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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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屍の方舟

シンが気がついた、シュトラールの違和感とは、ミアと同じく、彼もまたダブルクラスなのではないかということだった。


「そうかッ・・・。 今まで彼の強さに圧倒されて忘れていたけど、もう一つクラスに就いているのなら、これまでの異変にも説明がつくかもしれない・・・」


ダブルクラスとは、読んで字の如く二つのクラスに属していることだ。


例えばミアなら、ガンスリンガーと錬金術士というように、メイン火力のクラスに補助のクラスをつけることにより、弾の精製や特殊弾を作ったり、錬金術の四大元素やその土地特有の属性を引き出すことにより、属性攻撃が可能となる。


シュトラールのあの強さは、単純に聖騎士だけのものと考えるには、些か不明な点が多い。


「なら彼の・・・シュトラールのもう一つのクラスとは一体・・・? あの足技や握力の強さ・・・武術系のクラスだろうか・・・」


ツクヨを片手で持ち上げてしまうほどの握力に加え、ミアやイデアールを吹き飛ばしたように強烈な足技を持っていること、それに単純な身体能力の高さから、近接戦闘を得意とするクラスは、かなり有力な候補と言えるだろう。


「アイツ・・・、自分の影に何かしてたんだ・・・。 きっと俺の受けた攻撃は、奴の影に干渉したから食らってしまったんだと思う・・・」


「影に・・・?」


「あぁ・・・、影に何か呪術のようなスキルを使ったんだろう・・・。 呪術士や妖術士・・・魔術系のクラスだと俺は思う・・・」


シンの言う、影に何か細工をしていたということから、ツクヨもシュトラールのおかしな行動に、いくつか心当たりが思い浮かぶ。


剣技・昇竜を空中で食らう間際、彼は何かを懐から取り出し攻撃の範囲外に投げていたこと。


そして、遠くにいたミアを道場に引きづり出した時、札のようなものと人形の紙、そしてミアの銃弾を一箇所に集めて光を放っていたこと。


彼の中だけでは、それらで何のクラスであるのか特定するには、WoFの知識が少なすぎる為、シンに入り得た情報を開示するツクヨ。


「札・・・、そうッ! 君はキョンシーっていう中国のゾンビだか妖怪みたいなものを知ってるかい? アレに貼られているような、文字の沢山書いてある札や、人形にくり抜かれた紙を使ってた・・・。 これらで何か思い当たるものはあるかい?」


「札・・・それに人形の紙というのは、呪術でよく用いられる道具だ。 それに・・・影や対象の所有物・・・。 ッ・・・!!」


彼は何かを思い出したかのような表情をする。


「呪術士や妖術士といった可能性は捨てきれないが・・・、奴のもう一つのクラスは、“陰陽師”かもしれないッ・・・」


陰陽師とは、祈祷や占術、呪術などを用いて天災や禍を予知し祓ったり、対象に呪いをかけるなど、現実でも日本や中国などで実在したともいわれている。


WoFにおける陰陽師も、俗に言われる占術や呪術は勿論のこと、式神と呼ばれる鬼や霊魂、モンスターなどを使役する、召喚士に似た芸当もできる。


様々なことが行え、一見強力なクラスにも思えるがその反面、準備に時間がかかったり術に必要な道具があったり、式神に至ってはダメージが術者に返ってきたりなどデメリットも多く存在する。


「陰陽師・・・」


「その名の通り、陰と影・陽と光も扱えることから、俺の影を利用した呪術、それに聖騎士の光をより強力なものとすることだって可能だろう・・・。 それに城にいたって言う“空っぽの騎士”だって、奴による式神の一種とも考えられる」


シンに肩を貸しながら、何とかシャルロットとミアの元に辿り着くシンとツクヨ。


「二人ともッ! 大丈夫なの!?」


「私は大丈夫だが・・・シン君は・・・」


彼の腕を回し、肩から外すと、身体を支えながらシンを壁にかけ座らせる。


「どうだろうな・・・。 もう素早く動くことは出来ないかもしれない・・・。外傷の方は回復できるだろうが、ダメージは・・・」


「できる限りの対処はしてみます! 」


聖騎士であるシャルロットもまた、光属性の能力を扱えるようで、彼女が宿した力はヒール能力と言われる“回復”の力だった。


しかし、回復を専門とするクラス程の能力はなく、あくまで戦線復帰が可能なレベルまで体力を回復したり、ちょっとした補助効果の付与、状態異常の治療を少しできる程度で、彼女一人で全員を全快にすることは不可能だ。


「なぁ、シャルロット・・・。 シュトラールは、二つのクラスに就いていたりするのかい?」


彼女も聖騎士として任に就いていたであろうことから、何か情報を得られないだろうかと質問するツクヨだったが、彼女もシュトラールのことについては知らないが、可能性を高める情報は持っていた。


