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洗脳された賢者様


 チナツと合流した翌日の事である。

 俺達の隠れ家が衛兵に囲まれていた。

 ぶっちゃけ隠れ家と言ってもそこまで隠れた様な位置にある訳でもないし、今までこうならなかったのが不思議な位である。

 建物の中には俺とチハルしかおらず、他の面子は諜報活動に行ったり、散策に行ったり、公園へ遊びに行ったり、チアキを磔刑に処すための縄を探しに行ったりしていた。

 本当に自由な奴等である。


「しかし、これはマズいな……」


 衛兵達は殺気立っている訳でもなし、感情の籠っていない瞳でじっとこちらの建物を見つめていた。

 ある意味で凄い不気味だ。


「チハル、裏はどうだ?」

「裏も駄目だね。出入口は全部抑えられているみたいだよ」


 チハルに逃げ道を探して貰ってみたものの、完全に囲まれている様である。


「なんか良い案あるか?」


 俺なんかよりも余程荒事に慣れていると思い、チハルに意見を求めてみる。


「そんなの簡単だよ。ここから聖剣を投擲すれば、あの囲いに穴が出来るから余裕で逃げられるんじゃないかな」

「ちなみにその作戦で衛兵側に死者が出る可能性は?」

「ほぼ100パーセントだね」


 満面の笑みでそういうバイオレンスな事は言わないで欲しい。


「その作戦は最悪のパターンだな……」


 本当にヤバい状況であれば相手の命なんて拘ってはいられない。

 でも、現状はそこまでヤバくないと思うのでチハルの案は却下だ。


「他には?」

「……うーん。他の案だと、昨日聖水塗れになったナタリアの下着を対価に交渉するとか?」


 その案は余程の変態でないと受け入れてくれないと思う。

 いや、男だったら誰でも喜ぶか?

 俺だったらどうだ?

 確かにナタリアはかなりの美人だ。

 14歳と少し年齢が幼い所もあるが、逆にティーンエイジャーに入ったばかりの女の子の聖水塗れの下着というのは非常に高価な貴重なものではないだろうか……。

 むしろ、俺が欲しい位では――


「お兄ちゃん、変な事考えてるでしょ?」


 何時の間にか、チハルの剣が俺の喉元に突き出されていた。


「そんな事はないぞ」

「なら良いけど……」


 一応口先だけでは否定をしておく。

 チハルは納得した様な台詞を言っているが、目のハイライトさんは戻って来ていないので、俺の発言を信じてはいないだろう。

 しかし、チハルのツッコミ云々は置いておいたとしても、こういう考えは良くない。

 ここでナタリアの下着を男所帯の衛兵に渡してみればどうなるかなんて一目瞭然である。

 それはナタリアの名誉を著しく陥れる行為だろう。


「ナタリアの下着案も色々と懸念材料が多すぎて駄目だな」


 俺はチハルの第二案をそう結論付けた。


「はぁ、お兄ちゃんも我儘だね。仕方がないから、第三案を出してあげるよ」

「第三案と言うのは?」


 チハルの奴も良くここまでポンポンと意見を出せるものだ。

 真面な意見は少ない気がするけど。


「ここに取り出したるは、パンジャンドラム」


 そう言ってチハルは何処からか直径3メートルほどの2つの車輪で構成された謎な品を取り出してきた。


「これは一体?」

「これはパンジャンドラムと言って、紅茶を飲むことによって開発された究極の兵器なんだよ。この真ん中の部分には爆薬が詰まっていて、本体ごと相手にぶつける事で相手に強力なダメージを与える事が出来るんだ」

「なんか、あまり良い未来が見えないんだが……」

「一応チアキに珍兵器を作って貰った時の残りだから、それなりに優秀な筈だよ」


 チアキも何作ってるんだ?


「チアキ曰く、紅茶だけを1ヶ月に渡って飲み続けることで英国面に堕ちられるんだって。そうすると、どんどんと新しい発想が思い付くらしいよ」

「それ駄目な方向性の発想だろ……」

「まぁ、何はともあれ、レッツゴー!!」


 チハルはその言葉と共にパンジャンドラムの炉に火をくべる。


 ドーーーーーーーーーーン!!!!


