繋がる機械
資料館にある新聞を、文字通り読み漁るミア。記事の中には、オルレラの街の設立や、物流による発展などといった聞いたことのあるような話が載っているばかりで、何かの研究をしていたなどの記事は見受けられない。
同時に、目立った事件などもこれといってミアの気を引くものはなかった。ただ、研究施設の設立や、そこで行われていた技術力の進化へ向けた実験内容や発明が載っていただけ。
そこに書かれていた記事には、黒い噂や怪しげな取引などの様子は載っていない。街の黒い噂の書かれた記事を、わざわざ残して保管しておくという話も、そもそもあまり聞くような事ではない。
余程、自分達の犯した過ちについて戒めていなければ、都合の悪い出来事は無かった事にされるのが世の常というものだ。このオルレラの街も、そういった国や街の一つに過ぎないのか。
夢中でかき集めた書類や記事に目を通していたミアは、すっかり日が暮れ始めている事にも気づかずにいた。
「そろそろ閉館のお時間です。片付けはこちらでやっておきますので、そろそろよろしいでしょうか?」
「ぁ・・・あぁすまない、もうそんな時間だったか。すぐ帰るよ。・・・それと、もしよければなんだが、また明日続きをしようと思ってるんだが、ここの書類関係をそのままにしておくのは可能か?」
「そうですねぇ・・・ご予約という形でスペースを確保しておく事はできるでしょうが、もしその中の書類に他の方がお望みの物があったら・・・」
「あぁ、それで構わない。兎に角、もうちょっとだけ調べたいんだ。じゃぁ予約という形で頼む」
「畏まりました。それではまた明日、お待ちしております」
「悪いね」
退館時刻となり、ミアは資料館を後にした。事件やニュース関連で調べるのは的外れかもしれない。そう思った彼女は、今度は街の功績として掲げられた記事について調べてみることにした。
何か見込みがあって、わざわざ研究の為だけの施設を用意したに違いない。ならば、オルレラならではの発明や発見があったとしてもおかしくない。
「また文字と睨めっこか・・・。今日は十分に睡眠を取っておこう」
エディ邸へ帰ってくると、既にツクヨもギルドのクエストから戻ってきており、パウラや使用人と共に夕食の準備をしていた。
「おかえりミア。今日はなんと!パウラさんが手料理を振る舞ってくれるんだ!」
「あぁ、ただいま。・・・すみません、寝るところ貸して頂いた上にお食事まで・・・」
「いいのよ、気にしないで。普段は主人と二人ですもの。たまには大人数で食卓を囲むのも良いじゃない」
快く受け入れてくれたエディとパウラには感謝しかない。現実世界ならまず有り得ない体験だ。見ず知らずの者とは、関わらないのが吉という風潮のある、ミア達の住む現実世界。
誰がどんなことを思い、どう動くか全く想像できない社会において、初めて会った人間を家に泊めるなど、絶対に有り得ないことだ。窃盗や殺人などの事件も多く、情報の流出や何か良からぬ物を取り付けられかねないリスクを負う事になる。
メリットなど何一つない。遠い昔の話では、知人や近所の人を家に泊めるのは当たり前で、玄関の鍵すら掛けない時代が会ったそうだ。それだけ当時は、周りとの信頼関係や協力があったのだろう。
WoFの世界、特に小さな村や町ではそういった文化をオマージュした背景がよく見られる。このオルレラにも、そういった風潮があるのかもしれない。
「ミアの方はどうだった?何か情報は得られたかい?」
「そうだな・・・。ジャンク屋で修理した物の中に興味深いものを見つけた」
「へぇ〜、どんな?」
「昔ここにあったっていう、研究施設についてのものだ。詳しくは分からなかったから、その後資料館へ行って、少しその辺りの事を調べてた」
ミアは特に何も隠す事なく、今日の出来事とそこで知り得た情報についてツクヨに話した。もしエディ夫妻が何か知っていれば、会話に入ってくるかと思ったが、どうやらそういった様子は今の所見受けられない。
「そうか。私の方は、朝エディさんに言われた通りギルドに行ったよ。そしたら今日は人が多くてね。何事かと思ったら、大規模なクエストが入ってたんだ」
「大規模?どんなだ?」
「オルレラの街近くに、大穴が発見されたっていうんで、そこの整地作業をモンスターから守るクエスト。穴には、鉄骨やら機械やらが大量に埋められていたんだ・・・何でだろう?」
埋められた機械と聞いて、妙な胸騒ぎがしたミアは、そこで見つかった機械がどんなものかをツクヨに尋ねる。機械に疎い彼は、そこまで興味を持って見ていた訳ではないので、何となくの想像と見たままの様子を彼女に伝える。
今日、ミアが新たに得た情報の中にも機械というものが密接に絡んできていた。機械の人形や骨の中に埋め込まれた機械。そして、その機械人形に搭載されていたカメラに捉えられていた映像記録から、一切情報のない研究施設についての謎が、気になってしょうがない。
やはり明日、研究施設で何が行われていたのか、何を目的に作られた施設なのか知りたくなったミアは、翌日もギルドで大穴の防衛クエストへ向かうというツクヨに、そこで見つかった機械についてもっと詳しく見てきて欲しいと頼んだ。
そして、あわよくば持って帰れる物があれば、是非ともジャンク屋にまで届けて欲しいと、協力を仰いだ。
そうしている内に、夕食の支度が整い、二人はエディ夫妻と共に食卓についた。
二日目の夜。今日もまた、ツバキが目を覚ますことはなかった。




