大都市から来た研究員
ツクヨ達の姿を見つけた修復士の男は、目が合うや否や直ぐに彼らの元へと向かって来た。
研究の一環で修復もしているのだろうか、机に向かうタイプものを想像していたツクヨは、勝手なイメージだが修復士と聞いて細身の人間とばかり思っていたが、意外にもそこそこ逞しい体格の人物が現れた。
「アンタ達がアレを“片付けた“のかい?」
気さくに話しかけて来た男に、彼が何者なのか分からなかったツクヨはルーカスの表情を伺うと、彼も近づいて来る男が何者か把握している様子はなく、ツクヨの視線に気づき顔を向けると、分からないといった様子で首を傾けた。
「・・・アンタは?」
「あれぇ?誰かから聞いてない?俺が今回依頼を受けて呼ばれた、修復士の“ニコラ・アズナヴール“という」
名前を聞いても心当たりがないのか、ルーカスの表情は変わることなく、続けてニコラが何処から来たのかを尋ねると、男は隠すことなく聞かれたことに素直に答えた。
如何やら彼は、ツクヨ達の目指しているアークシティからやって来た研究員の一人のようで、錬金術を用いた修復を行うのだという。奇しくもジャンク屋でミアがやっているガラクタの修理と同じ方法であったのだ。
「そんな事より、如何やってあの魔物を退けた?生身の攻撃や程度の低い魔法では、歯が立たなかっただろう?」
聞く人間にとっては角の立つ言い方をするニコラという男。如何にも自分の興味のある事以外、どうでもいいといった態度にルーカスもツクヨも、あまりいい気はしないまま、モンスターとの戦闘について話した。
するとツクヨの持つ、首無しのモンスターが持つ硬度な防御力を打ち消す特殊な剣である、布都御魂剣に強い好奇心を駆り立てられたかのように食いついてきた。
「なるほど!そのような物を持っているのか!どれ、俺にも少し見せてはくれないか!?」
「おい・・・。済まないが我々も戦闘で疲れているんだ。安全も確保できた事だし、アンタは仕事に戻ったらどうだ?」
オルレラとアークシティの関係にも関わりそうな話で、返答に困っていたツクヨを庇うようにルーカスが遮った。
しかし、ニコラの熱意が冷める事はなく、ルーカスを避けながらしつこく要求してくる彼に押し負け、あまりルーカスにも迷惑は掛けられないと、ツクヨは布都御魂剣を取り出して見せた。
「ほう、これは興味深い形状をしている。もっと詳しく調べさせてほしい!君も一緒に私の作業場へ来てくれないか?」
「ニコラ!我々は別の依頼でだなッ・・・!」
声を荒立てるルーカスを呼び止め、ツクヨはこれ以上大事にはさせまいとニコラの要求に応じる。
大穴に埋められていた物の撤去作業を護衛するのは、ギルドに集まった他の冒険者達だけでも、余裕を持って行える。
そして何より、ツクヨ自身にもこの布都御魂剣という代物は、謎の深い物でありどんな物で作られどんな性質を有しているのか、いざ今回のようなこの剣に頼らざるを得ない状況になった時に、対応できるようにしておきたかった。
「いいのか?ツクヨ。何に使われるか、どのくらい掛かるか分かったものじゃないぞ?」
「大丈夫です。私自身、剣についてもっと知識を付けていれば、今回のようなヘマはしなかったと思います」
「ヘマだなんて、そんな事・・・。君がいなければ、我々はあの魔物を倒すことは出来なかった。それどころか、生きてこの場を離れることすら出来なかったかもしれん」
「買い被り過ぎですよ。それに・・・私も知りたいんです」
本人の要望ということもあり、それ以上ルーカスが何を言うこともなかった。それを待っていたニコラが、もう待てないといった様子でこちらの会話を聞いていた。
「もう話は済んだか?俺は直ぐにでも向かいたいんだがねぇ」
「あぁ、すみません。もう大丈夫です。それより、作業場とは何処に?ここのテントはあのモンスターに荒らされてしまっていたようですが・・・」
ツクヨ達がこの場に着いた時には、既に修復を行なっていたと思われるテントやその周辺は酷く荒らされていた。物は散乱し、大きな機械は火花を上げて形を変えてしまっていた。
こんな状況では、とても布都御魂剣の調査など行えそうにない。しかしニコラは慌てる様子もなく、先ほどまでとは打って変わり、酷く落ち着いた様子で別の場所へ移動する必要はないことを説明する。
「何を言う?そんな心配はいらんさ。壊れた物は俺が元通り直せる。この仮設された作業場も、直ぐに元通りにしてやる。何も問題はない」
そう言うとニコラは、直ぐにでも調査に入らせてくれと言わんばかりに、モンスターの現れたテントの方へ向かって歩き始めた。
その背後をついて行くツクヨに、自然とついて行くルーカス。しかし彼はギルドマスターとして、現場に戻らなくていいのかと心配になったツクヨは、自分の心配はいらないから任務へ戻るように伝える。
「それなら尚の事だ。君を時間内に連れ戻るのも、ギルドマスターの仕事だ。時が来れば力づくでもオルレラへ帰る。いいな?」
彼なりに心配してくれているのだろう。その意図を汲んだツクヨは、口角を上げて優しい表情になると、一度だけ首を縦に振った。