 パンジャンドラムが爆発した……。


「おい……」


 その爆風と凶器と化した破片から、チハルが咄嗟の判断で守ってくれたので俺はそこまで怪我はないが、隠れ家の方はボロボロである。

 衛兵達もこの衝撃には驚きを隠せなかった様で、顔は無表情ながらも体はビビっていた。


「これはチアキがわたしを陥れようとしたんだよ……。転がすためのエンジンに火をつけようとしただけで爆発するなんて誰も思わないんだよ……」


 それに関しては否定しない。

 俺もあの程度の行動で爆発するとは思ってもみなかった。


「というか、お前無事なのか?」

「まぁ一応はね……。勇者たるものバリア位は簡単に張れるものなんだよ」


 そういうチハルはかすり傷はついていたものの、そこまでの大怪我はしていなさそうだった。

 しかし、バリアって凄いんだな……。


「ちょっと、チハル!! うちの輝かしい登場シーンをそういうギャグで流そうとしないで欲しいんだよっ」


 そんな中で、衛兵の後ろから感じていた気配が声を掛けて来た。


「死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 そして、チハルはその声に向かって間髪入れず聖剣を投げる。

 ちょっとこの娘、行動が早すぎない?

 もう少し声を掛けて来たのが誰なのか、そういう間を大切にしようよ!!


「当たらなければ、どうという事はないんだよっ!」


 チハルのそんな行動を察していたのか、声の主はチハルの投擲コースから颯爽と逃れた。

 流石長年の付き合いなだけある。

 聖剣は無事、誰にも当たらず地面に着弾した。

 地面にはクレーターが出来上がっていたが、怪我人がいなかったので良しとしよう。


「やっぱり、チアキか……」


 そうそこにいたのは、王国一のヤベェ奴として有名なチアキである。

 彼女は衛兵達の親玉面をして、俺達に対峙した。


「それでチアキ、どういう事かな? わたし達を裏切った挙句、こんな欠陥兵器を押し付けてこの隠れ家をボロボロにした罪。どうやって償うつもり?」


 チハルは投げた聖剣を手元に戻し、二投目を投げようとするモーションを取りつつ、チアキに問いかける。

 チアキが変な発言をしたら、即二投目を投げるつもりだろう。

 流石、血を見るのを恐れない妹である。

 そして多分また外すのだ。

 量産されるクレーター。

 ここに一つ新しい公共事業が立ち上がる事になるだろう。


「この隠れ家をボロボロにした云々は、うちの性ではないと思うんだけど?」

「取り敢えず、考えるのが面倒臭くなったら全部チアキが悪い事になっているんだよ」

「それって、うちどうしようもなくない?」

「それだけの事をチアキは何時もしているんだよ」

「それを言うなら、チハルだって色々と仕出かしてるんだよっ」


 そうして始まる何時もの口喧嘩である。


「二人とも落ち着け。それでチアキ、これはどういう事だ?」


 取り敢えず話が進まないので口喧嘩を止め、チアキの意図を確かめる。


「簡単に言うと、今のうちは【洗脳】を掛けられた状態なんだよっ」


 そんな大変な事をニコニコと背中にラフレシアを掲げた様に笑いながらそう言うのであった。


 胡散臭い事を言うのが上手い奴である。

 本当に洗脳されている人間はそんな事言えないと思うんだが……。


ちなみにお兄ちゃんのパーティで【洗脳】されたかどうかを見分けることが出来るのは、チナツとチアキと変態くらいで他の面子は見分けることが出来ません。

ただ、あまりにも何時もと違う行動を取っていれば違和感を感じるので気付くことが出来ます。

【洗脳】の解除はお兄ちゃんと真冬とナタリア以外の全員が行うことが出来ます。

チハルとチフユは魔力で無理矢理解除する感じですが……。

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