一色に染めて・・・
獣人達と共に部屋を去っていったシン。何か上手くやる為の策でもあるのか、颯爽とダラーヒムの証言を確認しに向かう獣人達に同行することに名乗り出た。
ボスであるアズールの決定に不服そうな態度を示すガレウスもまた、そんな部屋を後にする者達に続き、残されたミア達の前から姿を消そうとしていた。
その去り際、ガレウスは見張り役の獣人に何か命令しているようだった。その指示を受け、特別何かをする訳でもなかったが、事前に聞いていたケツァルの息のかかった獣人達が、ガレウス派の獣人達と入れ替わり始めたのだ。
何やら交代の際に揉めているようだったが、その時聞こえてきた会話の中に“留守を任されたのはガレウスだ“という言葉が、強くミア達の頭に残っていた。
見張りの全員が交代した訳ではないようだが、誰がケツァルの仲間で誰がガレウスの仲間なのか、全てを把握し切ることは人質のミア達に出来なかった。
「なっなぁ・・・。何か話と違くない?」
「あぁ・・・。でも獣人族の区別なんてつかないぞ・・・」
小声で想定されていた事態に変化があった事を確認するツクヨとミア。ただ今の状態では無闇に怪しまれるような行動は取れないと、ケツァルに言われた通り彼の根回しを信じ、シンの帰りを待つしかない。
それにケツァルの話では、ガレウス派の獣人達は彼の人間に対する恨みや憎しみに共感しているとのこと。恐らく人質であるミア達への態度の違いで、その獣人がどちら側の者なのか判別することができるに違いない。
一通り獣人達の配置が変わると、緊迫していた空気に覆われていた部屋に落ち着きが戻る。
しかし、その落ち着きというのも、仲間内で互いの動きを探り合っているからに他ならない。
そこへ、アズール達の出発を見送ったガレウスという巨体の獣人が戻ってきたようで、部屋の窓からその姿が確認された。
「戻ってきた・・・」
「確か、ケツァルとかいう人の話では、人間に対してかなり横暴な事をするって言ってたよね?マズくない?」
「あぁ・・・最悪、アタシらで何とかするしかないぞ」
何をしでかすか分からない彼の出現に、一気に緊張感が高まる。するとガレウスは早速、ボスのいない場で実質の最高権力を最大限に振るい、何人かの見張りを部屋から外すよう指示していた。
突如予定にない勝手な振る舞いをする彼の指示に、反抗するように食い下がる何人かの獣人達だったが、最終的には争いにまで発展する事なく、去り際にミア達に申し訳なさそうな目線を送りながら、その場を後にしていく。
代わりに配属されて来たのは、恐らくガレウス派の獣人と思われる者達。自分の息のかかった仲間達に部屋を掌握させると、本人はどかしたケツァル派の獣人達を部屋から遠ざける為、ミア達からは見えないところへ移動していく。
瞬く間にガレウス派の獣人達で包囲されてしまったミア達。そして、部屋の中に配置された数名の獣人達が頃合いを図り、ミア達に接近する。
妙な動きをする見張り役に、ミアとツクヨはツバキとアカリを庇うように彼らの前に出る。
「おいおい、まさか女子供に手をあげる訳じゃねぇよなぁ?」
「何故わざわざ、見張りの人員を変えたんだい?」
あえて自分達にヘイトを向けるように喋るミアとツクヨ。敵意を向けて眼前に立ちはだかる人間に、獣人達は顔を見合わせ不思議そうな表情を浮かべる。
「はぁ?何を言っている。お前達を別の場所へ移す。ここより“安全“な場所へな」
「“安全“・・・?」
ミア達は彼らの言っている意味が、この時まだ理解することが出来なかった。ガレウス派の者達の口から、人間に対して言われるはずのない言葉を言われ、動揺していたのもあるのかもしれない。




