真偽
ミアはそのスタッフに、大会関係者やスポンサーの者達に謁見願えないだろうかと持ちかける。がだ、当然そんな話が通る筈もなかった。
「無理に決まってるじゃないですか!私はただの大会スタッフの一人ですよ?それに、スポンサーの方々の中には政府の人や、各国のお偉いさんもいるんです。王族ならともかく、誰とも知れない人が謁見出来る方々じゃないんですよ」
「おいおい、そりぁねぇだろぉ?こっちは、そのお偉いさん方が楽しんだ演目の出演者だぜ。それも、三大海賊達とも渡り合った、今注目の役者だ。それでも足りねぇと?」
実際のところ、フォリーキャナルレースの上位入賞は毎回と言っていいほど面子が変わらないとさえ言われていた。
そんな中、何処の海賊かも船乗りかも分からぬ、初出場の者達が三大海賊達と上位を争う健闘を見せたのは、レースを見に来ていたスポンサーや関係者、そして民衆の心を大いに盛り上げた。
極め付けは、ゴール直前のデッドヒートでキングやハオランらが乗っていた、ボード状の乗り物は各国の注目を集め、ツバキの元には製造依頼や専属の技師として引き取りたいという声が殺到した。
しかしツバキは、閉会式での演説後、ボードのレシピをエイヴリー海賊団に渡し、今度ウィリアム・ダンピアのところへ寄った際に届けて欲しいと頼んでいたのだ。
あのボードは、ウィリアム・ダンピアの元で造られた最初で最後の最高傑作だ。彼の元を離れたツバキは、一人の造船技師として“これから“出発をする。
だから“過去“の栄光に頼りたくない。それが小さな造船技師の決意であり信念でもあったのだろう。
ボードに使われていた素材は、元々エイヴリーが自身の船の増強と強化の為に持ってきた素材を拝借して造られたもの。ツバキ一人の力で造られたものではなかったのだと、あれは自分の作品だが、一人の物ではないというのが、ツバキの中で大きかったのだ。
「兎に角!私に言われても困ります。作業が残ってますのでこれで・・・」
「あっ!ちょっと!・・・ったく」
逃げるようにミアの元を立ち去っていく大会のスタッフ。他に話が聞けそうな心当たりといえば、シー・ギャングを率いる裏社会の重鎮“キング“だ。
ミアはグラン・ヴァーグの酒場で彼と直接会っている。それにキングはシンとミアのことを気に入ってくれていた。話の通じる彼であれば、ミアの声に耳を傾けてくれるかも知れない。
それに裏社会の情報に詳しい彼ならば、開会式での記憶の他に、黒いコートの男に関して何か情報を持っている可能性がある。彼らとて、シン達の存在は気になっている筈。
だからこそ、見ず知らずのシン達にあの酒場で絡んで来たのだろう。聖都ユスティーチでの騒動が、WoFの世界でも大きなニュースとして取り上げられており、キングはその中心人物となっていたのがシン達なのではないかと疑っていた。
「クソッ・・・。仕方がない、シー・ギャングの連中でも探してみるか」
ミアはその後、会場周辺を散策しながら数軒の店を探り、シー・ギャングの構成員を探した。しかし、ツクヨが街を情報を集めながら歩き回っていた時より、だいぶ時間が経ってしまっていた為か、それらしい人物を見つけることが出来ずにいた。
最後に船が停泊してある港へと足を運んだミア。するとそこで、シー・ギャングの幹部でもある、炎の魔術師こと、ジャウカーンが物資を自身の船に積み込んでいるところを見かける。
「あれは、キングんところの・・・」
漸く見つけた情報源に、ミアは飛びつくように彼の元へ走る。そしてツクヨが言っていたことが本当なのか、自身の目と耳で確かめる為、黒いコートの男について彼に尋ねた。




