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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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獣人族の参謀役

 少しずつではあるが、シン達に心を許し始めてくれたのかと思ったところで、これがボスや周りの過激派な獣人達の耳に入るのを恐れたのか、部屋の外を見張っていた者が扉を少し開け、何かの合図を送る。


 すると、それを受け取った獣人達が一斉に自分の持ち場へと戻って行ってしまった。


 「すまない、話はここまでだ。くれぐれも・・・」


 「分かってる。話さないよ・・・」


 シンの言葉を聞いて小さく頷いた獣人もまた、彼らの元を離れ自分の任務に就き始めた。


 それから更に夜も深まり、別の獣人達が交代にやってくる。だが、依然として外の様子がどうなっているのか、交渉に行ったダラーヒムがどうなったのかは、彼らの耳に入ることはなかった。


 そのままシン達は、腕を拘束された状態で硬い木材の床で眠りにつく。こんな状況であるとはいえ、夜の森は街での就寝とは異なり静かなものだった。


 風に揺らめく木々の音や虫の声、それに野生動物のものと思われる鳴き声が心地よく響いてくる。


 美味い物を食べさせてもらったおかげか、ツバキやアカリはすっかり眠りに落ちていた。


 馬車でのダラーヒムとの会話が気になって眠れなかったシンは、照明の数が減らされた薄暗さの中でその時のことを思い出していた。


 何者かによる薬物投与されたモンスター。それらが知恵のようなものを習得していたこと。


 現実世界で見てきた、ユーザーを食らったモンスターと重なるように思えて仕方がない。


 フィアーズにとって異世界であるシン達の世界。そこで行われていた生物実験と元の世界へと戻る研究。もしそれが、WoFの世界でも行われているのだとしたら。


 シン達はこれまで、こちらの世界でありえない行動に出る人物や、そのレベル帯では不相応な能力を与えられた者達を何人も見てきた。それでも、シン達がその異様なクエストやイベントをこなした後は、何事もなかったかのように同じようなクエストが再開されていたり、多少ストーリーが変わろうと軌道修正するかのように、徐々に日常が戻っていくという様子が見受けられる。


 勿論、彼らがそれを直に確かめた訳ではないが、解決された異変はその傷跡を徐々に癒していく。まるで傷ついた人の身体のように・・・。


 シン達のように、WoFのユーザー達がこの姿に覚醒していくように、もしもこちらの世界の住人が自分の存在を知り、目覚め始めているのだとしたら。彼らもフィアーズのように研究や実験を重ね、異世界というものに興味を持ち始めるのだろうか。


 そうやって自分達が今まで暮らしてきた現実が、別世界の何者かに侵食されていくのが、シンは少し怖かった。


 あれやこれやと考えている内に、いつの間にか瞼は閉じ、外では日の光が入り始める夜明けを迎えようとしていた。


 硬い床で寝ていたせいか、拘束された変な体勢で寝ていたツクヨとミアが順々に目を覚ましていく。重たい瞼をこじ開け、部屋の様子を伺う。


 すると、彼らが熟睡しているのを確認してのことか、前日まで何人もいた見張りが、今日は随分と少ない人数に変更されているようだった。


 「ん・・・」


 「あぁ、ミアも起きたのかい?おはよう」


 「んか・・・見張りの数が少ないな・・・」


 「朝食でも取りに行ってるんじゃないかい?まぁそれか、私達があまりに模範囚だったからか、人数を減らしたとか」


 「・・・誰が囚人だ。逃げる度胸もねぇってんで、甘く見られてるんじゃないだろうなぁ?」


 だが、数が減ったのならそれはそれで彼らにとっては好都合。圧迫感も和らぎ、気持ちも僅かながらに落ち着いてきたように思える。


 そこへ、何か情報を掴んだのか異変を察したのか、ずりずりと床を這いながらミアの方へ近づいていき、小声で彼女も意見を求める。


 「ミア、部屋の外見てごらん。なんか様子が変だよ」


 「・・・?」


 部屋に幾つか設けられた窓の外へ視線を送ってみると、数名の獣人達が何やらヒソヒソと話しているようだった。声が僅かに聞こえてくるが、この距離では何を話しているのか分からない。


 「ちょっと・・・行ってくる」


 「おっおい!・・・大丈夫かよ・・・アイツ・・・」


 どこで身につけた技術なのか、ゴロゴロと器用に床の上を転がっていったツクヨは、話をしている獣人達のいる窓の方へと向かい、ピタリと壁のところで止まる。


 そして壁伝いに器用に身体を起こすと、丁度外からは見えないように壁に耳を当て、部屋の外で話す獣人達の会話に聞き耳を立てる。


 「昨日この部屋に捕らえた人間達がいただろ?その中の一人がボスと謁見したらしいぜぇ?」


 「聞いたよ。何でも森の怪異のことで、何か情報を持ってるって言ったらしいじゃねぇか」


 「そんなの、苦し紛れの言い訳だろう?何でボスがそんな言葉に耳を貸したんだ?」


 「また“ケツァル“の入れ知恵らしい。俺達だけじゃ限界があるからってよ」


 「それで人間の力を借りろってか。それで何度か逃げられてるだろ?俺ぁアイツは胡散臭いと思ってたよ・・・」


 またしても聞こえてきた“ケツァル“という名の獣人。どうやら彼は、獣人族が抱える問題の解決には、自分達獣人の力だけではどうにもならないと、人間の協力者を作ろうと彼らのボスに進言しているようだった。

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