二つの世界から
平原の奥に見える地平線の先が、微かに明るさを帯び始める。整備された道へと出てきたミア達は、ツバキの案内の元にオルレラから最も近いという町“ホルタート“へ向かう。
次第に人も見かけるようになり、町が近づいて来たことを予感させる。人々の流れに身を任せるように、彼らもまた道を進んで行くと、オルレラとよく似た造築の建物が見え始めた。
「あった!あそこか」
「近いって言っても・・・それなりに距離はあったね」
「これでも近い方さ。そもそも、徒歩で移動しようってのが間違ってるんだ・・・」
憎まれ口を叩きながらも気丈に振る舞うツバキだが、その様子は明らかにこれまでより悪化している。だが、目的地が視認できた事が、彼らの足取りを軽くし気持ちを奮い立たせていた。
ツバキの容態を心配しつつも、彼らはホルタートの町へと入る。時刻は夜明け前といったところだろう。こんな時間で宿屋がやっているかどうか怪しかったが、町に到着したツクヨはすぐに行き交う人々に話しかけ、この時間でもやっている宿屋があるか聞いて回った。
ツクヨが情報を手に入れてくるまでの間、ミアとツバキは町のベンチに腰掛けて待つことにした。
「どうだ?身体の様子は」
「・・・大丈夫、疲れちゃいるがそれ程でもねぇよ・・・」
歩いていた時に比べ、少しは落ち着いてきたようだが、それでも辛そうであることに変わりはない。
間も無くしてツクヨが二人の元へ戻ると、時間帯に関係なく営業している宿屋があるという情報を手に入れたようだった。なんでも、オルレラと同様に人の往来が多いというこの町は、それこそミア達のような旅の者や冒険者、商人などが休息の為に訪れる事も少なくないのだとか。
これは好都合と、三人はその宿屋へと足を運ぶ。利用する客が多いからか、やや値段は張ったが今はそんなことを気にしている場合ではない。料金を支払い、三人はエディ邸の部屋程ではないが、しっかりとした作りと綺麗に清掃された部屋へとやってくる。
ツバキは何をするでもなく真っ先に寝室へと向かい、ベッドの上に倒れ込むとそのまま死んだように眠りについた。
「流石にまた目を覚さないってことは・・・ないよね?」
「そんな何度も頭の中を弄られてたまるかよ。馬鹿言ってないで、アタシらも休憩しようぜ」
「ツバキの言ってた木材で有名な街の情報は?それにグリム・クランプについて知ってる人がいるかもよ?」
「焦る旅じゃないんだ。そんなに急がなくても、いずれ辿り着けるさ。まぁ・・・まだ聞いて回る元気があるっていうなら、止めはしないがな」
「そうだなぁ〜・・・。私はもう少しだけ町を見て回ってくるよ」
あれだけ歩いてまだ余力を残しているツクヨに呆れ、ミアも大きなソファーの上に倒れ込む。
丁度そこへ、彼らの暮らす現実世界から、ひと段落ついたシンによるメッセージが届いた。
フォリーキャナルレースの後に辿り着いた、ホープ・コースト以来となるシンとのやり取り。レース終了後、現実世界の方でお世話になっていたアサシンギルドへ、挨拶がてら経過報告へ向かったシンだったが、結局連絡も寄越さぬまま用事が長引き、今になって届いたメッセージ。
思わぬところで大変な思いをしたミア達の気も知らず、何を呑気にと少しご立腹の様子で返事を返すミア。
どうやら彼も彼の方で、現実世界でのゴタゴタに巻き込まれる中、様々な新しい情報を手にしたようだった。少なくとも遊んでいたいた訳ではないことを知り、WoFの世界のことや彼らがsしようとしている事への興味がなくなっていないようでホッとするミア。
都合がよければこちらへ戻るというシンに、こちらも丁度ひと段落ついたところだと返信し、いつでも戻ってきていいと伝える。
暫く現実世界とWoFの世界とで別れて行動していた彼らだったが、漸くここで合流する目処がついた。シンが戻って来れば、互いに話さなければならない事も多いだろう。
丁度ツバキの休息が必要となっている今、このタイミングでの合流は非常に好都合だったと言えよう。
「やっと帰ってくるのか・・・。ったく、どこから説明したモンかねぇ・・・。まぁ、ツクヨに任せるか」
ミアは横になってしまった身体を起こす気にはなれず、シンから届いたメッセージをツクヨへ添付し、一旦戻ってきてこちらの事情を説明してやって欲しいとメッセージを送り、考えるのが面倒になったミアはそのままソファーの上で眠りについた。




