見は賛同も否定もせずに取り敢えず流す。
ここはスルーするのが正解なのだ。
下手に絡みに行くとハイライトさんは一生帰ってこなくなる。
そんな訳で未だに口喧嘩を続けているチナツとチアキの方を見た。
やはり、チアキの十字架は目立つのだろう。
その多彩な舌戦を、迷惑そうな視線と楽しそうな視線が半々くらいで通行人が眺めていた。
「大体チナツは気に入らないことがあると、すぐに磔刑に処そうとする癖は直した方が良いと思うんだよっ」
「そもそも、あんた達があたしを怒らせるようなことをしなければ、磔刑なんてしないわよ」
「普通は怒っても磔刑なんて選択肢を出さないと思うんだよっ。それだけチナツの頭が毒されてるって事じゃないかな」
「あんた達が口で言っても、その行動を治そうとしないからじゃない。口で言って変わらなければ、誰だって実力行使に出るわ」
「チナツはちょっと頭が硬すぎるねっ」
本当にこいつら、何時まで口喧嘩続けるんだ?
「チナツ、チアキ、いい加減にして。ここで口喧嘩を続けて、お兄ちゃんにどれ程の迷惑が掛かると思ってるの?」
そこにチハルが勇猛果敢に飛び込んだ。
その口調と表情は勇ましいものがあったが、足は震えていた。
チナツに挑むのが内心では怖いのだろう。
どんだけだよ……。
しかし、そのチハルの言葉で周囲の状況に気付いたチナツは顔を真っ赤にして周りに謝り始めた。
通行の迷惑になったことに対して直ぐに謝罪できる姿勢はチナツの利点だとは思うが、こうなること位最初から想像して欲しい。
チアキはチアキで周りの目を気にせずに、チナツのそんな動きをニマニマと見つめていたが……。
お前はもう少し反省の姿勢を見せてくれ。
そしてチハルは自分に被害が出なかったことに安堵した表情をする。
いや、良いから取り敢えずチアキを十字架から解放しようぜ。