「分からない・・・。 多分、聖騎士の誰も彼のことは分からないと思うわ・・・。 でも、隊長の三人はそれぞれ、聖騎士とは別にもう一つクラスに就いているのは確かだわ」


「隊長達・・・」


それを聞き、今シュトラールと戦っているイデアールの方へ一度だけ目をやるシンとツクヨ。


「イデアールさんは“ランサー”、リーベさんは“狩人”、そしてシャーフは“侍”のクラスを持っていたはず・・・」


「それじゃぁシュトラールがダブルクラスであっても、不思議ではない・・・?」


シャルロットは頷く。


これによりシンの仮説が現実味を増していった。


「シン君・・・やはり、君の言った通り・・・」


「しかし・・・分かったところで、俺達にどうこう出来る相手だろうか・・・」


ツクヨもシャルロットも、彼の一言に言葉を失う。


シンの言ったことは最もなことで、彼らがシュトラールのクラスを知ったところで、それをどうにか出来る程の戦力が無いことは、誰の目にも明らかだった。


そんな彼らの側に、爆発でも起きたかのような音と勢いで、イデアールが外壁へと吹き飛ばされ、今度は光の剣の追い打ちにより、両腕を壁に貼り付けにされてしまう。


「ぐぁぁぁあああああッ!!」


瓦礫や土煙から頭を守るように、片腕で顔を覆っていたシャルロットが、彼の悲痛な叫びに声を上げる。


「イデアールさんッ!!」


すると、遠くの方でシュトラールがどこかに向かって歩いて行くと、何かを引っ張り出し、一行の元へそれを投げつけてきた。


「お前達が起死回生の奇跡を起こすのならば、誰よりも蘇生させなければならない奴がいるだろう・・・」


彼は、それが彼らの元へ落ちていくと、その表情を絶望のものへと変えるのを見て、口角をゆっくりと上げる。


「蘇生・・・できれば・・・、だがな」


彼の存在を未だ見ておらず、その絶望的な状態を知らない彼女は、そこで初めて恩師の姿を目の当たりにする。


それは、仲間たちを失い、共に剣術を学び兄妹のように育ってきた男に裏切られ、打ちのめされた彼女には、あまりにも残酷な仕打ち。


目の前で、冷たい肉塊へと変わり果て、生気を感じない人生の師にして、彼女に様々なものを見せてくれ与えてくれた、親同然の朝孝の信じられない姿に、自然と涙が溢れ止まらなかった。


「・・・せ・・・先・・・生・・・?」


ツクヨが彼女の心に深い傷を残すかもしれないと、何よりも危惧していたことを、シュトラールは意図的に再現してみせた。


大切なものを目の前で失う気持ちを、誰よりも痛く深く身に染みて理解していたツクヨは、まるでそれが自分のことのように、それまでの彼が理性的であったのが嘘のように感情を露わにして、怒りの咆哮を上げた。


「・・・シュトラールッ・・・・・貴様ぁぁあああッ!!!」


地面が陥没しひび割れるほど強い力で、まるでジェット機が真横を突き抜けていったかのような勢いで、抜刀しシュトラールへと斬りかかっていったツクヨ。


シュトラールは光の剣でそれを受け止めると、お互い鍔迫り合いの中で鋭い眼光をぶつけ合うと、シュトラールは自らの剣を蹴り上げ、ツクヨの剣を弾き、大気を巻き込むような回転から放たれる回し蹴りを、ツクヨの腹に打ち込む。


イデアールの時とは比べ物にならない勢いで、吹き飛ばされるツクヨは、別の剣を取り出し地面に突き刺して、勢いを殺そうとするが、多少スピードは落ちたものの剣の方が耐えられず折れてしまい、外壁を突き破る。


「いやぁぁぁあああああッ!!」


放心状態だったシャルロットが、現状の情報を整理しだし理解すると、目を覆いたくなる光景に頭を抱えて絶叫する。


「・・・シャ・・・シャルロット・・・」


壁に両腕を貼り付けにされているイデアールは、彼女の泣き叫ぶ姿に、自分の目指してきた正義や理想、大志はこのような者を一人でも多く救うためだと突き進んできたというのに、その正義を、光を、理想を魅せてくれた男が今、真逆の光景を魅せているいることに、誰かを信じ寄りかかった理想が所詮、虚像・偶像に過ぎなかった、ただ自分は利用されただけなのだと悟る。


叫び声に喉を枯らした彼女が、ゆっくりと立ち上がり、身につけた剣に手を伸ばす。


「貴方の正義とは、こういうことなの・・・? 気に入らないものを排除して、納得しないものを切り捨てて・・・、理解し得ない夢を抱くものを犠牲にして・・・。 これのどこにッ! こんな現実の先にッ!! どんな正義があるっていうのッ!!!」


剣を抜いたシャルロットが、シュトラールへ斬りかかるが、彼女の手を素手で弾き、その剣を奪うと、シュトラールはその剣で彼女を突き刺した。


「・・・あぁ・・・」


シュトラールは剣を突き刺したまま、己の正義と平和のあり方を答弁する。


「その通りだ。 我々の理想・・・黄金郷への航路と道を違えた者達とは、一生理解し合うことなどあり得ない。 そして、目的地の違う者達を舟に乗せることも出来ない。 我々は、その者達の犠牲・・・屍で舟を大きくし、先へと進む」


虚行く彼女の瞳をゆっくりと見つめるシュトラール。


「お前達の“死”が、ユスティーチを大きくし、より輝かしく正義への道を照らし出すのだ・・・」


「・・・嘘よ・・・、そんなの・・・あまりに・・・」


「真実の見えないものには、それが真実であるとは理解できまい・・・。 それがお前達の中にある“悪”だ・・・」


彼女の身体から剣を引き抜くシュトラールと、冷酷で残酷な茨の支えを失って崩れ落ちるシャルロットの光景が、まるで時がゆっくりと進んでいるかのように、その場にいた者達の目に痛烈に焼き付けられた。

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