施設の研究資料
レインコートを着た子供達を追って、ツバキは無人のオルレラの街を彷徨い、冷たい雨の中怪しい建物に辿り着く。
中は酷く荒らされており、誰もいないオルレラの街並みと同様に、照明もついていなかった。入り口付近の部屋には、何かの薬や病気、研究などの資料が散乱していた。
幾つかの資料を手に取ってみたツバキだったが、資料はその大半が既に解読出来ないほど破損していたり、酷い汚れによって潰されてしまっていた。
僅かに読めた文章の中に、子供がこの施設へ送られてきているという研究日誌のような物が見つかった。それによると、送られて来る子供は普通の子供とは違い、言葉が喋れず何事にも興味を示さない、まるで人形のような存在だったと記されていた。
それを読んでツバキの脳裏に過ぎったのは、この無人のオルレラの街で辿々しい言葉を話すレインコートを着た子供達の存在だった。
因果関係があるかどうかは分からないが、どうもこの施設に送られてくるという子供と、ここにいるレインコートを着た子供達が繋がっているのではないかと思えてしまったツバキは、その真相を探ると共に、どこか別世界のようになってしまったオルレラの街からの脱出方法を探る。
しかし、この研究施設らしき建物内には、死霊系のモンスターがおり、生身では戦闘を行えないツバキにとって、大きな脅威となっていた。
そんな折、何かの拍子に見つかってしまったツバキは、施設に残された薬品や器材を使い、何とかモンスターを追い払うも、再び現れた物理的な攻撃が通用しないモンスターに追い詰められてしまう。
危機的状況から彼を救ったのは、またしてもレインコートを着た子供達だった。何故彼らが助けてくれるのかは分からないが、如何やらこの研究施設で出会ったレインコートの子供達は、魔法が使えるようだった。
それも、僅かに使える程度などではなく、傷を瞬時に癒してしまう程、高度な魔法が使えた。ある程度鍛えた魔法使いの術レベルでは、到底出来ない芸当をやってのける子供達。
モンスターの注意を引き、ツバキから離れていったレインコートの子供とモンスター。彼らはツバキの通れない別の場所で戦闘を行なっていた。
魔法を使える彼らなら、死霊系のモンスターにも攻撃することができ、それが強力な魔法ともなれば苦戦することはないだろうと思われた。
だが、いくら強い魔法を放ててもその身体能力は子供のままなようで、素早い動きで攻撃を避けるモンスターに追い詰められてしまう。
命の恩人の危機に、ツバキは施設に散乱する道具を使い、自らガジェットを作成すると、故障して通れなかった扉を破壊し、見事窮地に陥るレインコートの子供を救出して見せたのだった。
身体能力を向上させるガジェットを装着し、施設で見つけた魔石を利用した擬似的なクラススキルを習得したツバキは、施設の地下の奥へと消えた子供を追い、施設で行われていた研究の深い闇を知っていく。
地下には、上の階層と同じく部屋がいくつもあったが、大きい部屋や小さい部屋などその広さはバラバラだった。当然、広い部屋には多くの機材や装置が残ってはいたが、その殆どが機能していない。
そして狭い部屋は書庫や倉庫といった用途で使われていたのだろうか、様々な道具や薬品、書類などがラックに収められていた。
幾つもある書類を確認する中でツバキの目を引いたのは、とある実験に関する記録と思われるものだった。
《被検体“イーダ“によるコールドスリープ実験を開始。他の被検体を凍結させ、肉体の状態を保ったまま生命を維持する事に成功。魔力の蓄積を確認。凍結状態にあっても魔力を収集する機能は失われない》
「何だ・・・?また実験か?何かを凍らせる実験・・・?」
《魔力蓄積機への接続、人為的に急激な魔力を被検体へ注入。成熟体では魔獣化がみられたものの、幼体においては耐性があるのか、想定通りの結果を確認。しかし、急激な魔力の投与は力を制御することができず、生命維持が不可能な状態となり死亡。死体は大量の魔力を帯びており、触れることが叶わなかった為、魔力を摘出後に廃棄。以降、段階的な実験をベースに、再度別の方法での完成を模索》
最初にツバキが読んだ書類よりも、更に実験的な内容が記されていた。如何やらこの記録を残し者は、一階で読んだ書類の作成者とは別人のようだった。
それに、被検体の名称についても違っている。単純に実験に行われた生物が違うのか、はたまた作成者やその研究チーム、実験内容によって名称が違うだけなのだろうか。
ともあれ、実験記録に記されていた“成熟体“や“幼体“といった表現から、生き物を使った魔力投与の実験が行われていたことは、確かなようだった。
そして、被検体“イーダ“というものは、物を凍らせる能力か機能を携えており、記録に記されるコールドスリープ実験の要だったようだ。
しかし、それ以降の実験記録や被検体と呼ばれる実験体がどうなったのかを記す書類は他に見つからず、それどころか真面に読めるものも少ない。
「生物実験をしていた施設・・・ってことか?何だってそんなことを・・・」
ツバキが施設の研究資料に目を通していると、奥の方から物音が聞こえてきた。そこで彼は、奥へ向かった子供達のことを思い出し、彼らを探して知っていることを聞くためにも、彼らを追いに戻る。




